第14話 Aランク冒険者に昇格!
ドラゴン討伐の件で冒険者ギルドに呼ばれて、待合室で待たされて早一時間。
私とソラちゃんは不安と緊張で、頭がどうにかなっちゃいそうだった。
というのも、私たちが倒したドラゴンは“スカードラゴン”という魔物だったらしい。
数十年に一度、人里を襲うまるで天災のような魔物で、人々から恐れられているのだとか。
「スカードラゴンかぁ……まさか討伐ランクSだったなんて」
「普通のドラゴンの何倍も強いそうよ。あれだけ凶暴なら納得だわ」
「私たち、普通のドラゴンも見たことないけどね」
そんな魔物をFランク冒険者二人のおかげで討伐出来たというのだから、冒険者ギルドは大騒ぎ。
緊急会議を開いて私たちの処遇を決めることになった。
「怒られたりするのかな……」
「危険な魔物と勝手に戦ったんだもの、最悪冒険者証剥奪もあり得るかもしれないわ……」
「ええー!? そんなの嫌だよー! どうにかしてよソラちゃ~ん」
「わ、私にどうにか出来るわけないじゃない! っていうか、冒険者を解雇されたら私の夢が……」
「夢……?」
ソラちゃんが気になることを言いかけたけど、その話を聞く前に待合室の扉が開かれる。
中に入ってきたのは、髭の生えたお爺さんと受付お姉さんだった。
「モモちゃん、ソラちゃん。お二人の今後の処遇が決定しました」
「どうなったんですか? クビですか、謹慎処分ですか? そ、それとも逮捕~!?」
「お、落ち着いてください。決してお二人のことを蔑ろにするわけじゃありませんから」
「本当ですか、お姉さん~……」
受付お姉さんの言葉にすがるような眼差しを送る。
すると、少し苦笑しながらもお姉さんは笑って返して見せた。
これなら大丈夫そう、よかったぁ……。
「詳しい話はギルド長からお話しさせていただきます」
あ、このお爺さんがギルド長なのかぁ。
二年間、毎日冒険者ギルドに来ていたけど会ったことなかった。
ということは、ギルド長が出てくる程、重要な話ってこと?
「では本題に入ろう。モモ、ソラ。先程君たちのステータスを確認させて貰った」
そう、冒険者ギルドに連れてこられて真っ先にステータスの再確認をしてもらったのだ。
私たちが転職したことで、冒険者ギルドのデータベースを更新する必要があったからだ。
「二人とも上位職になったようだな。以前はスライム討伐がやっとだったというのに、転職でここまで変わるのか……」
「ギルド長さんは転職してないんですか?」
「いや、もちろん【剣士】から【ソードマスター】に転職したよ。それもずいぶん昔の話だが」
ソードマスター……なんかカッコいい!
剣を極めた者って、まさしく冒険者って感じがする!
「強い者が転職してさらに強くなるのはよくあることだ。だが、その……言葉は悪いのだが……」
「最弱職のFランクがここまで強くなるのは見たことがない、と?」
ソラちゃんが聞きにくいことをズバリと言った。
「まぁ、そういうことだ」
「てへへ~そんなにすごいですか~?」
「褒められてないわよ、たぶん」
え、そうなんだ。なんだ、がっかり。
私たちだって転職して本当に強くなったのか、いまいち自信がない。
だから褒められたりしたら自信がつくけど、そうじゃないのかぁ。
「スカードラゴンの討伐だが、他の冒険者との協力があったものの、君たち二人の力が大きい。そこで、我がギルドで君たちをAランクに昇格させることが決定した」
「へぇ~Aランクですか~……えーらんく?」
も、もしかしてAランクって上から二番目の、あのAランク!?
「ええぇぇ~~~~!? なんでそうなっちゃうんですか!」
「ど、どういうことですかギルド長! 私たちがAランクだなんて、そんなのおかしすぎます!」
「別におかしな話ではない。討伐ランクSの魔物を数人がかりとはいえ倒したんだ。適正なランクを与えるのは当然だろう」
「で、でもFランクからいきなりAランクだなんて……」
そうだよ、FからAっていっきに飛びすぎだよ。
えっとF,E、D、C、Bだから……五つ飛び級だ。
そんなの、ランクの意味ないじゃんって思うんだけど、いいのかなぁ。
「実は今回の措置は我々の都合もあってな。近年、支援職の冒険者たちが冷遇されているという話は、君たちにも馴染みがあるだろう」
支援職の冷遇、魔法使いはまだしも、そうじゃないジョブを持つ人たちはまともにパーティも組めない。
私やソラちゃんもそうだ。もっとも、私はそもそも弱すぎるのが原因だけど。
「冒険者たちの間で、支援職は無能という共通認識が生まれていてね。中には有用な能力を持つ者もいるのに、支援職というだけで爪弾きにされてしまうのだ」
「そんなことがあるんですね~……」
でも、それと私たちがAランクになるのと、どういう関係があるのか。
私にはいまいち話の繋がりが見えてこない。
だがソラちゃんは得心したようで、納得の声を上げていた。
「なるほど、つまり私たちをいきなりAランクに上げることで支援職のイメージアップを図ろうとしているんですね」
「そういうことだ。もちろん、君たちの実力は本物だと信じている。これからも大いに活躍してくれると嬉しい」
ギルド長はそう言った後に、私たちの新しい冒険者証を手渡してきた。
金色に輝く冒険者証が、とても美しく見えた。
◆◇◆◇◆
冒険者ギルドを出ると、外はすっかり真っ暗になっていた。
私たちはおぼつかない足取りで帰り道を歩いていた。
「私たち、Aランクの冒険者になったんだよね……」
「ええ、まだ理解が追いつかないけれど……」
「これで一人前の冒険者になったってことなのかな……」
「建前上はそういうことよね。まだ経験が浅いから、本当の一人前とは言えないだろうけれど……」
Aランクの冒険者といえば、この街だけではなく他の街にも名前が知られるほどらしい。
私がフザート村で暮らしていた時も、SランクやAランクの冒険者の噂を聞いていたもの。
村の外に出かけた人が戻ってきた時、冒険者の話を聞くのが大好きだったなぁ。
そのAランクに、私もなれたんだと思うと、胸の内が熱くなる。
「う、うぅ……」
「モモ……? もしかして、泣いてるの?」
「うう……うぅぅぅ~~~~……」
「大丈夫? もしかして、どこか痛い――」
「……やっったぁ~~~~!!!!」
抑えきれない喜びが爆発する。
人目をはばからず、大声で歓喜の声を上げてしまう。
私にとってAランクに昇格したのはそれくらい、とっても嬉しいのだ。
この喜びをソラちゃんに伝えるために、ソラちゃんの体に抱きついた。
「ちょ、モモっ!?」
「やったやったやったやっっった~~!! 私、冒険者として困ってる人を助けるのが夢だったんだ~! これで夢が叶ったよ~! 嬉しい、嬉しいよソラちゃん!」
「わかった、分かったから抱きつかないで! 人が見てるから!」
私たちがひっつき引っぺがしを繰り返していると、噴水広場まで来ていた。
ソラちゃんが少し休憩するとベンチに腰を下ろす。
私はその横に座り、ソラちゃんの顔を眺めていた。
「何だかまだ夢見たい。明日目が覚めたら、今日の出来事が全部無かったことになってたら、嫌だなぁ」
「夢じゃないよ。だってほら、冒険者証も金色だし、ちゃんとAランクになったんだよ! てへへへ」
「モモがいなかったら、きっとここまで来れなかったわ。……その、ありがとう」
頬を赤く染めながら、お礼の言葉を送られた。
私は別にソラちゃんからお礼を言われるようなこと、してないんだけどね。
むしろお礼を言いたいのは私の方だ。
「なーに、改まっちゃって。私だってソラちゃんがいなかったらアイドルになれてなかったもん。お互い様だよー」
「モモはジョブの名前の通り、
「そんな大げさだよ~。それに、
「えっ?」
ソラちゃんは不思議そうな顔をした。
「だってそうでしょ? 私は一人でも歌って踊れるけど、それじゃあスカードラゴンは倒せなかったよ。二人でステージに立ったから出来たことなんだ。だから、私だけ特別だなんて、そんなことないよ」
私の言葉にソラちゃんはしばらく硬直した。
そして、はぁと溜め息を吐いた後に照れくさそうに笑った。
「私、冒険者として誰かの役に立ちたいってずっと思ってた。その夢が一つ叶っちゃった! もちろん、これからも色んな人の助けになるよう、頑張っていくけどね」
人の役に立つ、小さい頃から私が目指していた夢。
それを今日、叶えた。でも夢は一つだけじゃない。
むしろこれから始まるんだ。私の冒険者としての夢が。
あれ、そういえばソラちゃんの夢ってなんだろう。
「ねぇ、どうして冒険者を目指してるの? 【歌い手】なら他の仕事にもつけたかもしれないのに」
その質問に、ソラちゃんはどう答えようか迷っていたようだった。
しかし、髪の毛を指でいじりながら、恥ずかしそうに答えてくれた。
「誰にも言わない……?」
「うん、ぜったい言わないよ!」
「わ、笑わないでよ」
「人の夢を笑わないよ!」
「じゃあ、モモにだけは教えてあげる……」
そう言って、ソラちゃんは自身が冒険者にこだわる理由。
そして夢を語ってくれた。
「私ね、英雄になりたいの。ただの冒険者じゃなくて、誰もが知ってるようなすごい英雄よ」
語られた夢は、すごく大きかった。
誰でも知っているような冒険者なんて、それこそ伝説に出てくるような人だろう。
ソラちゃんがそういうのを目指しているなんて、意外だと思ってしまう。
その理由は、いったい何なんだろう。
「私の故郷は西の外れにあるヘンキョヴ村って言ってね。山奥にある小さな村なの。自然が豊かで、空気も美味しい素敵な場所よ」
川魚だって美味しいんだからと嬉しそうに語るソラちゃんを見て、故郷の村が大好きなんだなと分かる。
英雄を目指す理由、それはどうやら彼女の故郷と関係があるらしい。
「村のみんなもとってもいい人よ。でも山奥の村だから、若い人は村を出て行ってしまうの。私もだけどね……」
さっきまでの表情とは打って変わって、複雑そうな顔に変わる。
「村には若い人がいなくなって、働き手が少なくなってるの。だから私が英雄になって有名になれば、村の知名度も上がると思ったの。そしたら、村に人が来るようになるでしょ?」
「そっかぁ、おとぎ話の勇者の出身地とか観光名所として有名だもんね!」
「そういうこと。私の夢、私が冒険者を目指している理由はそれよ」
自分のことだけじゃなくて、村のみんなのことを思って冒険者をやってるんだ。
やっぱりソラちゃんはすごい。私なんて完全に自分のことだけ考えてたもの。
私と比べて、ソラちゃんはとても大人だ。
「……ねぇ黙ってないで何とか言ってよ。大真面目に話した私が馬鹿みたいじゃない……」
「素敵な夢だなって感動してたんだ。ソラちゃん、その夢ぜったい、ぜったいぜーったい叶えようね!」
「……ええ、必ず」
ソラちゃんの夢を応援しよう。とても優しい、綺麗な夢。
もし叶ったら、その時は私もヘンキョヴ村に行ってみたいなぁ。
ソラちゃんの夢が叶うところを、間近で見たい。
そんな思いが私の中に膨らんでいた。
そして思いついた。私の中に、とてもナイスなグッドアイデアを。
「ソラちゃん、私とパーティ組もう!」
「ど、どうしたのよいきなり……」
「私とソラちゃんでもっとアイドルやろうよ! そうすればきっと有名になれるよ。私もたくさんの人の役に立ちたいし、お互いの夢を叶えるチャンスだよ」
「そうね。正直パーティに良い思い出は無いけれど、でもモモとなら……」
そうか、ソラちゃんは以前パーティを追放されたんだっけ。
無能支援職だから出ていけ、みたいなことを言われたとか。
そんな経験があるにも関わらず、ソラちゃんは二つ返事で了承してくれた。
「うん、私モモとパーティを組みたいわ。これからも、その……よろしくね」
「わぁ……! 明日、冒険者ギルドに申請用紙出しに行こうね!」
「それなら、今日は早めに寝ないとね。どこか止まれる場所はあるかしら」
「私がお世話になってた宿屋に泊めてもらおうよ!」
私はベンチから立ち上がり、ソラちゃんの手を取って宿屋に向かい走り出す。
これで正式に、私とソラちゃんはアイドルとしてコンビを組んだのだった。
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