第3話 持つものは出来た姉だね!

「ねぇねぇ加奈」


 横で俺達のじゃれあいを見ていた水瀬は、加奈の袖をクイっと引っ張る。


「ん、どしたの?」


「あのさ、助けてもらったわけだし、お礼とか何かしてあげないと」


「確かに! 救世主には何かお礼してあげないと!」


「いやいやお礼なんていいから」


 思いもしなかった水瀬の言葉に、俺は動揺してしまう。

 別に何か見返りを求めてやったわけではないし、ただの俺のへなちょこの善意が働いただけだ。


「何がいいんだろ~。壮馬が喜びそうなものかぁ~」


「だから別に要らないって――」


「ご飯連れてってあげるとか、何か好きなもの買ってあげるとかがいいのかな?」


「あのー、聞いてます?」


「壮馬お肉好きだから焼肉食べ放題とか! 私も焼肉食べたいし~」


「お肉かぁ……太らないといいけど……」


「……ダメだこりゃ」


 完全に俺を無視して2人の世界に入ってやがる。

 焼肉食べ放題を奢られるのは嬉しいが、それなら誕生日とかにして欲しい。

 今日は、早く家に帰りたい気持ちが強いからな。


 どれもこれも、全部濡れたパンツのせいだけどな……


「壮馬! 焼肉行こ!」


 俺の腕をぎゅっと掴むと、加奈はキラキラとした目を向けてくる。


「ホントに何もしなくていいって」


「それはダメ。私たち水内家は恩は返すのが家訓だからね」


「なんて律儀な家庭なこと」


「壮馬さん、どうかお礼させてください! あなたがあの場に居なかったら、今頃私たちどうなってるか分からなかったので……」


「水瀬さんまで……」


 2人にこうも言われてしまうと、断る俺が逆に悪役みたいになってしまう。それに、厚意は受け取って損はない。交友関係をより深めるいい機会なのかもしれない。

 そう思った俺は、


「分かった、行くよ」


 今にも俺を引きずって連れて行こうとする加奈を抑えながら言う。


「よっっしゃそうこなくっちゃ!」


「でも、もうお昼の時間過ぎてるのにお店あるのか?」


 時刻は午後2時を回っている。ランチタイムは終わっている時間帯だろう。


「あぁ~確かにそうかもしれない」


 頬をさすりながら唸る加奈の横で、


「お店、近くまだやってる場所あったよ」


 と、水瀬はスマホの画面を見せてくる。


「流っ石お姉ちゃん! やっぱ持つものは出来た姉だね~」


「ホント、出来た姉だな……」


 どうしようかと悩んでる横で、迷わずスッとスマホを出して調べる水瀬。

 大まかなところは似ているこの姉妹だが、似ていない部分もあるんだな。


 おしとやかで冷静で、元気とコミュ力だけ一丁前の妹とは大違いだ。


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