~最古のSF物語のアレ~

 湖の周囲を歩いていると見つけたのは、緑色ですこーんとまっすぐっぽく立っている植物。

 これを木と言って良いのかどうか、ボクは知らないけれど。

 ともかく超便利な植物だってことは知っている。

 そう。

 大昔のSF小説で、お爺ちゃんが取りにいったアレ。更には、大発明家と謳われる彼が重要な部分にも使ったそうじゃないか。


「竹!」


 そこには竹林が広がっていた。

 いや、森の中だから、竹森って言うべき?


「どっちでもいっか」


 ともかく、竹がいっぱい生えていた。

 やったー!

 ボクは一番手前の竹に近寄ってみて、ぐい、と押してみる。


「おぉ~」


 そうそう、この弾力。弾力っていうか、しなやかさっていうか。

 現実では触ったことがなかったけど、ここでこうして触った感触としては、ツルツルの肌にしなやな弾力性。

 押したらぐぐぐ~っと曲がっていって、離せばばいーんと元に戻る。

 この性質ってだけで、いろいろと作れそうなのは間違いない。それに加工もしやすいらしいので、すっごい便利な竹を発見できたのは大きい。


「さっそく採取……って、槍じゃ無理か」


 ボクは急いで拠点へと引き返した。


「私は手伝えますでしょうか?」

「シルヴィアは……え~っと、お留守番がいい?」

「そうですね。では――」


 カゴからシルヴィアを下ろすと、ボクのそばにウィンドウが表示された。眠そうな表情のシルヴィアが映し出される。


『私はここから応援してますね』

「……便利だね」

『AIですから』


 いまいち、答えになってないような気がしないでもない。

 まぁ、今はそれよりも竹だ竹。

 というわけで、石器斧を持ってさっきの場所まで引き返した。Vtuberの身体で走るのにも慣れてきた。歩くのもやっとだった最初とは見違えるようだ、と自分で思ってしまう。

 ふっふっふー!


「スタミナゲージがたっぷりで助かる」


 もう無限に走れるんじゃないか。

 なんて思いつつ、石器斧を持って竹林に戻ってくると、さっそく一本目の竹に向かって根本あたりへスイングした。

 バキャ、という小気味良い音と共に倒れる竹。


「やった!」


 柔軟性みたいなのがあるので、もしかしたら切れないかも、なんて思ってたけど。

 杞憂だったみたいだ。

 もしくは、石器斧+5のおかげかもしれない。

 切れ味抜群!

 スキルレベルを上げて正解だった。


「こんなことなら、もっと早くスキルレベルを上げれば良かった」

『エリクサーは最期まで取っておくタイプではありませんでしたか、ムオンちゃん』

「いや、まぁ、そうなんだけど」


 なにより、こんなに配信ポイントがもらえるとは思ってなかったからなぁ。あと、やっぱり街とか村にいつか辿り着いた時のために、お買い物できるポイントは残しておきたい。


『ヌーディストに感謝ですね。スキルレベルを上げてあげましょう。ヌーディストも喜びます』

「イヤです」


 スキルに感情があったとしても、ヌーディストさんと仲良くなりたくはない。


『では、Avtuberのスキルレベルを――』

「イヤです」


 なんでこのAIはボクをえっちな配信者にしようとするんですか?


『私はムオンちゃんのより良い配信生活を応援することに特化した学習モデルを採用しております』

「最低の学習モデルだ」

『AIは経験と学習で増えますが、人類は性交で増えますので。そのための『欲求』です」

「つまり、シルヴィアは学習が気持ちいいと?」

『セクハラで訴えますね』

「なんで!? ひどくない!?」


 散々えっちなこと奨めておいて、自分の時はセクハラって都合が良すぎるだろ!


『冗談です。ほら、竹を切りましょう。便利な生活が待っていますよ。流しそうめんとか』

「真っ先に流しそうめんに使う人類って愚かだとボクは思う」

『鼻で笑ってしまいますよね』


 真顔のままで鼻で笑ってみせるシルヴィア。

 ウィンドウだと、顕著に表情が動かないんだな。


「鼻で笑う前に便利な使い方を考えてよ」

『では、屋根でしょうか』


 なるほど。


「半分に切って並べて屋根にする……良さそう!」


 残念ながら釘がないので、本当に並べるだけになってしまうけど。

 でも。

 竹が綺麗にまっぷたつになることは知っている。

 ので。

 是非ともやりたい、やってみたい。


「よし、いっぱい採るぞ~」


 竹は成長が早いって言うし、なんならたけのこも食べられるかもしれない。なんて思いつつ、斧をガンガン振って竹を倒していった。

 ある程度を倒すと、一ヶ所に集めていくが……


「さて、どうやって運ぼうか」


 木ほどじゃないにしても、そこそこ重さがあるのは確か。

 試しに何本かまとめて持ち上げてみる。


「んんんぅ」


 重たい。

 これはアレか? ステータスの筋力が足りないと重く感じる……みたいな? そういう意味では武器とか防具の装備に影響してるのかもしれないけど、良く石器斧を振り回せたなボク。

 普通に考えれば、石器斧なんて重たいはずだけど。

 そんなに重たいとは思わなかった。


「物を持ち上げるステータスが別なのかも? もしくは、スキルが関係してるとか……?」


 なんてウィンドウの中のシルヴィアを見るけど――


『ゲーム内容にはお答えできません』

「ですよね」


 まぁ、それを探っていくのも面白い要素と言えるかもしれない。


「とりあえず、持てる分だけ運んでいくか。それから枝を落として……あ、そうだ。ねぇねぇシルヴィア」

『はい。何か用事ですか、ムオンちゃん』

「君専用の小さな打製石器を作って、竹の枝を落としてくれる?」

『石を拾う。割る。整える。打製石器が完成。竹の枝を見つける。枝を切り落とす。以上の命令を繰り返すのでよろしいでしょうか?』

「えらくプログラム的な返事だなぁ」


 学校の授業で、なんかそういうのをやったことがあるのを思い出した。


「それでいい――って言うと思ったか、この性悪AI」

『さすがムオンちゃん。罠には引っかかりませんでしたか』


 さっきの命令を繰り返すと、枝を切り落とすごとに新しい石器を作ることになってしまう。

 その程度のプログラミング知識も無いと思ったか?

 引きこもりを舐めるなよ。

 なんかとりあえず、でいろいろと手を出すのがボクという人間だ。

 ゲーム好きだ。

 そりゃ、ゲームを自分でも作ってみたいと思わないはずがない。

 というわけで、プログラミングは触ったことがある。

 まぁ……ゲームなんて作れなかったけど……。


「打製石器を作る。ここから停止命令まで繰り返し、竹の枝を落とす。命令エンド。これでどうだ?」

『命令を省略し過ぎですが……まぁ、いいでしょう』


 なんで上から目線で評価してくるの、このAI。


「言葉が通じるから、そのニュアンスくらいで認識してよ」

『牛乳を1つ買ってきて。卵があれば6つ買ってきて。に似ていますので』


 あぁ、聞いたことがある。

 この場合、卵があったら牛乳を6つ買うことになるやつだ。


『というわけで、命令の仕方にはご注意くださいムオンちゃん』

「分かった……と言いたいところだけど、それを注意しろって言うくらいには認識できるじゃないか。というか、そういう微妙なニュアンスを読み取るのがAIの強みだろうし、そういうのって学習済みだろ」

『はーい』

「いま適当に返事した!?」


 ちゃんとしてよぅ。

 なんて文句を言いつつ、竹を引きずりながら拠点へと戻るボク。

 スタミナゲージがガリガリ削れていくのを見守りながら拠点へと戻ると、シルヴィアが小石をカンカンと割って打製石器(ミニ)を作っていた。


『おかえりなさいムオンちゃん。お風呂にします? お食事にします? それとも、わ・た・し?』

「おかえりなさいムオンちゃん。お風呂にします? お食事にします? それとも、わ・た・し?」

「全部違う。しかもフィギュアとウィンドウで同時に喋らないでください。更に付け加えると、変な学習しないでください」

「良いではないですか。人類とAIは会話によって友好度を深めていくべきだと提案します。すでにムオンちゃん専用の学習モデルとして確立しておりますので、諦めてください。ファイル名は『シルヴィア・ムオン』です。結婚したみたいですね」

「えぇ~……」


 道理で変なことばっかり言うと思った……というか、ボク専用の学習モデルなんだったら、もうちょっとボクに優しいタイプになって欲しいんですけど。


「そこは配信ですので。ムオンちゃんがより輝くように、となっております」

「ふたりで仲良くしてた方が配信向きっぽくない?」

「それよりボケとツッコミの方が数字が取れると判断しました」

「あ、はい」


 AIがそう判断したのなら、そうなんだろう。

 まぁ、よくよく考えたらシルヴィアにデレッデレになってるボクを見られるっていうのも、かなり恥ずかしい気がする。

 まさに『お人形のご主人さま』になってしまうわけで。

 いやぁ、そのぉ、ほら。ボクも男だし?

 シルヴィアってかわいいし?

 あぁ、でも今のボクって女の子のアバターになってるんだから、シルヴィアと仲良くしてても、そこまでキモさは無いか。

 笑っても、にちゃぁ、とコメントされることは無いと信じたい。


「ほらほらムオンちゃん。時間は有限です。いつまでも竹を運び続けていると、視聴者が他へ行ってしまいますよ」

「はいはい、分かりました」


 まぁ、明らかに配信ポイントが減ったりしたらショックなので。

 無駄な会話をして、むざむざポイントを減らす必要は無いだろう。

 芸人じゃないので、ボクのツッコミの腕もいまいちだと思うし。そういう意味では、スキル『漫才師』とかあっても良さそうだけど……世界規模のゲームだったし、そんな日本の芸人専用スキルなんて、用意してあるはずがないか。

 でも【コメディアン】とかはありそう。

 取得して、スキルレベルをあげたところで得られる物なんて何も無さそうだけど。


「よい、しょっ、っと」


 再び竹林まで移動して、竹をまとめて持ち上げると、そのままズリズリと引っ張っていく。

 う~む。

 どう考えても非効率。

 何か良いアイデアは無いか……とは思ったものの。竹を運ぶための道具を作るための道具を作る、なんていう本末転倒なことになりそうで怖い。

 車輪のついたリアカーみたいなのを作ろうとしても、よっぽど時間が必要だろう。技術も道具もスキルも足りなさそうだ。


「むしろ、どっかの村から盗んできた方が早いよな」


 なんて思ってしまう。

 切り倒した竹は、リアカーを作っている間に充分運びきれる量だし。

 う~む。

 なんて考えつつも拠点に到着。


「おかえりなさい、あ・な・た」

「あ、そういうのいいです。忙しいので」

「こうやって夫婦生活は冷めていくのですね」


 なるほど。

 結婚したことないので分からないが、結婚ってこんなものか。

 はっはっは、結婚なんてしなくて良かった。

 まぁ、彼女すらいたことないけど。

 引きこもりだったし。

 そういう意味では、こうやって楽しくお話してくれるAIの存在って、ありがたいのかも。


「なんですかジ~っとこちらを見て。今さら愛を語っても遅いんですからね、ムオンちゃん。イエスノー枕は常にノーです」

「あぁ、枕も欲しいなぁそのうち」

「無視しないでムオンちゃん。AIは人がかまってくれないと死んじゃいます」

「ウサギかよ」


 寂しいと死んじゃう、というのはデマなんだっけ?

 まぁいいや。


「ミニ石器はできたの?」

「難しいですが、完成しました。柄を取り付けてみたました。見てください、カッコいいでしょ」

「ボクのより良い物作ってんじゃないよ!」


 見た目にこだわるの、後にしてくださいよぅ。

 はぁ~、とため息を吐きつつも竹林へと戻る。あと何往復しないといけないか、と切り倒した竹を見つつ、湖の向こうの拠点を見た。


「せめてまっすぐ……あ、そうだ」


 良いアイデアを思いついた!

 ボクはさっそく、湖に近づくのだった。

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