第9話/パティが山に来れたのは『パティ視点』

 兄さんの行動には困るものがある。それは私と喧嘩した後、密かにどこかへと行き時折街の外に出ること。


 今回は買い物だと言っていたし、私もそうなのかなって思った。だけどよく良く考えれば夜にお店なんてやってないし、やっていたとしても異常に帰りが遅い。


 兄さんが買い物に行くと決まったもの以外は買わず悩むこともあまりない。だからこそ、兄さんがまたどこかで頭を冷やしているとわかる。


「あのバカ兄さん……! 夜の外は危険だってあれだけ……!」


 さっきから感じる胸騒ぎも相まって、私は急いで兄さんの捜索をするための支度をする。


 その時だった。


「パティちゃん〜。【ショートケーキ】から連絡来たわよ〜」


 ゆったりとした口調で私の部屋にやってきたのは、クリーム色のウェーブロングヘアを持ち、いつも優しい笑みを浮かべている【アイスクリーム】。私からするとめちゃくちゃ羨ましいくらいに出てるところが出ていて、凄くおっとりしてるしママみが強いスイーツナイトだ。


「ナイスタイミング! ありがとう【アイスクリーム】! それで【ショートケーキ】はなんて?」


「近くの森に向かってるのと〜、変な気配を感じるって〜。念の為に昇華の実持ってきてだって〜」


「なんであの娘は私が昇華の実持ってること知ってるのよ!? でもまぁいいや、今は兄さんの無事を祈るしか……」


 実は【ショートケーキ】には何時でも連絡できるように通話ができる連絡晶石テルストーンを持ってもらっている。それを使えばいつでもどこでも兄さんのことを……もとい家の状況などを知ることができたりするからだ。


 特に今回みたいなことがあった時にも役に立つので一家に1セットはあるんだ。まぁ私は自分が持ってるとめちゃくちゃ連絡しそうで怖いから【アイスクリーム】に持って管理してもらってるんだけどね。


「【アイスクリーム】は家の事頼むね」


「ふふっパティちゃんの仰せのままに〜」


 急いで自分の部屋から出るとまず向かったのはヨーグルトキウイの【キウイ】の部屋。


 さっきも言ったように、夜の外は危険でSKを連れていない私は戦場に放り投げられた小動物みたいなものになる。だから私の中で1番頼れる【キウイ】を連れてくことにした。


「【キウイ】! 私と一緒に兄さん探して!」


「いきなり過ぎて話が読めないッスけど、了解ッス! あ、でも待ってくださいッス。シエルから貰った試作品全部食べてから――」


「それは後でいいよね!?」


 半ば無理やりに【キウイ】を連れ出して森へと私たちは向かった。


 余程食べたかったのか【キウイ】が泣くものだから罪悪感が凄いけど今は兄さんを優先したい。


 【ショートケーキ】が近くにいるとはいえ夜の外は何があってもおかしくないんだから。

  




 森に入り少し歩くと魔力の流れを感じた。


「この魔力は【ショートケーキ】ッスね。もしかしたら戦闘になってるかもッス」


「てことは嫌な予感が的中……ううん、まだ最悪の事態かはわからないよね……【キウイ】、周囲見てきて。ただし異変があったら戦闘せずに私に伝えること!」


「了解ッス! でも私しか連れてきてないからパティも気をつけるッスよ!」


 【キウイ】の言う通り。私は1人しか連れてきていない……というより【アイスクリーム】を留守番させるのなら【キウイ】しか連れていけるSKが居ないんだから仕方ないんだけどね。


 でも、だからこそ今偵察に向かわせるのは私にとってかなり危険な行為になる。それでも偵察することで他の脅威があるかどうか知ることができ、万が一に備えることができるんだ。


 少ししてから誰かが走ってくる音が聞こえた。まだ【キウイ】が戻ってきてないのに、魔物にでも見つかったら不味い。


 私は直ぐに近くの木に隠れつつ、音がする方を目を凝らしながら見つめて警戒する。すると僅かにだけど兄さんがなにかに襲われているのが見えた。


 ってなんで襲われてるの!?


 助けたくてもまだ【キウイ】が戻ってきてないから、私が行ったところでどうすることも出来ない。かといって見捨てる訳にも……!


 色んな葛藤が頭の中で渦巻き始めたところで凛とした声が森に響いた。


「今だパティ! 昇華の実をこいつに食わせてやれ!」 


 声の主は【ショートケーキ】。兄さんの危機に焦って忘れてたけど兄さんと共にここに行動しているSK。近くにいるならなんで助けないの! と言いたいところだけど、なにか理由があるんだろう。【ショートケーキ】が助けれないのならもう私が助けるしかない!


 【ショートケーキ】が言っていた昇華の実を持って、私はそこから飛び出し兄さんの上に股がっていたなにかの口にそれを突っ込んだ。


 というか兄さんに跨るとか……問答無用で四肢をバラバラにして魔物の餌食にしてやりたいんだけど……まぁ【ショートケーキ】の作戦っぽいし今回は見逃そう。うん。見逃そう。


 その後、昇華の実を食べさせたSKを気絶させて、一旦家に持って帰る。


 兄さんはこのSKを回復させるためのスイーツを作ってもらうため、今は【ショートケーキ】と2人きり。そこで何があったのかを聞いた。


「一体何がどうしてこうなったの? 【ショートケーキ】がいればこのくらいなんてこと無かったよね?」


「……ああ。だが、妙だったんだ。この【ドーナツ】とやらは、【ディスポーザー】なりかけなのにも関わらず、意志を保ち、シエルだけを襲った。流石に一般市民が近くにいると手が出せず手こずっていたんだ。それにシエルは【ディスポーザー】の声を聞き、この子を救いたいと言った……その結果がこれだ」


「そういう……でも【ショートケーキ】は私が兄さんをパティシエにさせたくないこと知ってるよね。私としては何としてもこの子を始末して欲しかったんだけど」


「もちろんわかっている。パティが兄を守ろうとしていることも、残された家族ゆえにもう失いたくないからとパティシエから遠ざけていることも」


「なら……」


「だがな、ただ守っているだけではシエルは成長しない。加えて、家族のことを全部1人で背負うパティもいつかは壊れてしまう。その未来こそ両親が望んでいないものだろう? ならばいっそ覚醒させ、ちゃんと2人で背負うべきだと思ったんだ。私ながら勝手なことをしたということは自負している。けれど、将来を見据えた上でのことだ許して欲しい」


 【ショートケーキ】は昔から私たちを観てきたSK。もちろん母さんも父さんも知っていて、だからだろう母さんと父さんが居なくなったあと、こうして親のように私たちの将来のことを考えてくれる時があるのだ。


 本当の家族では無いし、正直余計なお世話だと思う。でもその余計なお世話おせっかいが私たちを助けてくれたことも事実。


 それにもう過ぎたことだ。仕方ないといえば仕方ない。


「……はぁ、まぁわかったけど……そうなると今度協会の招待状ちゃんと渡さないとなぁ……うう私の夢がこんなに早く崩れるなんて……」


「……それは本当に済まない」

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