第7話/助けるために
「今だパティ! 昇華の実をこいつに食わせてやれ!」
【ショートケーキ】が叫ぶ。え、待ってパティがここにいる!?
いるはずのない名前を聞いて俺の思考が停止した。抜け出すことよりも妹がここにいる事実を確認する。見える範囲ではパティの姿は見えない。だが、走る音が地面を伝って聞こえてくる。
すぐに足音は耳元まで来て。
「もう! 昇華の実は貴重なんだから感謝してよ兄さん!!」
パティの怒りの声が聞こえると、俺の上にのしかかっていた重りがスっとなくなった。急いで立ち上がると、苦しんでいる【ドーナツ】が地面に横たわりもがいていた。
まるで毒でも盛られたようなもがき方で怖いんだけど……
「パ、パティ……なんでここに……?」
「それは後! 昇華の実はスイーツナイトになるためのものだけど、【ディスポーザー】に食べさせると
【ドーナツ】の苦しそうな藻掻きが収まるとゆっくりと立ち上がる。無くなっていた腕は傷口から気持ち悪いくらいに肉が伸びてやがて左腕になっていた。SK自体神秘なものだけどこういうの見ると怖いな……。
あと変化はそれだけじゃあ無かった。パティが言った通り暴走したんだ。正確には意識だけ完全に【ディスポーザー】になったようなもの。
「これどうやって助けるの!?」
「ぶっ叩いて気絶させる!」
「はぁ!? も、もうちょいこう……優しいのないの!? ていうかそれに誰でもできるよねそれ!?」
「じゃあ食われろ阿呆兄さん!」
「ひでぇ!?」
暴走して、それをどうにかする必要があるみたいだけどここに来てまさかの物理。それSKの力云々無くても良くね?
と言うと妹が食われろと言ってきた。実兄に対して酷すぎないですかね?
そんなやり取りをしてると【ドーナツ】が襲いかかってきた。人が増えても襲われるのはやはり俺だ。
でも今回は仰向けで馬乗り。一体俺は今日何回馬乗りされるんだよ!それにさっきよりも動きが早いし力が強い!
「くっ……! さっきよりも力増してるんだけど……!?」
「暴走してるからな……全く
【ショートケーキ】が先程取りだしていた大きな泡立て器で殴った。泡立て器自体そこまで硬い物じゃないし、少し弾力があるからか殴った衝撃で泡立て器が跳ねる。
でも間髪入れずにもう一度殴ったところで【ドーナツ】がその場に倒れた。多分当たりどころが悪かったんだろう。じゃなければ殺傷能力のなさそうな泡立て器で気絶なんてしない。にしてもなんというか……可哀想まであるやり方にちょっと怖いな。
「泡立て器で気絶するって怖いよ……怖いよ俺……」
「そんなこと言ってないでまだやる事あるんだから! 次は目が覚めてまた暴れないように縛って家に連れてくよ!」
「そして俺はみんなが何をしようとしてるのか全くわからない怖さにも襲われてるよ……」
逃げたらパティが来て、なんか食わせたと思ったら気絶させて今度は家に連れていくって……やってることが人攫いでお兄ちゃんはすごく怖いよ……。
でも文句も言えない雰囲気でやむなくパティの言うことを聞いて気絶した【ドーナツ】を連れていくことに。
連れてくる間【ドーナツ】は気絶したまま。何故か悲しそうな顔をしたり、ぷんすこと頬を膨らませたりと情緒不安定なパティ曰く運がいいとのことで、この後はデザートのドーナツを作って食べさせるとの事。
なら昇華の実を混ぜて作ってしまえば早いのでは? なんて思ったけど、それだと確かに【ドーナツ】は生まれるけど別人格だから助けたうちには入らないらしい。
助けるならこの手順でやらないと駄目とのことで、俺は急いでドーナツを作る。と言っても焼きたて、揚げたて、作りたて限定みたいだから割と時間かかるんだよな……。
「でもまぁ幸いにも生地はあるから形取って揚げるだけか……」
元々店頭販売用に小さい丸ドーナツを作る予定だったから生地はあった。多分その丸ドーナツでも問題はないとは思うけど、これで違うってなったら困る。そこで俺は店頭販売のものになる予定だった生地をリング状に型取りして165℃から170℃の油にそっと入れることにした。
お店に出すわけではないから揚げるのは1個だけ。それだけでも油と小麦の匂いがじゅわっという揚がる音と共に部屋に広がった。
油に入れた生地が固まらないうちに中心の穴に棒を入れて形を整えるように回す。時々トングで裏返して数分。こんがりと焼き目が着いたところで油槽から取り出し、パティが持ってきたシュガードラゴンの鱗砂糖を荒く砕いてまぶす。
「……よし、できた」
生地があったのが幸いで調理に取り掛かってから10分も経ってない。急いで出来たてホヤホヤのドーナツを持って【ドーナツ】の元へと向かった。
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