~全裸サバイバル・半裸ゲーム~
ボクの全裸が大公開されてしまった。
どこに?
世界に?
それとも限られらた人しか見ていない?
ともかく。
配信されてるのを知らず、ボクは全裸になってしまったのだった。
「カメラ……っていうか、どこからどう見られてるの?」
周囲を見渡してもそれらしき物は見当たらない。
もしかしたらドローンみたいな物が空に浮かんでいるのかも、と思って空を見上げてみたけれど、そんな物も無かった。
空は綺麗に晴れている。
鳥が横切るように飛んでいく姿は見えたけど、ドラゴンは見当たらない。
どこか遠くへ飛んで行ったらしい。
「……いい天気だ。こんな感じで外に出たの、久しぶりだな」
――って、ぼ~っとしてる場合じゃない!
「と、とりあえず、え~っと、サバイバル!?」
ボクは慌てて行動を開始しようとして――盛大に転んだ。
足が上手く動かせなかった。
体がまだ慣れていない。
「あいたたた……って、痛くないや」
思いっきり顔から転んだし、なんなら全裸状態で地面に転んだけど怪我とかする様子はなかった。
このあたり、ゲームっぽい気がする。
「……そ、そうか。ここはゲームの世界なんだよな」
それはともかくとして、いつまでも全裸でいるわけにもいかない。というか、そもそも全裸状態で配信されててオッケーなの?
「BANされるのでは?」
起き上がり、脱いだ服とかを集めて岩の上で乾かすように干した。
乾いた頃に回収しよう。
「……」
しかし、どうして女の子のぱんつってシンプルに魅力的なんだろうか。たとえ自分が履いていたぱんつでさえ、そう思ってしまう。
う~む。
「あ、いやいや、そんな場合じゃない」
ボクは地面を四つん這いで進みつつ手頃な石を探した。
状況は何も分からないし、配信されてるとかポイントがどうとか、そういうのは落ち着いてから考えるべきであって。
今はとにかく、なんとか生き残ることを優先したほうが良い。
ここが現実だろうと、ゲームであろうと。
何もしなければ、死が待っている。
と、思う。
「まずは石器を作るんだっけ」
手に馴染む大きさの石を探す。幸い、湖岸には石がたくさん転がっていて、ほとんどが丸い形をしていた。川から流されてきて、湖岸に集まったような感じか。
「とりあえず適当に」
ボクの手は思った以上に小さくなってしまっているので、感覚が思いっきり狂う。女の子の手って細くてカワイイんだな……いやでも、これは3Dでモデリングしてくれた『パパ』の素晴らしい仕事とも言える。
ありがとうございます。
なんて思いつつ、落ちている石を拾って持ち上げてみた。
「よし……足をしっかり動かして……」
すっかりと感覚が変わってしまっていて、自然と立ち上がってたりもしたけれど。
「あは、ははは」
石を手に持って、ボクは噛みしめるようにちゃんと立ち上がった。足の裏に地面の感触がある。膝をあげれば膝があがって、足首を曲げれば足首が曲がった。
すごい!
すぞいぞ、これ!
女の子の姿だけど、いや、もうボクはボクじゃなくなってるけど。
「い、いろいろできるかも!」
ボクは石をいくつか抱えるように持って、近くの大きめの岩まで移動した。
「おりゃ!」
そこにぶつけるようにして石を割ってみる。
「硬い……」
なかなか割れない。
そもそもこれって割れるのか?
ゲームの世界で、こういうオブジェクトって割れるように作られて――
「あ、割れた」
杞憂だったような感じで石は割れて、黒い断面が見えた。
黒曜石って言うんだっけ?
比較的割れやすい石だったようだ。
とりあえず割れた石を岩に当てながら、今度は別の石で叩きながら、徐々に先端を尖らせていった。
「できた……と、思う」
打製石器――未満の『礫器』が完成した。
すると、またしてもファンファーレが聞こえる。
『おめでとうございますシズカ・ムオン。あなたは世界で初めて【ウェポン・クリエイター】の称号を得ました。以後、配信ポイントに特別ボーナスが加算されます』
またしてもゲームマスターの声が聞こえ、ボクの体はうすぼんやりと明るく光った。
「……【ヌーディスト】より、先にこっちを取得するべきだったのかもしれない」
恥ずかしい称号を一番初めに取っちゃうのってどうなのよ?
なんて思ってしまうが、取ってしまったものは仕方がない。
とりあえず、ポイントボーナスがもらえるんだったらありがたくもらっておくべきだろう。
「いったい何人がボクを見てるのやら」
有名なVtuberの配信は1万人とか見てるんだっけ。
で、名も知られていない個人活動のVtuberとか、10人も視聴者がいない、なんてことを聞いたことがあるし……なんなら登録者数が一桁で誰も見られてないチャンネルもあるとか聞いたことがある。
ボクのことを見ている人なんて、果たしているのだろうか。
「裸につられて3人くらい見てたりして」
まぁ、それはともかく。
礫器が完成したので、ボクは湖の周囲を覆うような森の中へと入った。
本来なら裸足で歩くと危険だが、幸いなことにここはゲーム世界。
怪我をする危険性がないのはありがたい。
見た感じ、昆虫の姿も無いし危険はあまり無いだろう。と、思う。たぶん。
「歩ける……歩けるぞ……」
意識しなくても体がそのとおりに動いてくれるのは、それこそゲーム世界みたいだ。
コントローラーで操作することなく、自分の体が動いているのは当たり前だけどさ。
身長も変わってしまっているけど、ボクは難なく森の中を進み、大きな植物の葉っぱを見つけた。
「よし、これで一応の服とか作れそう」
礫器で葉っぱの根本を切ってみる。
本当なら手でもちぎれそうだけど、せっかくなので試してみたいじゃないか。
「切れた!」
やったね。
大きな葉っぱを何枚か切り、あとは木に巻きつくように生えたツタ? ツル? それも切って木から引き離すと湖の岸まで戻ってきた。
「水場が近いほうが便利だろうし、このままここを拠点としよう」
まだ遭遇してはいないけど、たぶんモンスターもいるはず。
ドラゴンがいるくらいだ。
ゴブリンだっているだろう。
それを考えると、四方八方を警戒しないといけない森の中より、湖に面していたほうが警戒する方角が少なくて済む。
もっとも――
「生き残れたらの話だけどさ」
意味不明な状況で、何が起こっているのか確かめる前に。
きっちりと身の安全を確保しないと、調べることもできない。街に移動するにしても、とりあえず現状を整えないことには移動するのも危ないと思う。
というか、どっちに行けば街があるかなんて、分からなくなってしまっている。
ドラゴンに引っかかってる間とか、ウィンドウが邪魔だったし。
この仕様、運営に修正を求めるレベルで邪魔だろう。
「それはともかく」
ボクは落ちていた小枝で葉っぱに穴をあけると、そこにツルを通す。とりあえず、胸だけ隠れたらいいから、なんかエプロンというか、そういう形してみて首から下げてみたけど……
「金太郎だ、これ」
胸は隠れたけど、それでも下半身は丸見え状態。
エプロン程度にはなるかな~って思ったけど、思った以上に恥ずかしい恰好かもしれない。
「むぅ」
仕方がないので、葉っぱを二枚使って前と後ろを隠すだけのスカートを作った。
『おめでとうございますシズカ・ムオン。あなたは世界で初めて【クロース・クリエイター】の称号を得ました。以後、配信ポイントに特別ボーナスが加算されます』
またゲームマスターの声がして、ボクの体が光る。
「クロース? 布? 服って意味だっけ? アーマーとかじゃないってことか」
まぁ、そりゃそうか。
こんな葉っぱが防具になるわけがない。布ですらないのだから、当たり前か。
「というか礫器って武器なのか。アイテム・クリエイターとかは無かったりする?」
ボクの質問に答えてくれる存在はいなかった。
むぅ。
なんにしても、配信ポイントにボーナスがもらえるようになったのだけど、そんなのを気にしている場合じゃない。
「次は火だ」
ここが最難関とも言える。
水があっても火がないのであれば、飲み水が作れない可能性だってあるし、魚を釣ったりしても生で食べるしかできない。
そうなれば食中毒になってしまう危険が高いわけで。
「ゲーム世界でそんなステータス異常があるのかどうか分からないけどさ」
なんにしても、火は必要になってくるはずだ。
服を早く乾かしたいっていう意味もあるし。
光源を手に入れる、という意味も、もちろんある。なんなら、危険な動物避けにだってなるはずだ。
空を見上げれば太陽があった。
位置は真上?
とりあえず朝とか夕方とかではないのは確実なので、夜がくる前に焚き火は作っておきたい。
「まずは枝を集めないと」
再び森の中に入って落ちている枝とか燃えそうな枯れ葉を集めてくる。
それらを拠点に運んで、次は朽ちた丸太を見つけた。
「ぐにににに!」
重い!
思った以上に物を運ぶのって大変なのか。
まったく持ち上がる気配がなかった。
「……そうだ」
何も持ち上げる必要はない。
蹴って転がしたり引っ張ったりして、丸太をひとつ拠点まで運ぶ。運ぶ終わると礫器で木の皮を剥がしていった。
枯れた木なので簡単に剥がせる。
ベリベリと剥がせたのは、むしろ気持ちいいぐらいだ。
剥がし終わると、皮は置いておいて、丸太を礫器で削りまくる。
「おおりゃああああああああ!」
礫器を丸太に向かって振り降ろしまくると、視界の端っこにスタミナゲージが表示された。
どうやらこういう作業には一定数のスタミナが必要らしい。
使い切ってしまうとどうなるのか?
そんな疑問はあるが……ゼロになると動けなくなってしまう、なんていうリスクがあるので実験はまた後だ。
ゲージがゼロになる前に作業をやめて回復するのを待つ。
その間に手頃なまっすぐの枝を探して、あとはそこそこの太さの枯れ木を採取した。
「頼む」
太い枯れ枝を礫器で切れ込みをいれて、石を上から叩きつけるようにして折る。頃合いの長さになったところで、今度は縦に裂くように礫器を刺し込み、後ろからコツコツと石で叩いた。
「よし、割れた!」
乾燥した木の板っぽいのができた。
ここに三角形の切れ込みを入れて、枝を刺し込むようにして回して摩擦を起こせばいいんだよな。
漫画とかそういうので、おぼろげな絵を覚えている程度だ。
というわけで、ガシガシと礫器で削ってやってみる。
「あ、あれ?」
枝を三角形に刺し込んで、と思ったけど、普通に外れる。うまく固定できない。
やり方を間違ってるな、これ。
「考えろ、考えろ……摩擦だ。摩擦を起こすんだから……」
三角形の切り込みの近くを石で叩いて、ヘコミを作った。
そこに枝を立てて――少し力を加えてみる。
外れる様子はない。
よし!
「おおおおおおおおおおおおお!」
全力で枝を回転させる!
高速でお祈りするように手をスリスリして木を回転させた。なんか木の枝にヒモを付けたやり方がいいはずなんだけど、いまいちアレの作り方が分からないし。
とにかく根性と勢いで回し続ける。
あとはそれこそお祈りだ。
いずれ、木の粉みたいなのが煙を出すはず。
「スタミナゲージ、持ってくれよぉ!」
うりゃりゃりゃりゃりゃ、とボクは手を動かし続けた。
本当ならきっと、こんな風に連続でやり続けることはできない。
でも、ここはゲームの世界で。
ボクの体はVtuberになってる。
木をこすり続けたせいで、手がボロボロになる心配はない。
「おりゃあああああああああ!」
だからこそ、摩擦で煙を出すところまで出来た!
「おっしゃぁ!」
煙が出てる部分を葉っぱを利用して持ち上げて、さっき削りまくった木クズに乗せる。
そのまま枯れ葉で覆うようにして、ボクは腕をぐるんぐるんと回転させた。
「燃えろおおおおおお!」
どちらかというと祈るように。
ボクは声を張り上げながら手をまわし――勢い良くボゥと火がついたところで、立てるようにして組んだ枝の中へと火種を入れた。
そのまま息をふーふーと吹きかける!
燃えろ!
燃えろ、燃えてくれ!
「……どうだ……やった……? やったやった!」
火は徐々に強くなり、枝を燃やし始める。
その後も火が消えないように、丁寧に丁寧に火を育てていった。
段々と安定してきたボクは、ようやく落ち着いたように息を吐く。
「ふへ~」
なんとか……なんとか火を用意できた。
たぶん、現実の世界だったら無理だったと思う。ボクがこんなふうに森の中を動き回って、ゼロから道具を作って、火起こしするなんて。
「いや、そもそもドラゴンから落ちて無事なはずないか」
パチパチと燃え始める焚き火を見ながら。
ボクは大きく息を吐いて。
改めて、思うのだった。
「なんでこんなことになってるの!?」
と。
叫ばずにはいられなかった。
しかも半裸で。
配信されているっていうのに、葉っぱでチラチラと見えてる半裸で!
いったいどうなってるんだ!?
「思い出せ、思い出せ。そう、確か――」
確か、ボクは。
このゲーム……『ワールド・クリエイト』のテストプレイヤーに応募したんだ。
そして、その条件は――
「Vtuberであること」
それを思い出しながら、ボクは焚き火を見つめるのだった。
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