#黒時化空とかいう探索者

 突然だが、アルバイト先の店長からもう来なくていいと言い渡された。

 ついでに出禁も食らった。

 つまりはクビである。

  

 俺の本業は探索者。

 探索者なのだが、雀の涙程しか稼いでいない。

 冗談じゃなくてマジで。

 なので、食費や生活用品のその他諸々の出費をバイトでなんとかしていたのだが、それがクビになってしまった。


 ちなみクビ宣言は今回で七度目である。

 なんともまあ不名誉な。

 それに、そろそろここ周辺のアルバイト先が無くなってきた。

 行くとこ行くとこ全部クビになるから、働き口がどんどん潰れていく。自業自得なのが悔しい。


 自宅から徒歩1分のコンビニが出禁になったのが本当に面倒だし、ここ以外だと同じ系列のコンビニが歩いて10分ほどかかるのだ。

 この系列のコンビニを愛してやまない俺にとっては死活問題だった。 

 ファミ◯キが食べたいのに!


 つか元バイト先が情報提供しながら連携して、ブラックリストにでも載ってそう俺。

 あいつはダメだ。みたいなノリで。

 

 つか俺は勉強が嫌いだ。


 だから進学ではなく就職の道に進んだが、碌に学校生活をしてこなかった俺は見事就職活動に失敗。

 やりたいことも特にないから適当な企業や会社選んでりゃあそうなるか。

 それでどうしようかと悩んだ末に、成人すれば誰にでも成れる、金にならねえ探索者なんかやりながらアルバイトするなんて生活を送っているんだ。

 はっはっは、みっともねえ!

 

 まあダンジョンを攻略する探索者サーチャーになったのには理由がもちろんあるにはあるが。

 それは、ダンジョンアイテムの存在だ。


 ダンジョンと呼ばれている塔、その中は地球と同じような空間が広がっている。

 草原だったり、洞窟だったり、海とか森とかそんな感じ。

 ビルやマンションなどの建造物は無いけど。


 違うところを挙げるとすれば魔物モンスターの存在。

 明らかにゲームや漫画アニメなどの想像上でしか存在し得ない生命体がダンジョン内に生息している。

 それを総じて魔物モンスターと呼ぶんだ。

 スライムやゴブリンなどのメジャーなモンスターはもちろんのこと、様々なモンスターが鎮座している。

 

 このモンスターが生命活動を終了した時、魔石と呼ばれる石ころをドロップする。

 探索者はこの魔石をダンジョンに売っぱらって金にしている。

 

 初めは何にも役に立たないキラキラとした石でしかなかった魔石。

 だが十年ほど前、魔石のエネルギーを電力に変換するという技術が作られた。

 この技術のおかげでかなりマイナーな職業であった探索者は、入手困難なダンジョンアイテムを売る以外に比較的かなり手に入りやすい魔石を売ることができるようになった。

 そのお陰か、その年から数年ほどは探索者の数が増加傾向にあった。

 第一次ダンジョンブームの到来だ。

 だが、ここ近年では大幅に減少し、今年では全盛期の十分の一しかいなくなってしまった。

 

 そうなってしまったのには理由があり、それ魔石は金にならない、という問題である。

 例えば、入ダンジョンしたての探索者が倒す第一階層のモンスター、スライムの魔石の値段は一つ一円だ。

 ビックリするほど安いだろ。

 

 その背景には探索者の数が増えすぎたというものがある。

 理屈は簡単だ。

 探索者の数が増える、売られる魔石の数が増える。

 これが全世界で繰り返し繰り返し起きた結果。

 魔石の数が飽和して電力にかなりの余りができてしまったのだ。

 それまでうまく保っていた需要と供給のバランスが、探索者と反比例するように減っていった。

 計算的には地球が三つ存在しても余裕を持って電力が賄えるらしい。

 なにそれ。


 そんなこともあって、探索者という職業はまるでお金が稼げないので、暇人か、お金に余裕のない社会不適合達の集まりになってしまっている。

 当然俺は後者だ。

 キメて言うことじゃねえなこれ。


 後者の人達は勿論、自業自得だ。

 何の言い訳もできねえ。

 夢も希望も何も無い上に努力をしてこなかった俺達がいけないのだ。

 いやそれは俺だけか。

 今更後悔したってもう遅い。


 今の探索者はダンジョンアイテムを探す職業になりつつある。

 ってかもうなってる。

 

 話がだいぶ逸れていたが、ダンジョンアイテムを探し当てれば人生大逆転だってありえる。


 例えば、ダンジョン産の不老不死に成れる果物が一兆円というとんでもない額で売れたことが記憶に新しい。

 それくらいダンジョンアイテムは一生遊んで暮らせるほどの高い額で売れる。


 、二度目だってきっとあるはず。

 

 ダンジョンアイテムを求めて今日も今日とてダンジョンに俺は潜るのだ。

 その金で一生遊んで暮らすんだ、俺は。

 手始めに無人島買ってそこに豪邸でも建てるか!


「金欲しいなぁ……はぁ」

「よおクロ。溜め息なんかついて。どしたん、話聞こか?」

「お、マジノコじゃん。大金持ちになって好き勝手してる妄想してたとこ」

「ははは、クロは相変わらずだな! つかその名前で呼ぶな」


 ダンジョンのすぐ横に建設されたダンジョン協会のギルド休憩スペースでくつろいでいると、キノコヘヤーの長身の男が話しかけてきた。


 苗字は田中だ。

 名前は知らねえ。


 戦闘スタイルが魔法を使用しているので、その頭と掛けてマジックキノコ、略してマジノコとみんなは呼んでいる。

 年齢は20、俺の一個上だ。

 いつも思うが前髪長すぎて前見えてないだろって思う。

 身長はそこそこ高いし素顔がイケメンなので順当にモテている。 

 気に食わねえ。


 パーカーにジャージなんてラフな格好をしているが、とてもじゃないが探索者の服装とは思えないダンジョン攻略を舐め腐った見てくれだ。

 そのままくたばっちまえ。


 ちなみにコイツ、性癖がまあまあ歪んでいる。


「まあまあ落ち着け? …………ロリ巨乳」

「落ち着いてるわ。ロリ巨乳?」

「それより聞いたか? 第三十七階層が踏破されたらしいぜ…………スク水」

「まじか! どうせまた”炎帝”様が自己更新したんだろうな。…………スク水」

「さっすが炎帝様よなあ。探索者最大火力持ちなだけあるわ。首締め」

「あのさ、さっきから文末に俺の性癖添えるの辞めてくれない? クロのせいで女の子の探索者にも広がってナンパしても失敗続きなんだよね」

「自業自得だバーカ。もっとお淑やかに生きろよマジノコ。…………………ゲロ交換」

「流石の僕でもゲロは無理だ! これまで余計なことしてきた報いを受けろクロォ!」

「あは↑ ちょっとまってくれるとうれしいな!!!」

「フンっ!」


 うごごごごごごご。

 こいつ魔法使いのくせに力が強いぞ……!

 はっ、そうか!


「はぁはぁはぁ…………まさか男の俺で首締めの練習するとは……そっち系もイケる口か?」

「死ね!」

 

 今日も平和な探索者ギルドだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る