第8話/【ドーナツ】の新たな主
「……あれ、ここは」
「
【ショートケーキ】の声の前に薄らと声が聞こえたからなんとなく【ドーナツ】が起きたのは理解していて、俺はソファに寝かせていた彼女の近くに歩み寄った。
「大丈夫? 左腕の感覚はある? さっきのことは覚えてる?」
まさか本当に目が覚めるとは思ってなかった。だって俺は逃げて捕まえてドーナツ食わせただけだもん。何が起こるかなんて殆ど知らないから本当にびっくりした。
でも起きてくれたおかげで聞きたいことをようやく聴ける。ただその前に【ディスポーザー】の時のことが気になって聞いてみることにした。
「……感覚は……あります。さっきのことも……うっすらとは……本当に助けて下さり……ありがとう……ございます……」
むくりと起き上がった彼女の顔は思った以上に綺麗に整っており覇気こそ今は感じとれないが、かなり幼く見える。身体も汚れが目立つが、風が吹けば吹き飛ばされそうなくらいにか細くて見た目は13歳くらい。
いや、幼く見えるとは言ったけどどう見ても子供では……?
なんて俺が思っているとは知らない彼女はゆっくりと先程までなかった左腕の感覚をなんども確認し、挙句にはぽろぽろと大粒の涙を零していた。
「本当に……本当に……ありがとうございます……【ドーナツ】……感謝しきれません……」
「……【ドーナツ】……その、もし、良かったらだけど何があったのか。教えてくれるかな」
一旦泣き止むまで待ち、どうしてあの場所にいたのか。そもそもなんで【ディスポーザー】になったのか知るべく、目線を合わせて聞いてみる。
すると彼女は下を向いたまま固まり、少ししてから小さく頷いて濁声のまま話し始めた。
「その……抜け出して……きたんです。【ドーナツ】の前の主は……えと、いい人じゃなくて……スイーツナイトを悪いように、使ったり……私欲のために、利用したり……ちゃんとできなかったら……暴力、振るって、くるんです……左腕が無くなった……のも……それが、原因で……」
「そっか……ありがとう教えてくれて。今まで辛かったな、もう大丈夫だからな。君は俺たちが守るしそんな酷いことはしないから。あ、自己紹介まだだよね、俺はシエル、こっちは――」
話してくれたのはいいけど、また泣きそうになっていたため俺はそっと抱き寄せて頭を撫でた。柄にもないことで正直こそばゆいけど、これが俺にできる唯一の励まし方かなって。
にしても……前の主……前のっていうことは今の主は?
しばらくここに居てもらうのだからと、俺と【ショートケーキ】、そしてパティを軽く紹介した後、今の主のことを尋ねてみた。
「【ドーナツ】。前の主って言ってたけど今の主はそういうことしないんだよな?」
「え……と多分……少なくとも【ドーナツ】を助けてくれた……のですから、そういうことはしない……と思います。そ、そそそそそれとも、やっぱりシエルさんもそういうのを望んで助けたんですか!?」
「おーっと? 俺は主じゃないぞー? あと仮に手を出したらもれなく妹に殺されるから安心してくれ」
なんで助けただけで主として認識されてるのかわからないけど、こう、SKって変なやつ多いのか!? 仮に俺が主だとして今の話の流れで襲うことにはならんだろ!? というかちょっと期待してるような目はやめて!? そういうの嫌じゃなかったの!?
【ドーナツ】の顔が赤くなりわたわたと全身を使って焦っている。その上ちらちらと上目遣い気味にこっちを見てくるもんだから冷静さを保つのがやっとだった。まぁもし手を出せば多分、いや絶対パティに嫌われる、というかフルボッコにされるからしないけど。そもそもパティの方が可愛いからな!
何故かしょんぼりとする【ドーナツ】を他所に、主が俺認定なのはどういうことなのか、【ショートケーキ】に聞く。
「なぁ【ショートケーキ】。【ドーナツ】の現主が俺ってどういうことなんだ?」
「どういうことも何もそのままの意味だ。言っただろう? 覚悟はあるかと」
「言ってたけど……つまりどういうこと?」
「はぁ……仕方ないな。1から説明する」
「最初からそうしてくれ……」
「【ディスポーザー】になった者は基本的には助からない。だが、なりかけの場合、昇華の実を食べさせた後、元のスイーツ……つまり今回のだとドーナツだな。それを食べさせるとこのように意識が戻り、スイーツを作り食べさせた人物が新たな主となるんだ。と言っても昇華の実はSKパティシエしか持てない上、仮に出回っていてもSKパティシエの導きの力を持つ人物が作ったスイーツを食べさせないと意識は回復しない。ということだ」
つまり俺にはやっぱりパティと同じSKパティシエの力があり、指示通りに動いただけだったけどその力があるからさっきの行動で【ドーナツ】の主になったということらしい。
……まぁ確かに【ドーナツ】を助ける。 守る。とは言ったけど、まさか俺が主になるなんて……
「……つまり今後はパティと一緒に
「ほんっっっっっっっっっと兄さんキモイ……」
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