~スキルレベル5~

 お風呂につかりながらウィンドウを操作。

 ゆったり自由にお風呂に入れるのは良い気分なので、このスタイルはかなり良いのかもしれない。

 でも、石を焼くのはまぁまぁ面倒なので、お湯が自由に出ていた現代生活のありがたみを、より一層と感じてしまう。


「まずは――安心安全安定の【ハンター】スキルを上げておくのがいいか」


 実感はあまり無いかもしれないけれど。

 それでもハンターのレベルを上げておいて損は無いはず。

 今のところボクが解放してるスキルで、一番実働的なのがハンターだけなので、一択とも言えるかもしれない。


「いまレベル3だから……5まで上げてみるか」


 スキルのレベル上限がいくつまでかは分からないが……ひとまずハンターレベルを5まで上げてみる。

 3から5に上げるのに必要なスキルポイントは1600。

 それを割り振って――【ハンター】のスキルレベルを5にアップさせた。


「さてHPは……ん?」


 視線に見えているHPゲージやスタミナゲージを確認しようかと思ったら、湖の中に何か反応しているのが見えた。


「なんだ?」


 青い点……? なんか湖にちらほらと青い印のような物がフィルターを通すような感じで見えた。

 あ、いや、良く見れば近い物は魚の形に見える。強調するような感じで、アウトラインが青色になったようなイメージか。

 これって――


「ハンタースキルのおかげで獲物の位置が分かるってこと?」


 え、あれ……これってすっごいスキルなのでは?

 ボクはお風呂から立ち上がって森の方角を見る。


「おぉ~!」


 森には青い点がいっぱい見える。中には塊になってるみたいな巨大な集まりもあった。たぶんきっと群れか何かだと思う。

 範囲はどれくらいなのか分からないけど、そこそこ広そうに思えた。遠くにいるので点にしか見えないけど、近づけばきっと動物の形に見えるんだと予想できる。


「ん?」


 森の中には青い反応だけじゃなくて赤い点もあった。


「もかして、魔物?」


 青よりも少ないけど、赤の反応もたくさんある。たぶんだけど、魔物の反応だと思えるけど……確かめるには近づくしかない。でもこれ十中八九、魔物の反応だろう。


「やった。これで安全に森に入れる」


 シルヴィアの監視がなくても魔物の位置が把握できる。

 近づいてくる前に逃げることが可能になった。


「戦わないのですか、ムオンちゃん。ゲームの醍醐味ですよ、戦闘は」

「魔物でも、生き物を殴るって感覚がちょっとボクにはダメかもしれない。ゾンビとかだったら攻撃できるかも」


 意気地なし、とでも言われるかと思ったが。


「優しいのですね」


 と、シルヴィアは笑った。


「安心しました、ムオンちゃん。いずれ私もイジメられるかと思っていましたので」

「そんなことしないよ」

「お人形遊びもですか?」

「しません」


 今度こそ、意気地なし、とシルヴィアは焚き火の方へ去って行った。

 お人形遊びをお断りした勇気を褒めたたえて欲しいのですが?


「AIの考えてることは分かんないなぁ~」


 それこそ『性格』のようなものを感じるけど、それはあくまで人間のフリをしているってことで。きっと誰かの模倣なんだろうとは思うけど……その誰かっていうのが意味不明な人間だった場合、AIも意味不明になるよね。

 人格モデル?

 ロクな人間をモデル化していないのではないだろうか。もしくは、変な学習をしてしまった結果とか……?

 とは思ったけれど、AIの仕組みなんてボクには良く分からないのでシルヴィアはそういうものだ、と思っておくしかない。

 文句を言ったところで運営には届かないだろうし。


「まぁ、会話をしてくれるだけいいか」


 孤独感みたいなのはやわらぐ気がする。

 もっとも。

 ボクはずっと引きこもりで部屋の中にいたので。

 誰かとこうやって話ができる時点で、とっても楽しい状態、と言えた。

 でも本人に伝えたらなんか調子に乗りそうでイヤだ。

 シルヴィアには秘密にしておこう。


「んお?」


 なんて思ってると湖に頭が浮いていた。

 いや、人魚のシレーニだ。

 ボクが湖面ギリギリにいるせいで、シレーニの頭だけが見えた状態。ちょっとびっくりしたのは、ハンタースキルが反応しなかったから。

 どうやらNPCには反応しないようだ。

 まぁ、普通に考えたらそうだよね。

 ハンターって、獲物を狩るスキルだから……このスキルに反応するのは狩れる存在だけ。

 クエストキャラであるシレーニは狩りの対象ではない。

 ので。

 反応しなかったようだ。

 おかげで、生首が水面に浮いてるみたいでめちゃくちゃビックリした。もちろん、普通だったらあんまりビックリしなかったと思うけど、どうにも不機嫌な表情でゆっくりイヤそうに近づいてくるので余計だ。

 何か悪いことでもしちゃっただろうか?

 ハンターが嫌いとか?


「――」


 ぱくぱくぱく、と泡を出すシレーニ。

 なんだろう、と思いつつお風呂から身を乗り出すようにして湖の中に顔を突っ込んだ。


「なんか気持ち悪いのに入ってるのね」


 気持ち悪い?

 お風呂のこと?


「そう、それ。熱い水なんて信じられない」


 どうやら人魚にはお風呂という概念が無いようだ。

 当たり前か。

 お湯も嫌いっぽい。

 それも当たり前か。海の中にお湯なんてあるわけが――いや、海底火山とかあるんじゃなかったっけ? あ、それで気持ち悪いとか?


「う~ん……?」

「なによ」

「あ、いやなんでもない。ところで湖の中って魔物はいないんだね」

「いたら、こんなノンキに泳いでないわよ」


 そりゃそうか。

 とりあえずシレーニといっしょにお風呂に入る、なんていう行為は無理そうなので。配信を見てる人、期待している人がいたらごめんなさい。

 もっとも。

 シレーニって下半身は魚なので脱げるのは上だけだろうから……あんまり期待はされてないかもしれない。

 というか、人魚ってケモナーの一種?

 なんか違うよね。

 別のジャンルっぽい。

 ま、いいや。


「とりあえず、まだポイントが余りまくってるし。他のスキルも上げてみるか」


 レベル5まで上げれば、それなりの恩恵があることが分かったし。

 ということで――


「【鑑定】だよな、やっぱり」


 今のところ、まったくの役立たずスキル。もしかしたらレベル5まで上げると、使えるスキルに変わるかもしれない。

 というわけで、上げてみよう。


「どうだ?」


 1900ポイントを消費して、鑑定レベルを5まで上げてみた。

 とりあえず、鑑定スキルを使うように視線をこらしてみると……


「おぉ!」


 見える範囲の『反応する物』に次々とウィンドウがピロピロピロと表示されていく。というか、多すぎて若干処理落ちしているようにも見えた。処理が重い!


「あ~ぁ~ぁ~、ダメだ。とりあえず、一端やめて全消去して……え~っと、この石とか鑑定できる?」


 別にシステムに語りかけているわけじゃないけど。

 なんとなくシルヴィアに話しかけるような感じでスキルを使ってみた。

 ウィンドウが表示されて『石』と表示される。


「説明は……ほほ~!」


 新情報が記載されている。

 なんとこの石、加工には向いていないそうだ。つまり、打製石器とか礫器に向いていないってことだよな。

 これってボクの知らない情報だ。目で見て分からない情報が表示されてる!


「じゃぁ、こっちは――あ、加工に向いてる石だ」


 試しに……と、ふたつの石をぶつけてみると、向いている方の石が欠けて、向いていないと表示された方の石はなんともなかった。


「なるほど……便利だ……」


 鑑定スキル。

 やっと使えるじゃん!

 ボクはお風呂から上がって、採取していた木の実を鑑定する。


「ミニ桃は――名前は『モリモモ』か」


 つまり、森の桃ってことかな。

 分かりやすいネーミングだなぁ。

 説明には食用に適していることが書かれており、果汁が多いのでジュースに加工しやすいとも書いてある。しかも街で売れるそうだ。値段は書かれていない。もっと鑑定レベルを上げれば値段も表示されたりするのかも?


「こういうのを売って、ポイントを稼ぐのもこのゲームの醍醐味なのかも」


 視聴者数や視聴時間を稼げないプレイヤーの救済措置のような物だろうか。

 他にも赤い実はスグロの実だとか、青い実はブルージューンだとか、いろいろ分かった。 

 残念ながら、食用に適しているのはモリ桃だけで、あとは食べられそうにない。


「う~ん。何か食べられる物が増えると思ったけど……」


 さて、どうしたものか。

 今のところ魚はまだ飽きていない。飽きていないが……そのうち絶対に飽きるのが分かっている。塩も醤油も無いので、尚更だ。

 グルメなんて気取ってるわけじゃなくて、他にも食べたくなってくるもんだし、なによりお肉も食べたくなってくるに違いない。

 そうなってくると……狩りをしようとする自分がいそうで。

 果たして、森の中で動物を狩ることができるのかどうか。なにより、それを食用の肉に加工することができるのどうか。


「命を粗末にできないもんな……」


 殺しても。

 それを食べることができなかった時。

 果たしてボクは、そこに罪を感じるのかどうか。


「いや、今さらか」


 魚は食べられるくせに、動物は殺せないのか。

 ひどく矛盾していることには気付いている。

 だからといって、それを是正できるかと言われれば。

 答えはあまりよろしくない。


「だってね~」


 対称の大きさの問題だろうか?

 ボクは湖に近づき、湖面を見る。

 ハンタースキルで魚の位置が分かった。青い反応で表示され、それらは泳いでいることが分かる。無数に表示され、きっと永遠にリポップするに違いない。

 単なるゲームのデータだ。

 そう割り切れば――命云々とは無関係に……できる……といいなぁ。


「ボタンひとつで殺せればいいのに」

「物騒な独り言ですね、ムオンちゃん。ゲーム脳、というやつですか?」


 急に表れて独り言に返信しないで欲しい。


「いつの時代の批判だよ。キレる若者とか言わないでよね」

「いつだってキレてるのは大人ですもの」


 哲学的~。

 さすがAIだ。

 哲学もいけるんですね。

 まぁ、哲学なんて良く分かんないですけど。そもそも哲学的なの?


「んあ?」


 そんなシルヴィアに視線を向けると――なにやら反応してウィンドウが表示された。

 どうやら鑑定スキルが起動しているようだ。

 シルヴィアの説明が――泥人形、になっているのはちょっと笑える。


「人を見て笑うとは失礼です」

「人じゃないでしょうに……って、他にもなにかあるな」


 シルヴィアの向こう側というより、足元?

 いや、ちがう。

 湖岸からウィンドウが出てて――


「貝だ!」


 湖岸のちょっとした砂地を掘ると、小さな貝が出てきた。

 説明によると毒は無い!

 小さいから身を食べるのは期待できないけど……


「出汁が取れる!」


 貝汁。

 つまり、お鍋が必要ってことだ!

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