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「あった~! これシジミだー!」
湖の湖岸にある砂地。
石があったその場所を少し掘ると、小さな黒っぽい貝が出てきた。
どう見ても貝のシジミ。
淡水に澄んでる美味しい貝!
「シジミ汁って美味しいよね」
思わずシルヴィアに話しかけてしまった。
「私はAIなので、味については分かりません」
「あ、そっか」
「はい。独特の風味というか、少しにおいのある感じでお酒の酔い覚ましに良いみたいですね。肝臓にも良いそうです」
ボクはあまりお酒を飲まなかったし、二日酔いになったことがないので分からないけど。
でも、フラフラになった朝に飲むとなんとなくサッパリするような気がするのは理解できる。
独特の味というか、唯一無二というか。
アサリも美味しいけどシジミも美味しいよね。
というわけで、お風呂につかりながら、隣の砂地を掘ってシジミを獲っていった。
鑑定があるので便利だ。
「ふぅ」
葉っぱで作ったカゴにいっぱいになったので、それを持って焚き火に移動する。タオルがないので相変わらず全裸状態だけど、身体が乾くまでは仕方がない。
そして、いよいよ出番ってわけだ。
「シルヴィアの作った土器が!」
「ドキドキ」
「言うと思った」
そうツッコミを入れると嬉しそうなシルヴィアだった。
AIが期待してるんじゃないよ。
「今こそ成果が試される時、ですね。私の仕事の成果を御覧あれ」
お皿も作ってもらっていたけど、いつまでも葉っぱ鍋でお水を沸かすのもアレなので、シルヴィアには鍋も作ってもらっていた。
そのうち水瓶みたいなのを作って、いちいち湖まで汲みに行く手間を減らしたいけど。
でも、まずは基本的な鍋だよね。
「割れないよね、大丈夫かな」
ちょっとしたお椀のような形の鍋で、大きさはボクの両手分くらいの大きさかな。
深さは指の長さくらい。
程よい大きさなお鍋。
ただし、取っ手は無い。
「粘土と砂を混ぜて良くこねて、鍋の形に整形。それを乾かしてから火で焼いてみました。いくつかは割れました。泣きそうでした」
「AIが泣かないでよ」
「慰めてください、ムオンちゃん」
「それよりも褒める方を優先したい」
お鍋を作ってくれたありがとう、シルヴィア。と、人差し指でシルヴィアの頭を撫でる。
感触は粘土だった。
テクスチャに騙されてはいけない。
「光栄です。ムオンちゃんは視聴者から褒められていますので、わざわざ私が褒める必要はありませんね」
「視聴者の声が届かないのに、その言い草はひどい」
というか、ボクの何が褒められているんだ?
裸か?
だったら、デザインしてくれたママと3D化してくれたパパを褒めてください。ボクはひとつも素晴らしくありません。
はぁ~。
なんてため息をつきつつも、お鍋が倒れないように石を並べてセットする。倒れないのを確認したら、その石の真ん中に炭を置いて、焚き火の火をもらってきて、点火した。
火が付いたのを確認したら、鍋を持って湖から水を汲んでみる。
「おぉ」
ほんと、単なる器みたいなものだけど。
一歩だけ文明を前進できたみたいで嬉しい。
さっそくそのお鍋をセットした石の上に置いた。
「割れないかな、大丈夫かな」
「割れたら、その部分を粘土で補強しましょう」
「土鍋はごはんを炊くといいんだっけ? なんかそんな話を聞いたな」
でんぷん? が、どうのこうの?
しかし、残念ながらお米なんて発見できていない。
せめて麦でも発見できたら、栽培して粉にして小麦粉とか作れれば……料理の幅が広がる!
「小麦粉があれば、うどんとか作れそう。貝の出汁にうどんを入れるだけでも充分だよね」
なんて夢を広げつつ、水が漏れる様子もないので貝をいくつかお鍋に入れてみる。
たぶん砂抜きとかしないといけないんだろうけど、なんか我慢できなくなったので。
「そういえばムオンちゃん」
「ん? なぁに?」
「これはどうやって食べるのです? もしくは、飲むのですか?」
「どうやってって……鍋を持って……あっ」
「ぜったい熱いですよね」
しまった!
食器ばかりに気を取られて、お箸とかスプーンとかフォークとか作ってない!
「スプーンは無理にしろ、せめてお箸は作ろう!」
幸いにも木の枝はたくさんある。
できるだけまっすぐな枝を選んで細くすれば――
「いや、待てまて」
せっかくだ。
スキルレベルを上げてから作ってみる方が良いかもしれない。
なにせ、あれだけ役立たずと思ってた鑑定スキルも、レベル5まで上げたら劇的に良くなったわけで。
ハンタースキルも超有能な効果があったのだ。
他のスキル――【アイテム・クリエイター】とかもレベルをあげれば、ちゃんと意味があるかもしれない。
恐らくスキルレベル5が、ひとつの指針っぽい気がする。
指針? 言葉が違う気がするけど、まぁ、そんな感じ!
というわけで、ボクはスキルウィンドウを開いて、さっそくレベルをあげてみた。
「まずは、ウェポン・クリエイターだ」
スキルレベルを一気にあげる。【ウェポン・クリエイター】スキルをレベル5にした。
まずは、『道具を作る道具』からだ。
鑑定スキルを使って、打製石器に向いてる石を見つけてきて――ガシガシと岩にぶつけて、削っていく。
加工に向いた石というのが分かっているので、スムーズに作っていけた。ある程度、おおざっぱに削れたところで、細かい部分を石で叩いて削っていくと――
「できた!」
ナイフの形をした打製石器の完成だ。
さて、なにか違いはあるのか……と、鑑定スキルで見てみる。
「おぉ!」
鑑定結果は『石器ナイフ+5』となっていた。
どうやらスキルレベル分の補正が付くらしい。補正分は、恐らく攻撃力かな。この場合、切れ味とかも上がってるのかも。
「つまり、切れやすくなったってことだよね」
「試してみたら早いですよ」
それもそうだ。
でも、その前に――
「【アイテム・クリエイター】スキルも5にしておこう」
お鍋でくつくつとお湯が湧いてきたのを見つつ、スキルレベルを5まで上げた。
たぶんきっと、お箸+5が作れるはず。
……いや、お箸+5って、何が補正されるんだ? 持ちやすさ? 挟んだ物が滑りにくくなるとか? まぁいっか。
「とりあえず、できるだけまっすぐな枝を選んで……と」
頃合いの長さに枝を折って、先を尖らせるようにして石器ナイフで枝を削る。
少し力を入れると、枝に喰い込むナイフ。そのまま押すようにして枝を削った。
ガシュ、という感じで枝がちゃんと削れて白に近い木の内部が見える。
「おぉ! 攻撃力……切れ味が上がってる」
これならいけそうだ、とボクはガシガシ枝を削っていった。
ちょっとイビツな感じだけど、とりあえずお箸の片側が完成だ。
もう一本作ろうというところで、お鍋のお湯がかなり煮立っていることに気付く。
「うわっととと。お水を足さないと」
「中はどんな感じです? 見えないのですが?」
自分で作った鍋なだけにシルヴィアは気になっている様子。
ちょっとおっかなびっくりとボクはシルヴィアを手で持ち上げて、お鍋の中を見せてあげる。
「割れてませんね。さすが私が作ったお鍋です」
「失敗作が割れてたのに?」
「なんのことでしょう?」
歴史を捏造した!?
このAI、怖すぎる!
「なんて、やってるヒマじゃないや」
葉っぱの器を使って、何往復かして水を追加。やっぱり水瓶というか、水差しみたいなのは必要かも。湖が近いといっても、やっぱり面倒だ。せめて料理する時くらいは一往復で終わらせたい。
とりあえずお鍋が水でいっぱいになったら、ついでに問題なさそうなので、シジミも追加しておく。
あとは待っている間にお箸のもう一方を作るために、ガシガシと枝を削った。
「できた! お箸!」
んふ~。
形は悪いし、そんなに細くないけど。
でも自分で作ったマイ箸っていうのは、嬉しいもの。
あと、自作って楽しい~!
「鑑定結果は……うん、やっぱり『箸+5』だ」
果たして、お箸にプラス補正が付いたところで何が補正されているのかさっぱり分からないけど、アイテム・クリエイターの効果はしっかりと出ている。
「持ちやすかったりするんだろうか」
さっそくお箸を使ってお鍋の中で茹だって口を開いたシジミを取り出す。
「そういえば、シジミじゃないんだっけこの貝」
鑑定すると『黒貝』と表示された。
説明欄にはちゃんと食用とも書いてあるし、なんなら出汁を取ると美味しいとも書いてある。
まんまシジミっぽい感じの貝らしい。
小さい貝を歯でこそぐようにして食べると……
「うん、シジミっぽい味がする」
あの独特の感じがあった。
やっぱりシジミじゃん、この貝。わざわざ黒貝にしなくてもいいのに、なんて思いつつ貝殻は何かに使えるかも、と近くの石の上に置く。
「貝は砕くと……石灰になるんだっけ? え~っと、チョークの粉だよね。肥料になる?」
「貝殻肥料ですね。貝を砕いて畑に撒くと土壌に効果があります」
「ファーマースキルに影響があるかも」
もっとも。
今のところスキルを取ったとしても育てる植物がない。それこそ麦とか発見できたら育てたいし、なんなら芋も食べたい。じゃがいもでもいいしさつまいもでもいい。とりあえず、食べられる物を増やしたい。
「そういえば、砂抜きしなくてもジャリジャリ言わないな」
試しにもう一個食べてみる。
「美味しい。砂抜きしなくても大丈夫そうかな」
さすがゲームの世界。
都合がいいや。
というわけで、取っておいた黒貝を全てお鍋に投入しておく。
ふっふっふ。
これで美味しい美味しい貝汁ができるはず。
「その間にスプーンを作れないかな」
少し太めの枝を用意して、ちょっと短めに折る。持ち手の部分をガシガシと削って、なんとなくスプーンの形にしておいて、角ばった形でもいいので、あとはくぼみを作ればそれっぽくなるんだろうけど。
「くっ! なかなか掘るのって難しい……!」
枝を細くするのとは違って、穴を開けていくというか、いい感じにへこませるのは難しい。いくら切れ味が上がったところで、石器ナイフの形は石器ナイフのまま。
使いやすさなんて、あってないようなもの。
まるでささくれだっただけの、浅い浅いスプーンとも呼べないような物になったところで、ぐつぐつとお鍋が煮えたぎってしまった。
「とりあえず、ここまでか」
火が付いている木や炭を取り除いて、鍋だけの状態にする。
未完成のスプーンで、濡らす程度にしかすくえないけど、すくって舐めるようにして味見。
「ん! おぉー!」
シジミ汁の味がする~!
「うわ~、ちゃんとできてる。やったやった! 嬉しいものだねシルヴィア」
「料理に目覚めましたか、ムオンちゃん。このままお料理系Vtuberを目指します? 裸エプロンで視聴者ゲットです」
いや、まぁ、そうかもしれないけど。
というか今も裸ですけどね、ボク。
しかし……やけに裸を推すんですね、シルヴィアさん。
実は相当なスケベなのでは?
むっつりじゃなくて、オープンな方のスケベAI。
「ムオンちゃんの強みを活かした計画です。なにせヌーディストの称号を早々と取得した逸材ですので。ここは是非、裸エプロンで更なる視聴者と登録者を増やすべきです」
何も間違っていないのが恐ろしい。
そして、その内容を大真面目に語っているのが恐ろしい。
むしろAIらしいのかもしれない。
「やれって言われても、今のところ作れる料理に限界があるよ」
なんてったって、調味料がゼロ!
しかも塩も砂糖もない状態だ。
とてもじゃないけど、お料理系は名乗れない。いや、サバイバルクッキング、とかだったら成り立つかもしれないけど、ネタ切れが早そうだ。
そういう意味じゃ、Vtuberって凄いよね。
同じゲームばっかりじゃなくて、いろいろなゲームもやってたし。
トークスキルも高い人ばっかり……
「ん……トークスキルか」
もしかして、トークっていうスキルが取れたりするかも?
「え~っと、こほん」
咳払いをしつつ、ボクは虚空に向かって笑顔を作って話してみる。
「はいどーも、シズカ・ムオンです。今日は湖で取れた黒貝を使ったサバイバルクッキングをしてみたいと思います。チャンネル登録と高評価よろしくお願いしまーす」
もちろん反応なんてあるわけがない。
むなしくボクの声のみが湖にこだますら残さず消えていった。
「……恥ずかしい!」
なんでいつも茶化すように言ってくるシルヴィアが今回は黙ってるのさ!
え!? なに!? そういうプレイってこと!?
なんて叫ぼうかと思ったら。
『おめでとうございますシズカ・ムオン。【配信者】の称号を得ました』
なぜか、きっちり存在していた【配信者】のスキルを解放できたのだった。
「恥ずかしかった甲斐がありましたね、ムオンちゃん」
「やっぱり恥ずかしいヤツって思ってたんじゃないかー!」
ひどいAIだよ、まったくぅ!
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