第4話/パティの想い『パティ視点』

「はぁ……」


 またやっちゃった。そう思いながらは自分の部屋の扉の前で座り込む。


 別に兄さんのことを嫌ってるわけじゃない。むしろ好きだ。でも私たちは兄妹。この禁断の想いは我慢しなきゃならない。


 その気持ちを我慢すると兄さんに冷たく当たってしまう。そして落ち込む。この負のループが私を苦しませる。


「義妹とかいとこだったら良かったのになぁ……」


 ゆっくりと立ってベッドに潜り込む。罪悪感でこのまま消えちゃいたいくらい気持ちがあるから、寝ちゃいたい。


 なんなら起きたくない。明日どういう顔して兄さんと話ししたりしなきゃならないの……いや多分こう考えていても結果は変わらないんだろうけど。


 そう考えてると再びため息が自然と吐き出た。


 考えても無駄なのはわかるし、ちゃんとしなきゃと思っても体も声も本音が出ないんだもの仕方ないよね。


「おーい、パティいるかー?」


 暫くして突然部屋の外から兄さんの声が聞こえた。って、え!? な、なんで私を!? ていうか私帰ってきてからそんなに経ってないし、兄さんはきっとお菓子を作ってるはず……。


 怪しい人かもしれないから返事は返さないでおこう。いや、自宅の中で怪しい人もなにもないと思うけど。


「起きないなら夜飯作らんぞー?」


 ……ん? 夜ご飯? でもまだそんな時間じゃないでしょ。私帰ってきた時は太陽が完全に沈む前だったし。


 でも兄さんは嘘つかないしな……と、起きた時に気づいた、今の時間は既に太陽が沈み、闇が世界を包んでいたのだ。


 つまり私はこの短時間で寝てしまっていたようだ。


「……本当に返事かえってこないな。まさか何かあったとか……? パティすまん、開けるぞ!」


「待って待って待って起きてるから! さも当たり前のように勝手に開けようとしないで!? 変態!?」


「変態って何かあったのか心配した兄に対して失礼やすぎないか……てか大丈夫か? 顔赤いし、具合でも悪かったのか?」


 兄さんが急に部屋のドアを開けようとしてきたから、1度戸を締めてからもう一度開けて部屋の外に出た。1度閉めたのは、私もノブを持って開ければ兄さんが倒れてくるという危険性があったからだ。


 部屋の外に出て早々、兄さんの顔がずいっと近くなり顔が熱くなって行くのが自分でもわかった。


 対して兄さんは何も思ってないのか右手で私のおでこを触ってきた。熱があるかどうか調べるためだろう。でもこの状況のせいで自分自身でもわかるくらいには熱が込み上げてきていて。


「熱いな……ちょっと待ってろ、風邪に効くやつ持ってくる。あとおかゆ」


「いいからっ! 大丈夫だから心配しないで!」


「大丈夫じゃない! ……この店は今は俺たちしかいないんだ。お前までぶっ倒られて、居なくなったら誰がここを守るって言うんだよ……SKパティシエの資格がない俺じゃあ完全には守れないんだぞ……」


 ――ああ、またやっちゃった。


 急いでキッチンへと向かう兄さんの背中をみながら私は後悔した。でも大丈夫なのは本当のこと。私がこんな性格だから多分信じてくれないのかもしれない。


 本当に、素直になれない私は嫌いだ。


 込み上げてくる嫌な気持ちが溢れそうになる。兄さんはまだ戻ってこないだろうし、私は部屋の中に戻った。開けられないようにまたドアの前に座って涙を流した。


「『SKパティシエの資格がない俺じゃあ完全に守れない』……か」

 

 本当なら兄さんにだってスイーツナイトのパティシエになれる資格がある。なんなら私よりも多分才能があるだろう。実際潜在的な能力があると見込んだSK協会が会いに来ようとしていたくらいだし。


 まぁ、私がそれを阻止しているから兄さんは知らないけど。


 なにせSKパティシエはSKを製作し、それらを連れて魔物や、主のいない暴走したSKと対峙しなければならない。さすがに兄さんにそんな危険なことをやって欲しくは無いからね。


「なんとしても兄さんを守らなきゃ……」


 ドアをノックする音が聞こえ、私は強く決心した。いや、元々前から決めてたことだから今更だけど。


「大丈夫かパティ」


「元々大丈夫だって言ってるけど……まぁありがとう」


「……パティ。お前はここや俺たち家族のためによく頑張ってるよ。だけどな、本当に無茶だけはやめてくれ。たまに傷だらけで帰って来る時あるけど凄く心配するんだからな」


「……実兄に言うのもあれだけど。兄さんはママか何かなの? 気遣い嬉しいけど心配の仕方がキモイ。ともかく本当に大丈夫だから。でもありがとね」


 ドアを開けて兄さん手作りのおかゆを受け取り、キモいくらいの心配を受けた。別にSKパティシエは傷つくものだからその心配は無意味なんだけど、ただ実兄とはいえキモすぎる。さすがシスコン。

 

 このままだと永遠と兄さんの心配性に付き合わされるだろうから私は部屋の中に戻っておかゆを食べる。風邪じゃないからできれば普通の食事がしたいんだけど……。


「薄い……」


 今はこの味の薄いおかゆで我慢するしかないみたいだ。


「そうだ、パティ。さっき【ヨーグルトキウイ】と商品開発したんだ。その試作品をキッチンの冷蔵庫に入れておいたから、体調が回復したら食べて感想を聞かせてくれ。俺はちょっと用事で【ショートケーキ】連れて外出てくるから」


「……わかった。気を付けてね」


 一口食べたところで再び廊下の方から兄さんの声が聞こえる。外に出るというのだから多分買い物だろう。なにか胸騒ぎがしてる気がするけど……まあ【ショートケーキ】と一緒なら何かあっても大丈……。


「ああ、私も人のこと言えないなぁ……」

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