第3話/【ヨーグルトキウイ】

「ただいま」


「おかえりパティ!」


「うるさ」

 

 そして今。リビングに顔を出してハスキーな声を出したのがパティ。可愛らしかった頃の印象なんて全くなくて、多分昔のことを知らない人に可愛かったんだぞと言っても信じてはくれないだろう。と言うか絶対信じない。だっておかえりって言っただけで見下すような目付きで見ては鼻で笑い、肩まである髪を払うという嫌な雰囲気を出すんだから。


 それと妹の変化はそれだけじゃあない。パティはスイーツナイトを従える特別なパティシエ……SKパティシエとして俺たちの店と国のために働くようになったのだ。


 というのも、【ショートケーキ】を生み出したのは実は俺ではなくパティ。スイーツナイトを生み出すには材料はもちろんのこと、導きの軌跡と呼ばれてる能力が必要なのだ。


 あの頃、その場にこの能力を持ち合わせていたのはパティのみ。故に国の命令により2年前からSKパティシエとして働くようになった。正直羨ましい。


 働くようになって最初はまぁ、昔みたいに可愛らしかったんだけど、仕事をこなすにつれて段々と俺に当たりが冷たーーくなっていった。そう、まるでドライアイスのように。


 一体俺が何をしたというのだ……。


「これ、今日の。それじゃあ渡したから」


 心の中でしょげてるとリビングの机の上にどすっと大きな荷物を置いて、さっさと自分の部屋に向かっていった。


 これには連れのスイーツナイトもため息をついているくらいで、俺としても困ってはいる。


 というのも実は今、俺とパティの2人で店を経営しており、スイーツ材料は全てパティが用意してくれているのだ。


 3年前、母さんが失踪し、父さんは母さんを探しに出たっきり帰ってこない。一気に家族を2人も失った寂しさ、悲しさは今でも覚えている。


 それでも時間は待ってくれないし、自分たちで稼がなければ食べていけない。父さん達が帰ってくるところもちゃんと残さないといけないのだから2人になった今でも経営は続けているのだ。


 また、あれからお菓子作りが上手くなり、店に並べれる程度には美味しいものが作れるようになったのは不幸中の幸いだ。


 パティが持ってきた袋を開けてみれば、調味料やお菓子の素材がごろごろと入っていた。


 シュガードラゴンの鱗砂糖。

 ソルトスネイクの塩皮。

 スパイスプラントの香味枝。

 バタッファローの角バター。


 など、中には魔物産調味料素材も入っていた。これらはスイーツナイトしか討伐できないと言われている魔物で、それらの素材はかなり高価だ。


 最も、俺らの場合自給自足状態だから、素材価値は高価ではあるけどスイーツはお手頃価格! と言っても市場荒らし! とか言われたら嫌だから既存のスイーツよりは高めではあるし、ちゃんと普通のスイーツも売ってるんだけどね。


「今日は何を作るんスか?」


「店頭販売用のはもうあるから……俺らが食べるように日持ちするクッキーでも作ろうかなって思ってる」


「クッキーッスかぁ〜。それなら私はキウイ味がいいッス!」


にならないそれ……君、ヨーグルトキウイなのに」


「あはは! 心配ご無用ッス! SKに共食いって言葉はないッスからね。なんならデザートは活力にも繋がるからむしろ食べなきゃなんスよー!」

 

「そっか……でもお店用だから【ヨーグルトキウイ】の要望通りには作れないけどね」


「ガーン……ショックッス……」


「……ただまぁバリエーションとしてはいいか。キウイのクッキー……キウイのジャムをバニラクッキーで挟んでみるか。試作したらあげるよ」


「やったッス! やっぱりパティが言ってた通りシエル君優しいッスし、ものは言ってみるものッスね」


「ん? パティが俺の事言ってたの?」


「あ、ナンデモナイッス。と、ともかくキウイクッキー楽しみにしてるッスよ!」

 

 パティが持ってきた素材とにらめっこしているところに声をかけてきたのは、パティが連れていたSKの【ヨーグルトキウイ】。みんなはキウイと呼んでる。フルーツと同じ名前で訳分からなくなりそうだから俺はヨーグルトキウイと呼んでるけどね。


 ちなみにその子はキウイベースだからか、キウイの皮と同じココア色に焼けた肌を持っていて、鮮やかでしかし派手ではなく落ち着いている黄緑の髪の前にヨーグルトのように淡い白髪が一筋垂れているのがなんと言っても特徴的だ。


 それにいつも眩しい笑顔をするほど元気がよくて、まるで犬のようなSK。実際パティに主従を誓い、いつも一緒にいるのだから犬という表現は間違いじゃない。


 主従を誓ってるのに俺にも懐いてるのは、俺とパティが兄妹だからだろう。そこら辺は聞いたことは無いし、聞いたとしてもはぐらかされるだろうけど多分そうと思えるんだ。


 なんたって【ヨーグルトキウイ】は聞いた話によると知らない相手を睨み、牙を剥くこともある。なのに俺と初めて会った時めちゃくちゃ笑顔で抱きしめられたし。あの時は背骨やりそうで怖かったわ……。


 ともかく【ヨーグルトキウイ】は人の言葉を話せるようになった狼とか犬とかそんなイメージが強く、だからこそ俺達が兄妹だからこそ懐いてるんだろう。


 それから俺はパティが持ってきてくれた材料と在庫のもので【ヨーグルトキウイ】ご要望のキウイクッキー……は生地に混ぜ込んでという手間があり、混ぜたら最後その生地はキウイに染ってしまうため、俺が最初に思いついたキウイジャムのクッキーサンドをぱぱっと作った。


「こんなもんか。ほら【ヨーグルトキウイ】。試作品食べてみて」


「おお……なんか……マカロンみたいッスね」


「まぁイメージはそれだな。ただマカロンクッキーだと甘さが強いから、あえてクッキーにして塩見で――」


「んぅ〜!! このクッキーの丁度いい塩味がジャムの甘さを引き立ててるッスね〜。でも少しずつ食べてるとジャムが出てきて手がベタベタになりかねないッスねこれ」


「いや、話を聞けよ……まぁタルトみたいにするのもありだけど形がないからな……そうなるとちょっと小さくして一口大にするのはどうだ?」


「それ、良いッスね!」


 ものは試しにと作ったが、サンドは食べてると中身が出てくる食べ物。それで手が汚れるのはよくある事だが、どうせなら綺麗に食べてもらいたい。そんな思いで俺はなぜか【ヨーグルトキウイ】と商品開発をするのだった。

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