~ゲーム世界を有利に生きるために~
現実に人魚がいたら、きっと彼女のようなカワイイ女の子なんだろう。
いや。
おばあさんの人魚もいるかもしれないので、カワイイ女の子だけじゃないとは思うけど。
「そういえばセイレーンって魔物がいたっけ」
人魚とセイレーンの違いって何?
歌うかどうか……?
それとも人を襲うかどうか?
「いやいや、現実逃避している場合じゃないや」
現実逃避というか、もしかしたらゲーム逃避かもしれないけど。
今は人魚にかまっている場合じゃない。
ボクはパンパンとほっぺたを叩いて魚を突くための銛の製作に取り掛かった。
「あ、もしかして――シルヴィア」
『はい、なんでしょうか?』
「手作りで銛を作る方法を教えて」
『はい。まずは竹や木の棒を用意して、先端に返しの付いた槍状の物をビニールテープで固定します。銛先は市販されておりますので、それを使うと良いでしょう』
「あ、はい」
やっぱりダメか~。
ゲーム内容じゃないから答えてくれるとは思ったんだけど……普通に検索して出てくるような結果だった。
一般的にはそうだよな、そうなるよなぁ。
「はぁ~、仕方がない」
自分で作ってみるしかないか。
とりあえず礫器をもうひとつ作ってみよう。
できれば、もう少しパワーアップというかバージョンアップさせて、打製石器レベルの物が作れたらいいんだけど……
「そういやスキルレベルがあるんだった」
【ウェポン・クリエイター】のスキルがある。
一応レベル0の状態なので、今だともうちょっと上手く作れるようになってるとか?
とりあえず湖岸に落ちている石を拾ってきて、同じように石を割ってみた。
二回目なのですんなりと割れたが……特に作るに当たって変わった様子はない。
「スキルレベル0じゃ意味ないのか」
やはり、きっちり取得してレベル1にしておかないと効果が発動したりはしないようだ。
ボクはウィンドウを表示させる。スキル画面に移行し、そこに表示されている数値を確認した。
スキルに分配できるポイントは最初からある。どうやらみんな平等に1000ポイントの初期値が与えられているようだ。
シルヴィアによると、あとは視聴数や視聴時間、登録数とボーナスによってポイントを得られるらしい。
「他にもポイントを得られる手段がありますが、ゲーム内容に関わるため自分で発見してください」
とのこと。
もしかしたら魔物を倒したりしてもポイントがもらえるのかもしれない。経験値的な物とも言えるし。
自由を売りにしているゲームだけに、手探りでシステムを把握させるコンセプトなのか、説明は酷く少ない気がする。プレイヤー同士でいろいろ発見していくのを楽しむ、というタイプのゲームだろうか。
まぁ、そういうゲームも嫌いじゃないんだが……いかんせん、自分で望んで参加したゲーム世界ではないので、ありがた迷惑な気がしないでもない。
「う~ん……」
ステータス画面もきっちり確認しておく。
ボクのVtuber名が書いてある程度で、特にこれといった情報や数値が書かれているわけではない。
キャラクターレベルというものは存在せず、年齢すら表記はなく、完全にスキルレベルのみが羅列してある。隠しステータスになっているのか、筋力とか素早さとか精神力とか、そういう情報さえも載っていないところを見るに、逆に存在していることは明らかだよな。
しかし、どうにもスキルに重きが置かれているように思える。
それこそHPを増やしたければ、それ相応のスキルを解放してレベルを上げる必要があるんだろう。
「たぶんだけど、冒険者とかハンターとか、そういうスキルを上げればHPとか上がりそうだよな」
武器とか素振りしてみたりしたら取得できないだろうか?
とりあえず礫器をブンブンと振り回してみたが……何も起こらない。
魔物と戦わないかぎり、戦士や狩人みたいなスキルは称号すら手に入ら無さそうだ。
「しかし、このポイントを使ってしまっていいものか……」
1000ポイントはある。
1000ポイントはあるんだけど……使っていいのか?
武器製作の【ウェポン・クリエイター】スキル。
レベルを上げたところで、無から武器が作り出せるわけではない……と、予想できた。だって、コマンドとかボタンがあるわけではないし。専用画面が出るとは、ちょっと思えない。
あくまで作るのはボクだ。
なので、スキルレベルをあげても恩恵はあまり無さそうな気がする。
なにより――
「配信でどれだけポイントがもらえるか分からないからなぁ」
初日は様子見しておくのが無難な気がした。
まぁ、でも、ボクって貴重なアイテムをラスボスまで取っておくタイプであり……結局、最後の最後まで使えなかったりするんだけどね。
「使ってしまって、後で後悔するよりかはマシだよね」
『必要な時に備えてこそ、とも言えます』
「さすがシルヴィア」
『ムオンちゃんの味方ですので』
全肯定してくれるAIの女の子。
ありがたい。
今はボクも女の子だけど。
「よし、できた!」
礫器ふたつ目。
少しは打製石器っぽく作れた気がする。
名付けて礫器ナイフって感じかな。
一個目より上手く作れてる気がするけど、スキルのおかげか慣れの問題かは分からない。
「これをまっすぐな木に括りつければ一応の銛になる……はず」
銛っていうより、原始的な槍になるんだろうけど。
とりあえず森に入ってまっすぐな枝を見つけてきて、ツルでぐるぐる巻きにするように固定する。
「強く引っ張ったら切れるかと思ったけど……意外と丈夫なツルだな」
ゲーム世界だからこそ、なのかもしれない。
むしろ、今はその非現実感というか、アイテム化がありがたい。
思いっきりキツく巻き付けて礫器ナイフを枝に固定した。
「できた~!」
ボクのお手製武器第一号!
銛!
っていうか、槍!
礫器槍、でいいや。
とにかく完成!
『おめでとうございます』
「あ、スキルレベルとか上がった?」
『いいえ。称賛を送っただけです』
「まぎらわしいなぁ、もう! でも、ありがとう」
『ありがとうございます。褒めて頂けて嬉しく思います』
逆じゃね?
ボクが褒められる場面じゃなかったっけ?
ま、いいや。
「とりあえず、魚を取れるかやってみよう」
その前に、焚き火が消えないように木を補充して。枯れ葉とか枯れ枝も追加して、ふーふーと吹いて火の勢いを強めてから湖岸へと移動する。
丸い石がたくさん集まった湖岸。
そこからボクは湖へと入った。
「よーし」
魚はいるし、見えている。そこそこ大きな魚の姿もあったけど……さすがに湖の中に入ると逃げて行ってしまった。
「泳げないから、待つしかないか」
『そうですね。頑張ってください』
ウィンドウの中のシルヴィアが、ちょっと期待するような表情に見えた。
まぁ、無表情なのが少し眉根が上がった程度、だけど。
眠たそうな表情なのには、違いがない。
「ふぅ……」
とりあえず、膝くらいまで水が付く程度の深さまで移動して、礫器槍をかまえる。
追いかけたって追いつけるわけがないので。
ひたすら待つしかない。
漫画でこういう修行シーンとかあった気がする。
確か、魚は前進しかできないので、すこし前を狙えばいい――とか、だっけ?
このゲーム世界で、それが適用されるかどうかは分かんないけど、とにかく静かに待ってみよう。
そういや、ボクの名前は紫塚夢音だっけ。
静かに無音で待つのは、得意なはず。
そんな設定を書いていたような気がした。
上手く思い出せないけど、どうせなら忍者みたいな設定にしておけば刀とか持ってただろうに。
小物のデザインは別料金で取られたもんなぁ。
3D化するのが前程だったので、できるだけシンプルにした。
しかし、服の中もちゃんとデザインされたのかなぁ。
どうみても、ちゃんと女の子なんだけど……
「っ」
そんな『雑念』を考えていると、魚が戻ってきた。
修行シーンにはあるまじき状況だけど、Vtuberの肉体なので静止し続けることが可能だったのかもしれない。あと、ご都合主義のゲーム世界だ。魚の行動プログラムなんて、単純な物として設定されているのかもしれない。
ありがとうゲーム世界。
プレイヤーに有利に働く世界で良かったよ。
よし。
心の中でカウントダウンする。
3、2、1――
「おりゃああ!」
ゼロと同時に礫器槍を水の中に突き刺した。
手応えは――有り!
「嘘ぉ!? マジで!?」
自分でも驚いたけど、魚を突くことに成功した。
枝を伝って、魚が暴れる感覚が腕に感じられる。生き物を突き刺した、という罪悪感はあるけれど、それよりも喜びや驚きが勝ってる気がした。
『おめでとうございますシズカ・ムオン。『ハンター』の称号を得ました』
ぱぱーん、と音が鳴ってシルヴィアが言った。
「おぉ! やった~!」
今すぐ槍を引き抜くと魚が抜けそうなので、バンザイはできない。ぐぐぐ、と湖底に押し付けておく。
『おめでとうございます。やりましたね、ムオンちゃん』
「ありがとシルヴィア……って、なんで言い直したの?」
『先ほどのはゲームマスターの私の声です。システム音だと思ってください』
「なるほど」
少し声色も違う気がするし、言われてみればそうか、とも思った。
「よしよし、ハンターのスキルは大きい――あれ?」
そういえば、ヌーディストとかのスキルと違って……
「ボクが初めてのスキル取得者じゃない?」
『はい。残念ながら他のプレイヤーが先にスキルを取得しているため、配信ポイントにボーナスはありません』
「そっか……」
残念、と思ったが――
「ちょっと待て。これって、めちゃくちゃデカいアドバンテージでは?」
少なくともボクは三つのボーナスを得ている。
企業などに所属していないボクは、注目度は低いはず。それを補うには、ボーナスをもっと手に入れたほうが良さそうだ。
配信ポイントは買い物にも使えるそうだから、手に入れておいて損はしない。
「たぶんだけど、料理人スキルはあるはず!」
善は急げ。
悪でも急げ。
ボクは魚を掴み上げると、さっそく湖から出て、手頃な石の上に魚を置く。
うん。
何の魚かは分からない。
しかも、もう死んでるというか生きてないというか。まるでアイテムになってしまったかのような感じがある。
けど、不味そうには見えないし、毒がありそうなカラフルな感じでもない。
「とりあえず、切って焼いてしまえば料理だ」
えい、と礫器で謎の魚の頭を切って――
「ぐ、切れない……」
やっぱり切れ味は最悪だ。それでも、なんとか力を込めて引いたりこすったりして、なんとか頭を落とした。
「それから内臓を取り出して……いったん湖の水で洗って……枝に刺して……よし!」
ばったばったとあせるように下準備を終えて。
焚き火に近づくと、その近くの地面に枝を刺して立てた。
漫画とかアニメで見たことがある。
魚を焚き火で焼く光景!
「おぉ~!」
これでジワジワと焼けば、焼き魚の完成だ。
「はぁ~、疲れた」
あれ?
疲れた?
視線に見えてるHPゲージやMPゲージは減っていない。
だけど、なんというか疲労感みたいなのをボクは感じている。
「シルヴィア。これってどういうこと?」
『恐らく精神的な疲れと推測できます。興味深い現象です。レポートしておきましょう』
開発者に向けてのレポートだろうか。
だったら、いろいろと説明してくれ~、と思うが……こういう場合って、大抵は説明を求めたところで解答が得られるわけがないっていうのがお決まりのパターンだ。
はぁ~。
と、ため息を吐いたところで焚き火を見つめる。
ゆらゆらと炎のエフェクトが揺れている……というか、アニメの世界で火が燃えているような感じに見えた。
でも、熱は感じるし、魚はジリジリと焼けている様子が分かる。それこそ、ゲームみたいにいきなり完成、みたいな感じではなかった。
段々と焼けていく魚。
ものすごい作画の良いアニメっていう感じ。
ホント。
これを配信で見てる人は贅沢な気分だろうなぁ。
なんて思う。
ボク、半裸だし。
かわいい女の子が葉っぱだけを身につけた半裸状態で魚を焼いてるライブ配信。
うん。
なんかすっごくマニアックな感じで、ついつい見てしまいそうな気がしないでもない。
「そろそろ乾いたかな」
火の近くで乾かしていた服を触ってみると……うん、無事に乾いてる。
「洗濯屋さん、みたいな称号って無いの?」
もしくは【クリーニング】のスキル。
まぁ、レベルを上げたところで無意味なスキルだろうけど。
『ゲーム内容には答えられません』
そればっかりだなぁ、シルヴィアは。
とりあえず、ボクは乾いたセーラー服を着た。
ほんと、普通のデザインで助かった。複雑な服だったりしたら、ひとりで着れない可能性もあったんじゃないかな。とか、思ってしまう。
「う~む」
ぱんつは白に赤いリボン。
なんというか、お約束だ。
シンプルでいいってお願いしたんだけど、さすがに白いだけのぱんつは味気なかったのかもしれない。
まぁ、この程度ならきっとそんなに3D化に影響しないところだと思うし。
「テクスチャってやつだろうし」
そんな女の子のぱんつをマジマジと観察するのも変な気分になっちゃうので、そそくさと履いてしまう。
今も誰かに見られてるかと思うと、なんというか、視聴者を変態扱いしなくてはならなくなりそうだ。
「そうなると……Vtuberじゃなくて頭文字に『A』が付くほうになってしまう」
配信ポイント次第では、その手も有りか?
なんて思ってしまうけど……
「ポイントをもらったところで意味があるのか、ないのか」
お買い物できるのは、なんとか状況が安定してからであり。街や村まで無事に辿りつけたら、の話だ。
今の状況では、とてもじゃないけど配信に気を使っている場合じゃない。
「そろそろ焼けたかな?」
とりあえず、今は焼き魚を楽しもう。
そう思って枝に刺して焼いた魚を取ってみるのだった。
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