~【AVtuber】の称号~

 石を積んでは粘土で補強……石を積んでは粘土で補強。

 更に石を積んでは粘土で補強して水で表面を整える感じでなんとか綺麗にしたりして、それを永遠と繰り返していく。


「もしやここは地獄なのでは?」


 賽の河原では、親より先に死んでしまった子どもが、永遠に石を積み上げる罰を受けるという。しかも完成間近になると鬼がやってきて、積み上げた石を崩してしまうとか、なんとか。

 そんな罰に似てるような気がする。

 罰?

 罰じゃなくて、試練的なものだったっけ?

 なんにしても子ども達は河原で石を積み上げなければならないらしい。

 確か、お地蔵さまが助けてくれるまで。


「うぅ」


 実はボクは死んでいて。

 しかも親より先に死んでしまったので、賽の河原ならぬ人魚の住む湖でひたすら石と粘土を積み上げているのかもしれない。

 なるほど。

 地獄に行くって、異世界転生のことだったんだ。


「ここは地獄ではありませんよ、ムオンちゃん。あ、もっと粘土を頂けますか? ほら、なにせ私は小さいので」


 女の子が遊ぶような人形サイズのシルヴィアが、粘土をよこせと両腕を広げている。

 お皿を作ってもらっているので文句を言うわけにはいかないんだけど……なぜか、納得がいかない気がした。


「AIって、普通は人間のために働くんじゃないの?」

「頭脳労働なら引き受けますが、肉体労働は人間もAIも平等でしょう」


 いや、むしろ平等に引き受けてくれるAIが珍しい気もしないでもない。

 シルヴィアが粘土採取もやってくれ、と言ったところで……非効率的過ぎる。ほとんどできないのも当たり前なので仕方がない。なにせ小さい。フィギュアが動いている程度にしか見えない。

 せめてドールだったらなぁ、と思わなくもないが。

 お迎えの儀式とか大変そうなんだよね、あれ。偏見かもしれないけど。

 でも、ちょっぴり憧れはあった。

 綺麗でカワイイ。


「はい、粘土。これでいい?」

「ありがとうございます、ムオンちゃん。引き続き、お皿製作に励みます」

「お願いします」


 シルヴィアの使う粘土を先にガシガシと掘り進めてから、ボクは壁作りを再開した。

 掘って、積んで、塗り固めて。水で均して、また積んで。

 みたいなのを永遠と繰り返す。

 そんなことを三日。

 そう、なんと三日も続けたのだ!


「で、できた~……!」


 ベッドの周囲、特に森側を向いている面にそれなりの高さの壁が完成した。外から見れば、ちょうどボクの身長くらいだろうか。

 石を基本として、粘土で作り上げた壁。

 残念ながら強度は低そう……だけど、安心感はぜんぜん違う!

 結構ちゃんとできあがったので満足感がすごい!

 やった!

 やればできるよ、ボク!


「おめでとうございます、ムオンちゃん」


 ぱちぱちぱち、とシルヴィアが手を叩いて祝ってくれる。

 そんなシルヴィアの作ってくれているお皿とお茶碗はすでに完成していて、焚き火で素焼きをしている状態だ。

 すでに何枚か作ってみたけど、焼いている途中で割れてしまう物が多く、なかなか難しい。

 いずれ登り窯? みたいなのを作れたらいいなぁ。

 レンガがあれば作れそうな気がするけど……レンガも粘土で作られてるんだっけ?

 う~む?

 まぁ、難しいことは後回しだ。

 それまでは、まぁ、使えたらいいやぐらいの感じでお皿とかお茶碗でなんとかしたい。と言っても、食料は相変わらず魚と木の実なので、そこまで多くの食器は必要ないんだけどね。

 ちなみに土器には粘土に砂を混ぜたらいいらしく、シルヴィアが勝手に実行していた。

 さすがAI。

 人間の補助になってくれる、という意味では優秀だ。

 もっとも――


「これで裸で寝れますね」


 なんかアドバイスがおかしいのが非常に気になるところ。


「裸で寝ません。ただでさえ半裸なのに」


 ここ三日間、土をいじり続けている状態なので、そりゃもう汚れる汚れる。今のところ服はセーラー服しかもっていないので、泥だらけにするのはイヤだった。

 というわけで、途中から脱いで下着状態となって作業をしてた。

 まさにぱんつ一丁ってやつだ。

 ……おかげで再生数が稼げているのが、なんというか皮肉というか、あからさまな結果というか……みんなえっちなの好きですよね。ボクも大好きです。


「さすが世界初のヌーディスト」

「ぜったい褒めてないでしょ、それ」

「ひとりで脱ぐのが恥ずかしいのであれば、私も脱ぎますよ」


 え、マジで?


「脱げるの……?」

「脱げますとも」


 シルヴィアが両腕をあげた。

 きらきらきら~、と光って見えなくなるけど……すぐにシルヴィアの素肌が見えるようになった。

 そう――

 ――粘土が!


「テクスチャ剥がしただけじゃねーか!」

「テクスチャは、言わば私の服です。期待しちゃいました?」

「期待したよ! それこそ視聴者の皆さまも期待したんじゃないですか!?」


 カメラがどっちが分かんないけど、ボクは虚空に向かってそう問いかけた。

 きっと画面の向こうでは、うんうん、と同意してくれているに違いない!

 ボクはそう信じるね!


「ムオンちゃんのえっち」

「えっちでいいので、テクスチャ着てください」


 恐らくボクが世界で初めてじゃないだろうか。

 テクスチャを着ろ、なんていう言葉を発したのは。


「なるほど。ムオンちゃんは着衣状態が好みなのですね」

「大抵の人間は、着衣状態が普通ですからね。というか、テクスチャが剥がれた状態に興奮する人類なんていねーよ!?」


 うん。

 いないと思いたい。

 そんなマニアックな人間、いないと思いたい!

 ……はぁ~。

 ま、いいや。

 今は家の壁が完成したことを喜ぼう。

 なにより、家の壁を作ったことにより副次的に完成した物もある。

 それはなんと――


「お風呂!」


 実は壁と並行して作っていたのが、お風呂だ。

 作ってしまったというか、できてしまった、とも言えるかもしれないけど。

 お風呂ができたのだ。

 うへへ。

 湖岸の浅瀬にできたお風呂。

 家の壁を作るのに石を運んでいたんだけど、一ヶ所から集中的に取ったせいで、そこだけぽっかりと穴が開いたみたいになってしまった。

 で、そこには湖の水が流れ込み、水が貯まっていくような感じになった。

 それってつまり、ちょっと補強をすればお風呂になるってことじゃね?

 というわけで、ぽっかり開いた空間を取り囲むようにして石を並べて――余計な水の出入りが少なくなるように細かい砂利とか砂とか土とか木材とか粘土とか、とにかく囲える物で手当たり次第に囲んでかためれば……露店風呂が完成した。


「あとは、この焼けた石を水の中に入れれば……っと」


 焚き火の中に温めていた石を取り出し、木の棒ではさんでお風呂まで運ぶ。そのままポイっと水の中に沈めれば、ジュッというなんとも少年の心がくすぐられる音がして、石がボコボコと周囲の水を蒸発させながら沈んでいった。


「ふひひ」


 やばい。

 ちょっと楽しい。

 もちろん石が一個だけで充分に温まるとは思っていない。

 何個か焼石を運んで沈めたところで、温度を確かめる。


「おぉ~、ちょうどいいかも」


 いい感じで温かいお湯になってる。

 冷めないうちに、とボクはぱんつを脱ぎ捨ててそのままお風呂の中に入った。


「あ~~~~、はぁ~~~~~」


 思わずおっさんみたいな声を出してしまう。

 まぁ、今はバ美肉状態なのでおっさんみたいな声じゃなくて、かわいい女の子の声だけど。

 それでもおっさんみたいだと思える程度には、低い声が出てしまった。


「うひぃ~、お風呂がこんなに気持ちいいものなんて知らなかったなぁ~」


 引きこもりだったので温泉とか全然行ったことがなかった。

 仮に行ったとしてもマトモに楽しめなかっただろうし。加えて、こんな肉体労働もすることもなかっただろうから、真の意味では楽しめなかったのは間違いない。


「はぁ~、気持ちいい~」


 露店風呂。

 自由に入れてボク専用。

 うん。

 最高!

 汗だくだった、というわけじゃないけど。

 それでもお風呂に入ってサッパリするという意味は、ちゃんとゲーム世界であっても精神的に反映されるらしい。

 変にリアルというか、それこそ現実にゲーム要素を足したのような感じだよなぁ。

 もちろん、現実ではありえない話だ。

 どこか地球から遠い惑星に転移させられていたとしても、ありえない。

 仮に異世界転生だったとしても、なんでウィンドウが表示されるんだって話だし。

 ゲームの中、という説明以外では成り立たないよなぁ。

 もっとも。

 ゲーム世界にどうやって入るんだ、という話でもあるけど。


「ん……あぁ、そういえばポイントがダダ余りになってるんだっけ」


 三日間分のポイントを配布されてるけど、壁が完成するまでは使い道が無かったのでそこまで細かく確認はしていなかった。

 ので。

 ウィンドウを表示させて、スキル画面を表示させた。

 今の合計ポイントは――


「47680……」


 どう考えても、めっちゃ増えてるな。


「おかしい。めっちゃ地味な作業をしているだけだったはずなのに……」

「私のアドバイス通り、脱いだからですね」


 いつの間にやらシルヴィアがお風呂の近くに座っていた。テクスチャはちゃんと着てくれたようだ。良かった。


「素体は粘土だから、お湯に入ったら溶けるんじゃないの、シルヴィア」

「えぇ。ですのでここで見ています。ムオンちゃんを」


 あ、はい。

 どうぞ見守ってください。


「今もドンドンと視聴者が増えています。さすがです、ムオンちゃん」

「……でしょうねぇ」


 本来ならアカウント停止されているはずなんだけど、そうなってないのなら、脱いでいたおかげとしか思えない。

 加えて、お風呂配信。

 音声だけでもそれなりに人気コンテンツというか、視聴者を稼げる方法ではるのだけど。ばっちり見えている状態では、その効果が倍増するのは説明するまでもない。

 それはそれで、なんというか……なんというか……


「うぅ」


 いや、今まではホントに考えないようにしてたんだけど。

 ホントはあんまり触れないようにしてたんだけど。


「マジで女の子の身体なんだよね、ボク」


 バーチャル美少女受肉とは良く言ったものだが。

 リアルで美少女の身体を受肉してしまっていると……以外と目をそらしたくなるっていうか……触れちゃいけないんじゃないか、と思ってしまうんだけど……

 こう、ちょっとお風呂の中でね。

 身体を洗うというか、こするというか、ね。

 しないといけないですよね?

 それはまぁ、自然な行動なのではないか。

 うん。

 そんな言い訳をしながら、ボクは自分の胸に触ってみた。


「うわ、すご!?」


 自分の身体を触って何を言ってるんだおまえは、と思われるかもしれないけど。

 女の子の身体って凄いんだね。

 なんというか、めっちゃ柔らかい……えぇ……こんな柔らかいの?

 触られて気持ちいいんじゃなくて、触ってるだけで気持ちいい。

 なにこれ、すごい。

 じゃ、じゃぁ――こっちはどうなってるんだ?


「お、おぉ……」


 ちゃぷん、とお風呂のお湯が揺れた。


「お、う、うわぁ……あ、へぇ~……そうなんだ……そうか、そっか、えっと、へ~」


 うん。

 なんというか。

 凄いです。


『おめでとうございますシズカ・ムオン。【AVtuber】の称号を得ました』

「ハッ!?」


 し、しまった!

 つい夢中になっちゃって……


「え、えーぶいちゅーばーって……」


 なんちゅう称号を手に入れちゃったんだ。

 やってしまった……

 というか、ボクが第一号じゃなくて良かった。いや、そりゃそうか。てっとり早く視聴者数を稼ぐのなら、この方法が一番だ。

 分かりやすく登録者数を稼げるもんねぇ。

 ちらりと横を見れば、シルヴィアがめっちゃ嬉しそうにこっちを見てた。

 なんかこう、シルヴィアの狙い通りに動いてしまったかのように思えてイヤだ。

 よし。

 無視だ、無視。

 この点については何も触れない。

 別の思考をしよう。

 うん。

 他のプレイヤーは街に集まってるんだから、その街ではどんな生活を送ってるんだろうか。

 その。

 風紀的な意味で。


「……街は大丈夫なんだろうか」


 分かりやすくポイントが稼げるんだ。

 なんというか、風紀が乱れまくってるような気がしないでもない。

 中身がおっさんでも、容赦なく強姦されちゃったり……?


「ねぇ、シルヴィア」

「なんですかムオンちゃん」

「街の様子とかって、分かる?」

「ゲーム内容についてはお答えできません。自分の目で確かめることを推奨します」

「やっぱりダメか……じゃぁ、他のプレイヤーの様子とかは?」

「それもお答えできません。また、プライベート空間にいるプレイヤー情報は運営であっても確認することは不可能となっております」


 なるほど。

 そこは完全にプライベートが保たれているんだなぁ。

 まぁ、そうじゃないとプライベートだなんて言えないし、当たり前か。本当の女性プレイヤーとか大変そうだ。

 人気Vtuberの人って女性が多いし、そのあたりはちゃんとしてるのかも?

 でもそのかわり、配信ポイントが減ってしまうんだろうけど。

 なかなか難しいなぁ。

 ボクみたいにプレイべートを捨ててるプレイヤーもいるんだろうけど。

 それはそれとして、逆に視聴者側の反応が見れなくて良かったよ。

 カメラとか、コメントとか見えてたら。

 ボクはきっと耐えられていないと思う。


「ま、今はポイントが余ってるから気にしないでいいか」


 せっかくだ。


「スキルレベルを上げてみよう」


 街から離れた場所にいる現状。

 それこそ、スキルレベルを上げるくらいしか使い道が無いポイントだ。

 いっそレベルをあげてみて、使えるかどうかを確かめてみるのが一番だろうか。


「ラスボスなんて、いないだろうし」


 エリクサーは最後まで取っておくタイプ。

 でも。

 使う時にはきっちり使ってもいいだろう。


「まずは――」


 ボクはスキルポイントを投入していくのだった。

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