猫系彼女(嫉妬のモフと甘いじゃれ合い)
さて、丸一日を甘く過ごして彼女と一緒にお風呂に入り、入浴後のブラッシングのお手伝いまでしっかりと堪能し、至福の時を過ごした俺は、実にホクホクとしながら彼女とテレビを眺めていた。
俺はバニラ味のアイスを、彼女は最中に包まれたアイスをそれぞれ頬張っている。
獣人と人間ではその容姿が全くと言っていいほど異なるが、実は脳や大半の臓器は共通している。
そのため、人間と獣人では食事の内容が似通っていることも多い。
とはいえ獣人には爪や牙、尻尾が生えているし、猫獣人であればゴロゴロと喉を鳴らすこともできる。
見た目以外は人間と完全に一緒! というわけでもないらしい。
また、人間との共通点や差異については獣人の種類ごとに異なるため、その多くは謎に包まれている。
そして、それぞれの持つ固有の身体的、生物的な特徴に対して異なる種類の多様な専門家が存在しており、彼らは日々、熱心に研究を行っているらしい。
俺もたまにインターネットや専門誌を眺め、ゆるく研究の成果を追う時がある。
ボーッとしていると、不意打ちでCMの音が耳に飛び込んできた。
テレビを見れば、毛皮に隠されていてもマッチョであることが分かるほど己の身体を苛め抜いた、筋骨隆々な男性獣人がグッと親指を立て、
「君もムキムキにならないか!?」
と、液晶越しに視聴者に語りかけてきた。
そして、それを見た彼女が何気なく、
「へー、結構、格好良い人つかってるんだね。イメージ大事だもんね~」
と、呟いた。
その時、俺はついCMの男性に嫉妬してしまい、頭を抱えた。
『うう、こういうことか~!!』
俺は基本的に全身モフモフな獣人しか恋愛対象じゃないし、彼女も基本的に俺のような種族、人間しか恋愛対象じゃない。
そして、互いにそのことを知っている。
だが、それにもかかわらず彼女は獣人の女性よりも人間の女性に対して嫉妬を覚え、ヤキモチを焼くようだった。
何故なのか不思議だったが、今ならちょっと分かる。
俺にはない牙やツヤツヤの毛皮、モフモフの尻尾。
獣人特有の筋肉のつき方や骨格、個別の種ごとに持っている身体的な特徴。
俺も獣人みたいになりたいなと思い、少しでも理想に近づこうと筋トレに励んだりしているわけだし、憧れを感じて、男性向けの男性獣人の肉体的素晴らしさが描かれた雑誌を読んだりもしている。
そして、強い憧れを感じるからこそ嫉妬だってしてしまう。
そんな獣人男性を獣人の彼女が褒める。
太刀打ちできない悔しさと純粋な羨望が喧嘩を始めた。
『なんだろう、こう、なんとも言えないけど、なんかくる』
形容しがたいモヤが心臓にせり上がって暴れ出してしまったので、取り敢えず彼女のモチモチ肉球を揉んだ。
眉間に皺を寄せつつ肉球をムニムニと揉みこむ。
今度は心の中で最上級の癒しと嫉妬がせめぎ合って戦っており、中々に複雑だ。
彼女は渋い顔で肉球を弄ぶ俺を見つめると、
「さっきの男性、格好良かったね」
と、弾んだ声を出した。
見ればタユンと柔らかい口の端が上がっており、目も細められていてニマニマとニヤけている。
しかも獣人男性に対して思いを馳せているというよりは、俺を揶揄うような悪いニヤニヤ顔だ。
彼女は絶対に、俺が嫉妬していると知った上で言葉を重ねている。
とんだ悪党がいたものだ。
「嫉妬させようとしてるだろ! そういう悪い獣人は、余すとこなくモフモフするぞ!」
少々気持ちの悪い事を口走りつつ、キャーッと逃げる彼女にガバッと正面から抱き着いた。
しなやかな筋肉を思わせるモッチリかつ軽やかな体は最高に抱き心地が良い。
そのまま、モッフモフな毛の影響で柔らかくフワッフワになっている鎖骨部分に鼻先を埋め、猫獣人特有の薄いが無臭ではない非常に良い匂いを堪能した。
そして尻尾を弄びつつ、ひたすら肉球を揉む。
「わー、ちょっとまって、コラ! 今は駄目だってば! だって、嫉妬されるの久々だったからさ、ちょっと揶揄いたくなっちゃって。わー! スケベ! 手つきがスケベ! 恥ずかしいよ!!」
彼女は羞恥で肌の薄い目元や耳を真っ赤に染め上げ、俺から遠ざかろうと体を傾ける。
だが俺は有言実行し、テレビそっちのけで彼女のあらゆるモフをモフリ倒した。
モフリすぎた俺はツヤツヤのお肌で大の字になってベッドに寝転がり、モフられすぎた彼女は真っ赤な顔のままベッドの上で丸くなっている。
そして顔を覆い、時折「スケベ……」と非難がましい声で呟いてくる。
そんな姿にグッとくるが、ここはあえてガッツかない。
俺は自分の身体に羽毛布団をかぶせると横を向いて寝転がる。
そして、ガバッと開いて無言で彼女を招いた。
すると、ソロソロと彼女が近寄って来てぎゅむっと俺に抱き着いてくる。
ところで俺は今、タンクトップと七分丈のズボン、そして冷え対策の腹巻だけを巻くというなんとも情けない親父のような格好をしている。
しかも現在は真冬であるのに、この格好である。
別に俺が熱がりだったり、寒いのを耐え忍んで眠るのが大好きなMっ気のある変態だったりするわけではない。
答えは俺が彼女をモフモフするのが大好きであるのと同様に、彼女も俺のスベスベのお肌やすね毛などの体毛が生えているお肌、筋肉などをモチッとするのが大好きだからである。
そのため俺は寒いのを我慢しつつも、貰った癒しをお返しするべくタンクトップなどを身に着け、極限まで肌を露出している。
いや、やっぱり寒いのを耐え忍んで、というのは嘘かもしれない。
モコモコで体温の高い彼女にくっついているだけで既に防寒着いらずなほど温かいのに、さらに羽毛布団が載せられている上に腹巻まで巻いているので、俺は一人サウナ状態だ。
暑い。
非常に暑い。
彼女に、お腹を壊すから駄目! と言われているので外せないが、正直、腹巻はとってしまいたい。
冬よりもむしろ、夏場に暑いのを耐え忍んで彼女と引っ付いていたりする。
ともかく、そんな獣人ホッカイロな彼女はホクホクと俺の胸元に顔を押し付け、スンスンと鼻を鳴らした後、大きな冷たい耳をピトッと胸板に押し付けた。
俺の心臓の音を聴いているらしい。
トクン、トクンと鳴る静かで温かなリズムに病みつきなのだとか。
リラックスした姿が可愛らしくて襲ってしまいたくなるが、心臓に意識を集中させ、心ゆくまで堪能しようとしている彼女にちょっかいを出すと割と本気で怒られるので、ここは我慢する他ない。
しばらくすると彼女の両手がみょんと伸びてきて、俺の頬をモチモチと揉み始める。
「ちょっとひんやりしてて、ツヤツヤでハリがあって、それでいてやわらか~い。この魅惑で絶妙なお肌、大好きだなぁ……」
安心感の混じった深いため息を吐いて、生温かい肉球で俺の頬をモチモチとモチり続ける。
その後も彼女は肉球を駆使して俺のお肌や筋肉を弄び、ペターッと甘え続けた。
そしてひとしきり甘えきると満足し、改めてギュムッと俺の胸元に抱き着いてくる。
俺も彼女をギュッと抱き返しながら頭頂部を嗅いだ。
これが非常に安心する。
至福の時だ。
テンションがぶち上がる。
俺はそっと彼女の耳元に口をよせ、コソッとお誘いをしてみた。
だが、彼女はゆるゆると首を振り、
「だめ。さっきまで散々スケベさんだったでしょ。今日は大人しく私に癒しを提供して寝るの。ふふ~、バツなんだから~」
と、楽しそうに口角を挙げ、悪戯っぽく笑っている。
「えー、でも、それを言うなら君だってスケベさんだろ。さっき俺のセクシーな」
言いかけたところで彼女がバフッと肉球を俺の口に押し当て、言葉を封じ込める。
「う、うるさいよ! 良いの! あなたよりは全然スケベじゃなかったし! あんなの恋人同士の健全な触れ合いだもの!!」
少し涙目になり、早口で必死になっているのが非常に可愛らしい。
「え? そうかな。結構手つきがスケベだし、君ってむっつりスケベなんだなって……いてっ!」
揶揄っていると、怒った彼女の爪が背中に食い込む。
だが、これがいつもよりも少し強くて声が飛び出した。
雰囲気はじゃれ合いそのものなので、うっかり力を込めてしまったか当たり所が悪かったかのどちらかだろう。
久々に涙目になると、慌てた彼女が、
「ごめん! 思ったよりも爪が刺さっちゃったかも!? い、痛い!?」
と、労わるように俺の背中を肉球で撫で、怪我の有無を確認し出す。
だが、自分で触ってみた感じ血は出ていない。
爪の食い込んだ跡くらいはできているかもしれないが、外傷ができている感じもしない。
というか、怪我しない程度の爪食い込みは俺的に本当に褒美だし、撫でられて心配されたら痛みが吹っ飛んだ。
「痛いの痛いの飛んでけーってかわいい感じで言って、背中にちゅーしてくれたら治っちゃうかも!?」
ぶち上がったテンションでバカなことを口走ると、彼女の目つきが一気に冷たくなる。
「おバカな冗談を言えるなら平気かな? 全くもう! もう眠るからね」
彼女は頬を膨らませると、改めて俺の懐に潜り込んだ。
その後も、ちょっかいを出したり出されたりしながら和やかな夜が過ぎていった。
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