呼ばれた理由2

 見覚えのある天蓋付きベッドの上、積まれたクッションの中で目が覚めたニーナの視線の先に、心配そうなライサと見知らぬ金髪碧眼のいかつい兄さんの顔があった。


(だれだ?!)


 ニーナが目を覚ますなりビクッとしたことで悟ったらしい金髪の兄さんが名乗った。


「俺はヴァルナル・ハーゼンバイン。この西塔の…いや、さっきからずっといた鎧だよ」


 見回してみると扉前の鎧がいた場所に兜だけが置いてあった。

 なるほど、確かに鎧に覗き込まれるより素顔の方がニーナが受けるショックは少ない……のかな?


「お気遣いどうも……」


 ニーナが礼を言うのをヴァルナルが遮る。


「嬢ちゃんが謝る必要は全くない。謝るべきは俺たちや、無能な王の方だ。何だよ、その召喚って!! こんな幼子を連れてきて何させる気だっ!!」


 おやおや、金髪兄さんの発言に不穏な気配がしているんだが? という目でニーナはライサの方をみる。


「現国王アレクシス・ロベルト・イェルハルド・カールフェルト陛下は魔術師としては最下級程度の能力しか有しておられないので……。弱体化してもここは魔法王国ですから、身分よりも魔力で格が決まってしまう気風が根強いのですよ」

「ん?ああ、俺は貴族子弟で構成されるお上品な近衛騎士と違って、寄せ集めの騎兵団員だからな。ここで何を言っても国王の耳には入らないし、だいたい忠誠心なんて高尚なものは持ち合わせてない!」


 こんなに言いたい放題で、二人とも不敬罪とか反逆罪とかに問われないのだろうかと訝しむニーナを、あはははとヴァルナルは豪快に笑い飛ばした。


「あなたは護国の要、ハーゼンバイン辺境伯のご令息でしょう」

「そういう君は魔法王国の重鎮、ノシュテット侯爵のご令嬢じゃないか」


 ライサがため息交じりに諫めるとヴァルナルが言い返す。


「ッ……実家のことはお互いに言わないことにしましょうか」


(あれ? この貞淑で誠実そうなご令嬢から舌打ちが聞こえたような……?)


「……失礼しました。さて、他に私どもにお聞ききになりたいことはありますか?」


 ニーナにはさっきのヴァルナルの発言に引っかかる点がもうひとつあった。


「さっき幼子って言われたようだけど、私はいくつくらいに思われてるの? これでも12歳よ」


 ニーナは現代日本人の平均からみてもかなり小柄で、身長順で並んだ場合の先頭を小学校六年間キープし続けていたし、入学式に行くのだって制服姿なのに小児料金でいいとバスの運転手に言われたほどだ。小学生に間違えられることは仕方がないが、さすがに幼子ってのはちょっと、ね? と思うのだが。


「はああああ!? 12歳!? ありえない!!!!! よくて7歳ぐらいだと思ってた!!!」


(はい、こちらはヴァルナルさんですね。で、ライサさんの方も目を見開いて口を押えているから、かろうじて叫ぶのを堪えた感じか。でも、年齢に関しては同じように思ってたな……)


「まあ日本人は幼く見られがちだし、その中でも特に小さい方だから、あの、うん、あは、慣れてます……」


 いや、違うって、大丈夫だって、と必死で取り繕うヴァルナルと落ち込むニーナをなんともいえない目でライサが見つめていた。


「では、改めまして。他に私どもにお聞ききになりたいことはありますか?」


 にっこり微笑むライサとすっかり打ち解けてどこかから丸椅子を持ってきて座り込むヴァルナル。ニーナが聞きたいことといえば……。


「私が寝ぼけていたんじゃなければ、2回ほどそこの窓から転落してると思うんだけど、どうして無事なの?」


 それがなければニーナも夢だと勘違いしなかったはずだ。


「やはり窓からでしたか。開いていましたので下も確認しましたが、見当たらなかったのですよ。城中探した結果、召喚の魔法陣があったらしい場所に倒れていたのです。説明されても理解ができないとは思いますが、いえ、こう話している私自身も納得できている訳ではないのですが、消えかけた魔法陣から読み取れた式から推察すると、召喚された者が著しい肉体の損傷を受けた場合、その直前の状態へ巻き戻して再召喚しているのではないか、と……」

「ライサが錯乱して窓から逃げようとしているんじゃないかって言うから、取り急ぎ鉄格子をつけさせてもらったけどよ。この塔の下は湖で、高さ的に落ちれば即死は免れんから、俺は有り得ないと思ってたんだがなあ。しかし、どんな魔法で姿を消しているのかと思えば、まさかそんなおとぎ話みたいなことが起こってるとは……。うん、俺にはさっぱりわからん!」


(はい? ここでまさかの死に戻り仕様!? それはベリーハードなんじゃないのっ?!)


 ありがちな脱出系ホラーより質が悪い現実に、ニーナの意識は再びブラックアウトした。

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