第41話 どうしちゃったんだろ、私



 ――――――浪side



 海に来て、まさか白鳥に会うとは思わなかった。

 嬉しいのと反面、私は後悔した。白鳥と会うって知ってたら、もっとかわいい水着着てきたのに!


 こんな、肌面積の少ない……って、それじゃ私が白鳥に肌見せたがってるみたいじゃない! でも、男の子って露出高めなの好きそうだし。

 空光からみつは、女の子の肌が見えたほうが男は嬉しいって言ってたし……でも、あいつの言うことだし。


 ともかくこんな、ワンピースタイプの水着……子供っぽいとか、思われないかな。

 そう、心配していたけれど。



『えぇと……似合ってる。すごく』



 かわいいと褒めてくれた。

 ……うん、かわいいとは言われてないね。ごめんなさい盛りました。


 でも、私にとって嬉しい言葉であることに変わりはない。

 似合ってる……もちろんお世辞の可能性もあるけど、白鳥はそういうことは言わなさそうだ。

 それに、ちょっと照れているように見えた。


「へへ……」


 妹と手をつないで、妹の反対の手には白鳥の手がつながっている。

 これは……な、なんか家族みたいに、み、見えちゃってたりして?


 くふふ……


「お姉ちゃん、なんか笑い方きしょいよ?」


「! な、なんてこと言うの!」


 ちょっと、なんてこと言ってるの妹よ! 白鳥に聞かれたらどうするの!?

 どうやら、気付いてはないみたいだけど……きしょいかはともかく、気を付けないと。


 水着を褒めてもらって嬉しい反面……心配事が、ある。

 それは白鳥と一緒にいた二人の女性。二人のスタイルと比べると、自分が惨めに思えてしまうからだ。


 以前、キャンプ場で見かけたお姉さん。そしてファミレスで見かけたお姉さん。そのため、白鳥にお姉さんは二人いた……と思っていたけど。

 さっき聞いたけど、詩乃という名前の女の人は、お姉さんではなかったようだ。


 真面目そうに見えて、そんな嘘をつくなんて……意外とお茶目さんなのかな。

 嘘とはいえ、悪意は感じなかったし。


「……」


 詩乃さんはお姉さんではなかった。それを聞いた瞬間、胸の奥がきゅっとした。

 軽く話を聞いた程度だけど、詩乃さんは白鳥のお姉さんのお友達……小さい頃から交流があるし、二人は幼なじみのようなものだ。


 そして詩乃さんは、同性の私から見ても魅力的なスタイルをしている。

 さっきは子供っぽいと思っていたこの水着だけど、もしもビキニを着ていたら余計に詩乃さんと比べられそうで……このワンピースタイプで、よかったかもしれない。


 白鳥はきっと、比べたりはしないだろうけど……


「……白鳥と詩乃さん、か」


「お姉ちゃん?」


 二人の年齢は、離れている。だけど……

 白鳥が詩乃さんを見る目は、なんだろう……どこか、変だ。変、って言い方も変だけど。


 白鳥が詩乃さんを見る目は、私はそれを知っている気がする。それが、どんな感情の目なのか。

 それは、私がよく知っている。だってそれは、きっと……


「えいっ」


「わぷっ!?」


 考え事をしているところへ、顔に冷たい液体がかけられる。

 しょっぱいそれは、なにか考えなくてもわかる。ここは海だ……つまり海水をかけられたのだ。そして海水をかけてきたのは、楽しそうな妹だ。


「な、なにするのっ」


「なんかむつかしいこと考えてる顔してる! そんなお姉ちゃんには、こう!」


「わっ、ちょっ、やめなさいっ」


「あははっ」


 私の複雑な気持ちを、汲み取ったわけではないだろう。

 でも、暗くなりかけてた感情が消える。なんとなく、妹にフォローされる形になった気がする。なにやってるんだ私。

 妹が、白鳥が笑っている。


 ……うん、そうだね。せっかく海に来たんだもん。せっかく白鳥に会えたんだもん。

 楽しまないと、損、だよね!



 ――――――詩乃side



 海に来た。いつぶりの海だろう。

 少なくとも、社会人になってからは来ていない。会社の人と海ってのもなんだかなだし、海に行くほど親しい友人も今となってはなかなか時間が合わない。


 だから、最近隣の部屋になった甲斐くんと、一緒に海に行くことになって。あの頃の、楽しかった思い出がよみがえってきた気がした。

 した、んだけど……



『どうよ! アタシ厳選、オフショルダー風のフリルビキニ! この肩出しスタイルとか、フリルなんてかわいらしいの詩乃にピッタリだと思わない!?』



 楓が選んでくれた、この水着。楓に比べりゃそりゃ露出も少ない気がするけど……は、恥ずかしい。

 私がこんなかわいい水着着て、変に思われないだろうか。


 ……変って、誰に?


「……」


 私はいつの間にか、彼を見ていた。それは、彼からの視線を感じたからだろうか……それとも?

 海でたまたま会った築野ちゃんは、素敵だと言ってくれた。楓も、似合ってるとこれを選んでくれた。


 なら、彼……甲斐くんは、どう思っているの?



『お姉ちゃーん、早く行こー!』


『わっ。そ、そんなに引っ張らないでー!』



 その答えを聞く前に、私は築野ちゃんの弟くんに引っ張られてしまった。

 あ、この子も築野くんだから、築野ちゃんの弟くんって言い方は変か……って、そういうことじゃなくて。


 結局、甲斐くんがこの水着をどう思っているのか、聞くことは出来なかった。

 ……聞きたいのは、水着の感想? それとも……水着を着ている私の、感想?


 どうしたんだろう私は。どうして、こんなにも甲斐くんからの反応が気になるんだろう?


「……」


 少し遅れて、甲斐くんは築野ちゃんと妹ちゃんと、海に向かっていた。

 その光景を見て、少し、胸の奥が変だと感じる。


 築野ちゃんは、桃色のワンピースタイプの水着……なんて、かわいらしい水着だろうと思う。

 彼女と比べて、私はどうだろうか。私は、甲斐くんにどう映っているだろうか。


 あぁ……どうして? なんだか最近、私おかしいよ。さっきだって、甲斐くんに水着を見せるのは恥ずかしかったのに……見てほしい気持ちも、しっかりあって。


「どうしちゃったんだろ、私」


 最近……私は、自分で自分がわからない。

 胸の奥に感じる、未知の気持ち……でも、どこかあたたかくて、嫌ではない気持ち……


 これは、なんなんだろう?

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