「お節介さん」の裏事情(憂鬱な黒坂と仮病)
例の放課後から佐藤による黒坂のストレス解消計画が実施された。
初めは佐藤に促され、一日に一度お喋りをするだけだったのだが、時が経つにつれて段々と学校でも話すようになり、今では二人で弁当を食べたり、一緒に帰宅をしたりするようになっていた。
また、会話の内容も愚痴めいたものから普通の世間話や趣味の内容へと切り替わり、自然と明るい話題が増えた。
冬休みには二人で出掛け、クリスマスのイルミネーションを眺めたり、初日の出を見たりして、初詣にも行った。
二人は友達以上、恋人未満といった雰囲気だ。
黒坂はいつの間にか佐藤のことが気になり、彼女に恋愛感情を抱くようになっていた。
ベッドに寝転がっている今も、何となく佐藤のことを考えてボーっとしている。
『佐藤、今、何してんのかな? 真面目な佐藤だから、お勉強してるって言いたいところだけど、意外とテキトーなんだよな。小遣いの行き先は大体スマホゲームの課金だし。まあ、佐藤がしょっちゅうスマホを弄ってくれてるおかげで、返信率も既読率もいいんだけど』
黒坂はスマートフォンを片手にゴロリと寝返りを打った。
フォトアプリを開いて、友人になりたての頃の写真を眺める。
出てきたのは、「ストレス解消には意外と効果的よ!」と、五枚重ねのクッションをいい笑顔で殴っている佐藤の写真や、パフェの大食いチャレンジに挑戦している写真、謎のB級サメ映画のポスターの前でガチ泣きしている写真などだ。
彼女は黒坂が首を傾げた、雰囲気だけで感動に持っていっている映画のラストシーンで号泣していた。
人の感性は様々とはいえ、普段の彼女の趣味嗜好からも不可思議な態度だった。
そこで、どういうことなのかと後から聞いてみたら、映画館にいた複数人の客と感覚を共有してしまい、無駄に泣いてしまったのだそうだ。
確かに館内から客のすすり泣く声は聞こえてきたが、共有してしまうほど強い感情だったというのには驚いた。
他にも、「走るとストレスに効くらしいよ!」と、上下ジャージで自転車に乗って現れた佐藤の写真などもある。
『そういや、最初の頃はストレスの解消のためにってことで遊びに誘われてたんだった。最近では、そういうの関係なく遊びに行ってたから、忘れてたな。いや、そう思っているのは俺だけか……』
黒坂は小さくため息をついて毛布に潜り込んだ。
不意にブゥンとスマートフォンが微振動を起こし、ロック画面にメッセージアプリの通知を表示する。
メッセージには、
「兄さんのプロジェクターで映画でも見ない?」
とあり、映画の概要を説明するリンクも貼られていた。
次いで送られてきた写真には、室内を暗くして映画館風にし、ミニソファーを並べ、プロジェクターの準備をする佐藤が映っている。
両手にポップコーンの袋とペットボトルのジュースを抱き、カメラに向かって、良い笑顔で親指を立てていた。
『お前はチャラ男か!』
心の中でツッコミを入れつつ、
「せっかく準備してくれたのに悪いんだけど、俺、今日は調子が悪いんだ。また今度にしてくれ」
と返信した。
近頃の黒坂は、佐藤の協力もあって大分メンタルが回復している。
少し前の自分を振り返って、
「確かに、あの頃は訳も分からずに疲弊していて、なんだか暗くなっていたよな」
と、思えるまでになっており、佐藤のサポートが不必要になる段階まで来ていたのだ。
そして、だからこそ黒坂は佐藤を避けており、彼女と会う頻度を減らしたがっていた。
仮病を使って断りを入れるのも、今日が初めてではない。
再度ため息をつき、スマートフォンを机の上に置いた。
そして、再びスマートフォンが微振動を起こすのを無視して毛布の中で丸まり、落ち込んだ。
しばらく沈んでいると心臓に嫌なよどみが溜まって苦しくなる。
気分転換をしようと、黒坂は財布のみを持って玄関を出た。
そして、バッタリと佐藤に出くわした。
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