詩歌ごった煮
Slick
詩歌どものゴミ山
激情の赴くままに筆取りし 一気呵成の押し花を見よ
夕暮れ
その夕、港町を歩きたるに
その折、ひゅうと一陣の風吹きて
その手、我が帽子を追い 長髪の彼は海へ飛び
その帽子は潮に浮かぶも 彼は浮かばず果てぬ
思えば、浮かばれぬ生
今夕も西日の傾く それは不変なる
日輪の目 我が涙に重なしり翳
殆ど忘れたりし後悔が
うっすら耳に囁くのみ......
少年少女
卵嚢よりとめどなく溢れ出す
子ら、子ら、子ら......
同じ黑瞳、同じ爪、同じ体節
あまねく等価なる命
亦た等価なる量産の魂
狩人とて 幼さは弱さ
一人の覇者を生むべく
千の贄を献ぐため
今朝も少年少女を吐き出す
あはれなる蟷螂の新生児らは
己が命運も知らぬまま
続々と盲流し……
蜘蛛の巣へと堕ちていった
怪物のたまご
怪物のたまごはどこにある?
探す限りは見つからない
夜を喰らってく怪物の 巧みに隠れた産卵場
ちょうど小賢しいゴキブリが 段ボールに卵を産むように
黒い怪物は高層ビルの 明かりに卵を産み付ける
そっと卵を産み付ける
それは暗号鍵となり
それは誰しも心の中に
それは仄暗い嫉妬の底に
それはねじれた僖びの奥に
ドクドク蠢く胎動は 殻の割れる刻をじっと待っているのだ
スノーマン
君はスノーマン 一緒に遊んだ筈なのに
白銀世界の思い出は 儚く世を去る定めなの?
ハグの温もりが君を犯し 崩れた笑みで倒れゆく
その悲しさに耐えられなくて ぎゅっと粉雪を握りしめた
交わした会話は独り言? 深く冷たい体が
泣きはらした私を抱きしめて そっとまぶたを冷やしてくれた
アイスの微笑を投げ掛ける 君がひたすら嬉しかったのに
あれから何年経ったかな 今宵も白雪の衣替え
君のためなら今だって この銀世界を探しに行こう
遠い約束が待ってるから きっとまた会えるその日まで
あの日描いた君の姿は
この雪のどこかに 今も埋まってるはずだから
自虐之恋詩
どうしたって
嫌いだって
そう言われたって
良いんだって
目に入るたび感じるは
ひそやかな震えと畏れ
畏敬と恐怖がカサコソ募る
血管に冷却剤を投与されたように
凍る心拍、熱の失せる四肢
あの恋は敬愛へ、そして恐怖へと姿を変え
あの人の影が私を踏む、その苦しさにまた怯える
でも好きだって、一思いに
伝えられる訳もなく
いっそ嫌いだって、一突きに
刺されたほうが楽な筈なのに
くぅ、痛い
痛いのです
痛い、でも
愚かに軋む胸を恥じ
握る手は惨めに震えて
泥沼に沈みゆく指の合間から
背を向けたあの人を夢に見ます
その美しいうなじは ずっと遠いままなのです
被食者
清艶なる水蟷螂(ミズカマキリ)の翳や
その腕(かいな)にかき抱かれ
私は死の淵で快楽の幻を見る
嗚呼、このまばゆくあるべき想いさえ
煩いに貶めし我が愚かさ
崩れゆく心中、はらと滂沱の涙を流す
ひたすら高鳴る胸さえも
いつかは喰われてしまうのか……
交際
”付き合い”ってなんでしょう?
僕は言いました ”付き合いたい” と
あなたは言いました ”まずはお付き合いからはじめませんか?”
”付く”ってなんでしょう?
魅力に気付く?
想いに火が付く?
体がくっ付く?
いいえ、たぶん......
どうやら僕は、ツキが無いようです
近くに居られるだけで 心臓が弾けるくらい嬉しいのに
それはもう、あの方のお墨付きなのでしょうか
策士
妖艶なる指先の交差 重ねたグラスに二重奏
少し高めの喉仏と 計算され尽くした流し目に
ただ見とれる訳もなく
二人きりだと 少し変わる語尾とトーン
その暗号鍵に さも絆されたふりをして
ナイフとフォークで 刺し違えようとでも言うのか
切れ長の瞳が放つ警告に 悠然とナプキンで口元を隠した
あぁ、この晩餐さえ
腹黒さに一滴の白を垂らせば
鮮やかに輝き出すと思わないかい?
狂想曲(カプリッチオ)
彼女の夢を見た
一回目は 五人グループの中で
僕らは喋りながら登山していた
なんでや?
二回目は 君と二人きりで
君の手を取って告白すると
フルフルと顔を赤らめ頷いてくれた
三回目は 学校の放送室で
制服の前をはだけた君は
下に何も着けてなかった
四回目は 巨大な講堂で
雑踏のなか声を掛けようとしたが
君はプツリと消えてしまった
そして
五回目に僕は 橋を歩いていた
対岸を君が渡っていて
その手は別の男に握られてた
僕よりずっと、ハンサムで高身長
遠くマスク越しにさえ
君の嬉しそうな様子が感じ取られて
その温もりが今は堪らなく遠いから
僕は橋から身を投げた
でも
いつまで経っても水面に着かないんだ
最後に耳に届いたのは
いっそ清々しいほどの
引き裂くような君の哄笑だった
崩壊
その刹那、君の顔が滲んだ
目に入るのは君でなく
煌めく化粧のスパイダーマスクか?
唯一剝き出しの黒き瞳さえ
何も語りはしないのに
私が投げる愛の言葉は
無機質な返事にエコーする
どぎつい赤がぱっくり裂けようと
紡がれる声は脚本通り
あぁ、私は物言わぬ人形を愛しているのか?
この想いさえ噓になるならば
恋が、崩れる――
そんな夢を見た
君が素直で、化粧っ気がなくて良かった
なぜなら
君が化粧を見せる相手は 私のほかにいるから......
誘導尋問
“彼のどこが好きですか?”
“はい、優しいところが好きです”
“では彼が冷たくなったら好きでなくなるのですね”
“いえ......やっぱりハンサムなところが好きです”
“では彼が顔に大火傷を負ったら好きでなくなるのですね”
“いえ......思えば色っぽいところが好きです”
“では彼が年を取ったら好きでなくなるのですね”
“......”
“もう一度訊きます、彼のどこが好きですか?”
“......教えてください、彼のどこを好きになればいいですか?”
陽気なる狂叫
おぉ、全くどうすりゃ上手く行くかね?
筆を折ったのも何度目か、いや本当の話さ
こればかりは帝王になった気で挑まなきゃ
砂時計の迷宮に凝っちまうぜ、格子はキンキンあざ笑う
(供物はラムネ瓶か? さっから頭痛の嵐ってのに!)
おぉ死屍累々、阿鼻叫喚の飢餓道よ
知的な眼球が紙面からヌラヌラ此岸を睨むが
いくら喚けど蜘蛛の糸は垂れてこない
怪しい夜光雲がギラギラ叫ぶだけで
もう嬉し涙にむせぶんだが、いっそ苦しみに溺れちまいな
(馬鹿野郎! そいつは女郎蜘蛛の糸だぜ、触っちゃぁいけない)
あぁ、何の話だったかな? 俺が相手取ってんのは
二次で三次に挑む錬金術、叡智の結晶よ万雷の拍手に
トチ狂ってんのは俺だけか、はたまた俺をハブった全世界だ?
乾杯しようぜ、ヨウ化カリウムとダンス・マブカルに!
(文句あんなら一遍こっち来い、俺と同じ凡人ヅラめ)
おぉ、誰か見事なスフィアを四つほど
それにキューブ一つを恵みやがれ
それで全部、あっさり片付くはずだから
そろそろ飽きたか? ちくしょう、ブルジョワめ
(もう一本貢げよ、もうラムネ瓶でも何でもござれ)
つまりこういうことってな
結晶格子ってぇ奴は、まさに狂えるラビリンスよ
今宵は愉快な葬儀場、貴様に先立つは俺か理論科学か
学者肌のお前は、良いから黙って俺の話を聞け!
コイツラで世界が出来てるなんて信じられっか、え?
グラスの眼をパーッと開けてみやがれってんだ
あ、そっか
だから世界も静かに狂ってんだな!
墓標
一家は逃げていた
神の怒りの鉄槌から
嘘と不徳の蔓延る町
死の海とはよく謡いしもの
だが親しき者を振り捨てた
その罪の心はあるようで
振り向いたゆえ 塩の柱となった
嗚呼、なんという悲劇かな
硫黄が爆ぜる町の墓標
汗をかく女の死に様は
神ならぬ原子の光に怯える我らに
一体何を語るだろうか?
機械じかけ
ささやかな24時間営業 電波時計とメリーゴーランドの唄
冷たい鼓動はチクタク 誰の為もなく虚しいワルツ
カシン
小銭が余った革財布や 緑の箱とアルミ玉の共演
電気の缶詰め片たちは 安い音立て降り積もる
カシン
まばたきする街灯 血の滴る刃に涙を零す
愛してるとの叫びさえ 自分にも嘘らしく響くから
カシン
砂城の日常が崩れた日
確かに恋してた筈なのに
カシン
川を遡るエイ群の影が 目指す先にはアルミ製錬所
眩い明かりが煌々と叫ぶ 美しさとは言葉の綾よ
カシン
滾るAl3+の子らは 己が運命を知っているのか
この胸一つ抑えきれないのに 皮肉なシンクロが絶叫を呼ぶ
カシン
夢々の舞踏会 星空を縫うは血色の流星
ネオンの光に魅せられて 凍る真空に涙する
カシン――
さぁ、最終章の幕開けだ
役者は揃った、あとは舞台幕が焼け落ちるのを待つのみ
機械仕掛けな不条理のバネは張り詰めた
いざ、ダンス・マブカルを始めようじゃないか
愚者
ネットで彼女の名を検索した
ヒットが出たことに驚いた
どうやら部活の情報誌、何と御立派か
俺には何も無いのに
でも
いつか、なってみせるよ
誰もが恐れ、敬い、ひれ伏すような
そんな大作家になってみせる
その日まで、俺はただひれ伏し跪くのみか……
短歌
<異世界の住人たち>と銘打たるサーカス裏の肉体労働者
恋心 霙のように溶けきれず今日も今日とて白息を吐く
大事故で石油が海に流るれば かのGODZILLAでも窒息するか
帰省(短歌)
歩廊へと急ぐ刹那に胸騒ぐ 見慣れた塾の大文字でエヌ
トンネルに入るる間際の車窓よりふと目の合いしタヌキ一家や
つばめ号 隣に掛けし若紳士のサンドイッチ香に腹は高鳴る
車窓よりすみれに染まる地平の目 透けるは我の詩作の横顔
若紳士よ その小説の結末を我は知りたり ゆえ交わらず
唐突にまぶしさ覚え夢破(や)れば通過駅ではオールナイトか
しみじみと受験を憂い見し夜景 あぁ我が里はかくも華やか
来し五年この看板を見るたびに我実感す ここは福岡
詩歌ごった煮 Slick @501212VAT
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