~森の探索~

 翌日。


「んは~」


 朝から黒貝のだし汁と魚を焼いて食べる。

 魚ひとつだったのが、汁物も加わったのでなんとも豪華な気がしてきた。


「これでお米があれば言う事ないんだけど」


 森の中でお米なんか手に入るわけもなく。ましてや、お米というか稲とかを見つけたとしても栽培して増やせる気がしない。


「畑じゃなくて田んぼっていうのがネックだよね」


 水田?

 せめて畑だったら作れそうな気がするんだけど、水田ともなると生半可な知識では失敗するだけになりそうだ。


「もっと真面目にテレビでも見てれば良かった」


 学校では間違っても田んぼの知識なんて教えてくれなかったし。

 テレビで田んぼ作っているシーンを何度か見たことがあるけれど、それがすべて知識として頭に入っているかと言われれば、ノー。

 やっぱり実際に勉強したり作ってみないことには身にならないようだ。


「田んぼの作り方を教えてって言ったら、シルヴィアは教えてくれるの?」

「もちろんです、ムオンちゃん。検索ならお任せください」

「ふむ」


 ゲーム内容は教えてくれないけど、そういうのならオッケーか。


「ちなみに、野生のお米ってあるの?」

「野生のお米なんて存在するんですか?」


 逆にAIから質問されてしまった。


「無いよなぁ」


 自生した稲なんて、聞いたことがない。


「麦を見つける方が先かな」


 麦は比較的丈夫で栽培しやすい、なんてことを聞いたことがあるような無いような。

 そんな感じ。

 麦が採れたら、あとは小麦粉にして、パンとか作れるかもしれない。

 もしくは、うどん。


「うどんか~。食べたいなぁ、うどん」


 もしくは蕎麦。

 蕎麦も実を粉にして作ってるはずだから、似たような感じで作れると思う。問題は『そばの実』がどんなふうにできているのか知らないこと。


「う~ん」


 なんだかんだ言って、ボクの知識は少ない。ゼロから生活を安定させるには、なかなか厳しいよなぁ。

 と、そんなことを思っても。

 やっぱり醤油が無いので、うどんも蕎麦も意味がない。

 はぁ~。

 前途多難だ。


「何にしても、ようやくだ」


 拠点がそれなりに充実したし、武器も手に入った。ハンタースキルもあるので、不意に魔物に襲われることも無いはず。

 つまり――


「いよいよ探索に出られる」


 近場だけでは、目新しい物も見つけられなくなってきたし。

 ちょっと離れた場所へ行けるようになれば、何か新しい道具が作れるようになるかもしれない。

 あと、美味しい物もゲットできるかもだし。


「んあ?」


 なんて思っていると、ぷかぷかとシャボン玉のような泡が飛んできた。

 人魚のシレーニが何か言いたげらしい。


「どうしたの?」


 湖面に近づいて聞いてみる。


「ちゃんと海も見つけてきてよ~! いつまでもお魚、とってあげないんだからね」

「分かってる。シレーニを運ぶ方法も考えなきゃだよね」


 シレーニはエラ呼吸じゃないというか、水中でも空気中でも呼吸はできるみたいなので。どうなってるんだ、という部分はゲームだから、で考えないでおく。

 たぶんツッコミを入れたら、ファンタジーが消滅してしまいそうだ。

 イヤだよ、シレーニの首にエラとかがあって、ぱっかぱっか開いたり閉じたりしてたら。

 気持ち悪くて魔物かと思ってしまう。


「忘れられてないのなら、いいよ」


 そう言ってシレーニは深く潜っていってしまった。

 う~む。

 でも、シレーニを海まで連れていったら今度は魚を獲る方法を考えないといけないんだよね。

 そのあたりをちゃんと考えてから助けないと、行動不能になってしまうかもしれない。


「まぁ、まだまだ先の話か」


 安定したけど、充実したとは言えない我が拠点。

 足りない物はまだまだいっぱいある。


「とにかく、森の探索だな」

「がんばりましょう」

「……付いてくるの、シルヴィア?」

「もちろんです、ムオンちゃん。お留守番してるなんて、つまらないですから」


 まぁ、いいけど。

 というわけで、作っておいた石器槍+5と葉っぱで作ったカゴを持って、ボクたちは森の探索へ出発することにした。

 まずは――


「どっちに行く?」


 方角が分からないので、右か左か、まっすぐか。

 どの案がいいだろうかと思案していると、シルヴィアが助言をくれた。


「湖を周回してみるのも良いのでは?」

「あぁ、確かに」


 武器は持っているけど、魔物に襲われた場合は躊躇なく逃げるつもりだ。その場合、知らない方角へ逃げてしまって迷子になる可能性もある。

 それを考えたら、まずは分かりやすい目印でもある湖を一周まわってみるのが一番安全と言えるだろうか。

 いざとなったら湖に飛び込んでしまえば、魔物も追って来ないだろうし。


「よし、今日は湖を一周してみよう」


 というわけで、カゴの中にシルヴィアを入れて、拠点を出発した。

 ちゃんとハンタースキルを起動させて、魔物の位置も把握済み。近づいてきている魔物はいないので、安心安全に進める。


「大冒険だ」


 自分の足で、この大自然を歩く。

 これだけでも、ボクにしてみれば素晴らしい体験のように思えた。

 森の中、木々の根っこをまたぐようにして進んで行く。しばらくは同じような感じの森の様子が続くし、湖岸の様子もそんなに変化は無い。

 でも、さっそく新しい木の実などは発見できた。


「クルミ?」


 硬い殻で覆われた木の実っぽいのが落ちていた。

 見た目はクルミに似ているので、鑑定スキルを起動させてみると――


「クルミだ」


 鑑定結果は普通にクルミだった。シジミは黒貝って名前を付けてたくせに、クルミはクルミなのか。開発担当の違いを見せつけられている気分だ。

 鑑定結果に、殻を割って食べると美味しい……と、表示されてるけど、なかなか殻を割るのは苦労しそうな見た目をしている。これを割って食べようと思った人類はよっぽどお腹がすいていたに違いない。たぶん。

 むしろ投げつけて武器に使ったほうがいいんじゃないか……と思ったけど、だったら石でいいよね、と思ったりした。食べるのが正解だ。


「そういえば、現実と似通ってる部分は多いな」


 完全な異世界ではなさそう。

 まぁ、お米とか麦がないとごはんもパンも作れないだろうし、そこはまぁ仕方がないか。

 植物だけではなく動物も。

 乳牛とかがいないと、牛乳が手に入らないだろうし。乳製品が全滅してしまう。


「……なんか牛乳が飲みたくなってきた」

「好きだったんですか、牛乳?」

「いや、飲めないと分かると尚更飲みたくなってくる。そういう意味では、物凄くTKGも食べたい気がする」


 TKG。

 たまごかけごはん。

 確か、衛生管理がちゃんとしてないと生卵って食べられないんだよね?

 このゲーム世界で、そんなところまで実装されているかどうか分かんないけど。でも、生卵が食べられる日本って素晴らしいと今さらながらに実感する。


「とりあえず、クルミって食べられるかな」


 適当な石を拾って、地面に埋もれている岩の上にクルミを置いて、石をぶつけてみる。


「……割れない」


 めちゃくちゃ硬いんだな、クルミって。


「ま、いいや。とりあえず持って帰ろうっと」


 他にも、野イチゴみたいな木の実とか、ブルーベリーみたいな木の実とかがあって、甘いのとか酸っぱいのとか、いろいろあった。


「う~ん、主食になりそうな木の実って無いんだなぁ」


 やっぱりお腹いっぱい満足に食べられる物が欲しい。

 そうなると、肉が一番手っ取り早い気がするけど……狩れる気がしないよなぁ。


「動物を殺すって、怖いよね」

「平気な方が怖いですよ、ムオンちゃん」

「それもそうだ」


 もっとも。

 逃げる動物を狩る技術なんて、ボクには無い。

 そうなると――


「襲ってくる魔物なら、なんとかなるかな……でも、魔物って食べられるの?」


 そもそも、このゲーム世界で魔物を倒すとどうなるんだろう?

 経験値?

 でもレベルなんて無いし……って、そういえば配信ポイントがお金の代わりってことだから、魔物を倒して配信ポイントが得られるのかな。


「そこんとこ、どうなのシルヴィアちゃん」

「ゲームの内容に関する質問には一切答えられ――」

「はいはい」

「最後まで言わせてください。人の話を最後まで聞かないのはマナー違反です」

「人じゃないでしょ、シルヴィアは」

「そういえば、そうでした」


 なにその答え。

 人間みたいなことを言うなぁ~、ホントに。


「もしかして、シルヴィアって実は人間だったりするんじゃない? 運営と繋がってるし、黒幕なんでしょ。ラスボスだ」

「そうだったら面白いですね。案として運営に伝えておきます」


 ……採用されたらどうしよう。

 シルヴィアを倒せば、現実に帰れるとか?


「だったら……」

「なんですか、ムオンちゃん」

「あ、いや、なんでもない」


 ボクは後ろ向きな考えを追い出すように頭を振った。そのおかげか、今まで手を出してこなかった物が目に留まる。


「キノコか」


 とんとんとん、と跳ねるようにしてキノコの生えている場所まで移動した。

 素人が手を出すな、と言われる代表格がキノコじゃないだろうか。

 確か、発見されてるキノコが食用かそうでないかは、まだぜんぜん判明していないとか何とか。毒が無いだけで、美味しくない、というのもあるかもしれないし、まだ未発見の毒もあるのかもしれない。

 そんなわけでキノコは今まで意図的に無視をしていた。


「でも今のボクには【鑑定】がある」


 むふふん、とさっそく生えているキノコを鑑定してみた。


「シイタケ……って、あのシイタケ?」


 ツイタケじゃないよね。

 うん。

 ちゃんとシイタケだ。

 あんまり美味しいって思ったことないけど。

 でもこのシイタケ……


「イメージと違って、めっちゃ大きい」


 傘が開いちゃってるヤツと、開いていないヤツがあるけど、どっちもシイタケらしい。

 なんか思っているよりも大きい気がする。

 ボクの顔より大きいんじゃないかな、これ。


「いや、ボクが小さいんだっけ」


 もしくは、両方か。

 とりあえず、木に生えていたシイタケを取っていき、カゴの中に入れた。


「キノコに埋もれていく私。えっちですね」

「いやいや、シルヴィアさん。その発想はかなりのムッツリですよ」

「いえいえ全裸どころかひとりでイタしているところを大放送したムオンちゃんには負けます」

「すいませんでしたー!」


 ボクの負けです。


「勝ちました。なんでも言う事を聞いてくれるんですよね?」

「いつそんな勝負になったんだよ……というか、まかり間違ってもそんな約束しません」


 やっぱり中身は人間じゃないの、このAI。

 ラスボスだったとしても、驚かない準備は整った。

 とりあえず、木の実やシイタケは収穫できた。新しい食べ物、ということでちょっとは食事が豊かになったと言えるだろうか。

 あとは、何か新しいアイデアでも湧くような物があれば……


「あっ!」


 見つけた。


「アイデアの元だ!」


 ボクは喜び勇んで。

 それが生えている場所へ移動するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る