魅惑のモチモチお餅さん
『お餅だ。魅力的なお餅がある……』
皆さんは、つきたてのモチモチと柔らかいお餅はお好きだろうか?
私は好きだ。
そして、食べられるお餅はもちろんのこと、お餅のようにプニプニ、ムチムチとした魅惑のマシュマロボディはもっと好きだ。
大好き、愛していると言っても過言ではない。
そして私の彼は、おデブとまではいかないが、
「あれ? もしかしなくても、ちょっと太った?」
と、聞かれてしまう程度にはポッチャリさんである。
今はむっちりな彼だが、付き合ったばかりの頃はシュッとした腹回りに綺麗にくびれた腰という大変スマートな容姿をしていた。
私自身も彼のスッキリとした容姿に惹かれていたので、水着を着る彼のセクシーな腰回りをスケベな目で眺め回したし、彼が腹チラするたびに全神経を白いお腹に集中させたりもしていた。
しかし、同棲を始めてから時が経つにつれ、ゆっくりと彼の腰のくびれが失われ始めた。
そう、太り始めたのだ。
そうなると当然スマートからモッチリへと変化していくわけなのだが、どういう訳か、私の性癖も彼の肉体に合わせて変化し始めた。
彼限定で、むっちりモチモチお餅ボディを愛せるようになったのだ。
いや、むしろ過去の写真を見返した時に、痩せていた頃のスマートな彼を見て物足りなさを感じる自分がいる。
もちろん彼のくびれていた腰は今でも好きだが、取り戻すことを切に願うことは無い。
痩せた彼もポチャった彼も好きだが、あえて言うならば、このままお餅をキープで! と勢いよく挙手してしまいそうになる自分を感じる。
ただのタプタプとした脂肪の塊ではなく、筋肉とハイブリッドされていそうな、絶妙なむっちり具合を誇るお肉が愛おしくて堪らないのだ。
何がどうしてこうなったのか、自分でも不思議なのだが、こういうものは理屈ではない。
見る度にとにかく惹かれてしまい、ついつい触れたくなる。
また、丸っこくて可愛らしいことや触り心地が良いのはもちろんなのだが、それに加えて、
「彼女もできたし、同棲だって始まったし、ちょっとくらい太ってもいいかな? 許されるかな? 深夜に食べるカップ麺やポテチが美味しいな、と油断しているうちに体重を増加させてしまった」
という、怠惰なお餅誕生秘話もいけない。
愛らしすぎる。
彼の餅ボディという物理と、だらけた愛くるしい精神が混然一体となって私の性癖を刺しにくる。
そして、そんな私のすぐ隣には、健やかな寝息を立てて居眠りをする彼がいるのだが、数度寝返りを打った影響で服の裾がめくれあがっており、無防備にお腹が晒されている。
腹回りにはスウェットのゴムが吸い付き、ポヨポヨと柔らかい雰囲気を放っていた。
正直、ボーナスタイムが始まったとしか思えない。
私は魔性の腹チラに釘づけになった。
ツヤツヤのお肌を見つめ、ホウッとため息を吐くと、おもむろにお腹をつつく。
すると、指先がゆっくりとお肉に埋まっていった。
白くて綺麗な肌にはハリがあって、こちらを押し返してくる弾力が非常に気持ち良い。
癒される。
どんなむっちりスライムやスクイーズも、彼の魅惑的なお腹には勝てやしない。
世界最高峰のマシュマロであり、お餅なお腹を私が独占しているという事実が堪らない。
すっかり魅了され、お腹に病みつきになっていると彼が、
「んうぅ……」
と、唸り声をあげて寝返りを打ち、こちらに背中を向けた。
すると今度は、これまたお餅レベルの高いお尻が手元にやってくる。
当然、太った影響でお尻も大きくなっているのだが、それに加えて腕で枕を作り、くの字になって眠っているので、より魅力が強調されている。
おかげで以前まではダボダボだった灰色のスウェットを押し上げ、パツパツになっていた。
お腹よりもむっちりとしていて、つつきがいがありそうだ。
こんな魅力的なお尻を、お餅大好きな私が放っておくわけがない。
スマートフォンのアプリゲームの如く、無言でつつきまくった。
レベルの代わりに私の幸福度が爆上がりしていく。
そうしてすっかり上がり切った私のテンションが、
『ケツドラムしたいなぁ……』
と、悪い言葉を呟いた。
そして「ほら、今すぐドラムしろよ」と言わんばかりに、ネットで流行ったケツドラムの動画やケツドラムされる猫の動画が脳内で自動再生され始める。
『駄目よ、いけないわ。それは猫ちゃんのお尻でも打楽器でもなく、彼のお尻なのよ』
と、己を諌める天使の声と、
『別にケツドラムくらい良いじゃねーか。モチモチッとしたいんだろ? 起きてる時はケツドラムさせてもらえないぞ? むしろ絶好の機会じゃねーか。幸運の女神には前髪しか生えてない。言いたい事、分かるだろ? ほら、よく見てみろって、魅惑のマシュマロお餅様を』
と、全力でケツドラム欲求を煽って来る悪魔の声が聞こえる。
悪い彼女で申し訳ない。
己の欲に負けた私はそっと彼をうつぶせにし、ぽすぽすーん! とスウェットのお尻を優しく、かつリズミカルに叩いた。
お尻とはデリケートな部位なので、あくまでも優しく、相手とお尻を尊重する気持ちを持って、柔らかに、だ。
そして、その次はボンゴの如く、ぽすぽすぽすぽすぽす! と、これまたソフトタッチで優しく叩きまくった。
私は今、世界遺産レベルのケツドラム演奏者だ。
驚愕と感動で立ち上がってひたすらに拍手をする観客たち。
アンコールと叫ぶ声。
聞こえる。
世界がケツドラムを求めている。
魅力的に揺れるお尻の可愛らしさとムチモチな感触に感動し、しばし妄想と余韻に浸った。
すると、流石に目が覚めたらしい彼がムクリと起き上がって、私を軽く睨んだ。
「さっきから何してるの。俺、腹つつかれてる時から若干起きてたからね。ケツドラムまでして……最近太ってきた俺に対する挑発だったりするわけ? 痩せろデブ! ってこと?」
滅相も無い。
太った自分に不満がある彼は私が魅惑のお餅たちをつつくと卑屈になり、抗議の言葉を発するが、私は決して彼に痩せてほしいとは思っていない。
多少の増減は構わないが、基本的には意外と健康な麗しのミラクルお餅ボディを維持していただきたいと切に願っている。
もちろん彼を甘やかしてハイカロリーで美味しいものを与え、いっぱい食べる君が好きとうたうことについては、それ相応の覚悟を持っているつもりだ。
仮に予想外のポッチャリになっても絶対に見捨てたりしないし、急にマシュマロボディが嫌になって振るなんてこともありえない。
むしろ、のんびり屋さんでかわいらしい性格をした、魅惑のお餅ボディを誇る彼を誰かに譲るつもりなど一切ない。
彼の隣は私のものだ。
「かわいくて、つい。もっちりムチムチだねぇ……」
変態ムーブをかましながら非常に満足げな笑顔でお尻を撫でると、彼が不満そうな顔になってコタツに潜っていく。
魅惑のお餅たちが、すっかりコタツの中に仕舞われてしまった。
ああ、まだ触りたかったのに……
「ちょっとくらい、つついてもいいじゃない。意地悪だなあ。あ! そうだ、大福があるよ。しかも、貴方が大好きないちご大福! 食べる?」
テーブルの上に乗っていたコンビニのいちご大福をチラつかせると、彼が顔すらもコタツ布団の中に引っ込めて誘惑から逃げ出す。
だが、コタツの中から響くお腹の音で心が丸わかりだ。
「意地悪なのはそっちだろ。こんなんでも、一応ダイエットしてるって知ってるくせに! コラ! 食べないって!」
封を開けると彼が毛布の隙間から顔を覗かせ、睨んで威嚇する。
だが、私も何度も彼のダイエットを阻害しているので、単純な誘惑では釣れないことなど、とっくに学習済みだ。
私は彼の前でモシャモシャと大福を食べつつ、ぬるくなったお茶を急須から注いで飲み、食欲をあおることにした。
コツは、とにかく美味しそうに食べることだ。
まあ、私も食べることが大好きなので意識せずとも美味しそうに食事できるのだが。
「やっぱり、お茶と大福の相性はいいよね~。もう一個あるよ。どうする~?」
最近甘いものを控えていたことに加え、現在の時刻が深夜一時であり、小腹のすく時間帯だということが効いたらしい。
閉じきっていた心を開き、モソモソとコタツの中から這い出てくる。
まるで、天岩戸から顔を覗かせた天照大御神のようだ。
彼が出て来てくれた喜びで、私の心の中は宴状態だ。
「明日からダイエット頑張る……」
複数回目のダイエット宣言にコクリと頷くと、私は恭しく大福を差し出した。
初めは罪悪感の残る表情で大福の包装を外す彼だったが、一口目を頬張ると、すぐに柔らかい求肥と甘い粒あんの虜になってしまう。
嬉しそうに瞳を輝かせてモチモチと食べ進めていく。
そして、あんこの単調な甘みに飽きてきた頃、タイミングよく飛び出て来たイチゴをシャクッと一口齧ると彼はますます瞳を輝かせた。
イチゴは元々彼の好物なのだが、それに加えて、イチゴ大福用の単体で食べるには少々酸っぱいイチゴが甘ったるい口内で弾けて、爽やかで上品な風味を作り出すのが堪らないらしい。
笑みを溢しながら大福を大切に味わう姿が愛しくて仕方がない。
私は可愛い彼に笑みを返すと、ふっくらとした癒しの二の腕に体を預けた。
大切な彼に引っ付いて和やかな気分に浸りながら美味しいものを食べる。
私は今のところ、これに勝る癒しを知らない。
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