第13話 アイドルは支援職最強!?
トーシック神殿からの帰り道で私とソラちゃんは何回か魔物と戦った。
弱い魔物が相手だったのでスキルは使わずに倒せた。その結果、レベルが2上がった。
新しいスキルも入手出来た。【ユニゾンライブ】と【ちからの歌】ってスキルだ。
【ちからの歌】は分かるけど【ユニゾンライブ】ってどんな効果なんだろう。
ハーヤルの街に戻ったらスライムに試してみようかな。
そんなことを考えているうちに、ハーヤルの街が見えてきた。
街全体を覆った大きな壁がなんだか懐かしく思える。
その時だった。馬車が大きく揺れたのは。
「な、なに!? もしかして、また魔物~?」
「そうに違いないわ。モモ、馬車の外に出ましょう!」
「う、うん!」
私たちは大急ぎで馬車から飛び出した。
行きの時と同じで、同じ馬車には冒険者が何人かいた。
協力すれば、きっと大丈夫だろう。そう思っていた。
「グルアアアァァァァ!!」
「うわー!」
「みんな、逃げろ-!」
「冒険者は武器を取れ! そうじゃない者はここから離れろ!」
馬車の外には、巨大な魔物が空を舞っていた。
「な、何……あれ……! ど、どうしよう……すっごくでかい魔物……!」
「長い首に鋭い牙、大きな翼……もしかしてドラゴン!?」
「ド、ドラゴンってあのドラゴン!? おとぎ話とかでしか聞いたことないよ!」
「私も実際に見るのは初めてだけど……」
ドラゴンって言えば、火を吐いて攻撃してくる凶暴な魔物だ。
もちろんおとぎ話で得た知識だけど。でももし本当なら、こんなところに出てきていい魔物じゃないよ……!
「ど、どうしようソラちゃん! 逃げたほうがいいのかな?」
「あんなに大きくて空も飛べるのよ。きっとすぐ追いつかれるわ」
「そ、そうだよね。それに逃げたら他の人を置いて行っちゃうことになるし、ハーヤルの街も危ないもん……!」
ここからハーヤルの街まで馬車で数分くらいだろうか。
ドラゴンが飛べば、街の外壁なんて関係なく街の中に入れてしまう。
そうなれば街に住むみんなが危ない。受付お姉さんやおかみさん、酒場に来てくれていたみんなが危険だ。
今ここにいるみんなでドラゴンをなんとかしないといけない。
もしハーヤルの街の冒険者がドラゴンに気付いたとして、応援が来るのに何分かかるだろう。
それまで生きていられる気がしない。
「グルルル……!」
「やばい! 火を吐くぞ!」
「みんな避けろ-!」
ドラゴンが大きく息を吸い込んだ。あれが火の息を吐く前兆ということなのか。
私は馬車の後ろに隠れて、ソラちゃんに相談する。
「ねぇ、確かソラちゃんの新しいスキルに【ぼうぎょの歌】ってあったよね?」
「……ねぇ、まさかここでスキルを使うつもり? 正気なの、相手はドラゴンよ!」
「でも逃げてるだけじゃ、いつかやられちゃうよ! 私のスキルとソラちゃんのスキルで、少しでもみんなを手助け出来ないかな」
「無茶よ。ドラゴンに歌と踊りが効くはずないもの」
「信じてみようよ、私たちの力を! せっかく上位職になれたんだからさ」
「シャアアアア!」
ものすごい熱風が馬車の後ろにまで吹いてくる。
さっきまで緑一色だった草原は、一瞬にして真っ赤に燃え上がる。
これがドラゴンの攻撃。まるで山火事のようだ。
「どうする? このままじゃ、私たち焼け死んじゃうよ」
私の説得を受けて、ソラちゃんは溜め息を吐いた。
そして、諦めたような顔をした後に笑って言った。
「死んだらモモのこと許さないから」
「その時は謝るね。……ソラちゃん、私と一緒にステージに立って!」
「仕方ないわね、どうせこのままじゃドラゴンにやられるし、覚悟を決めるわ」
「そうこなくっちゃ!」
私たちは馬車の屋根に登り、一世一代の勝負を始める。
「みんなー! 今日は私たちのステージを見に来てくれて、ありがとー!」
「な、なんだ? あの子たち、急に何を言い始めたんだ……」
「おい君たち、危ないから早く逃げろ! ドラゴンに狙われるぞ!」
「馬鹿なことやってないで、そこから下りるんだー!」
「たくさんの声援ありがとー! みんなのおかげで私たちもやる気がいっぱい出てきたよー!」
「私たち、歌います。それでは聞いてください。一曲目、【ぼうぎょの歌&ちからの歌】」
他の冒険者が制止しようとする声が上がる中、私たちはスキルを発動する。
攻撃力を上げるスキルと防御力を上げるスキル。
私のダンスとソラちゃんの歌を合わせて、更に歌をミックスしている。
これで複数の効果を同時に味方に与えれるはずだ。
「過酷な戦いの中で 私は剣を立てる♪」
「ギリギリバトルでっ ワクワクしちゃうね♪ でもあなたは笑ってくれない♪」
「あの子たち、歌い出したぞ……一体何がしたいんだ?」
「分からない……。戦場で踊りながら歌うなんて、理解できない!」
私たちの歌と踊りを見て、他の冒険者は困惑しているみたいだ。
それはそうだ。ドラゴンの前で歌い出したら頭がおかしくなったと思われても仕方ない。
でも、私たちは至って真面目だ。だって、これが私とソラちゃんの能力なんだから。
「グガアァ!」
ドラゴンが大きな爪を立てて、冒険者たちに攻撃をする。
槍を持った人が防御の姿勢を取るが、普通なら受けきれない攻撃だろう。
しかし――
「な、何故だ? 不思議と力が湧いてくるぞ」
「俺もだ! いつもの数倍、剣を振れる!」
私たちのスキルは、他の冒険者を大きく強化出来たようだ。
しかも私たちの歌を聞いている味方全員に効果があるらしい。
これも上位職へ転職した恩恵だろうか。
「もっとバチバチバトルで激しくっ♪ きっと僕らみんなが英雄だよっ♪」
「さあ立ち上がって 体は鉄のよう♪ 心は更に固いわ だってあなたは英雄♪」
「これならいけそうだ! くらえ、ドラゴン! 【疾風乱れ突き】!」
「キシャアアアア!」
槍の冒険者の一撃が、ドラゴンの翼を貫いた。
ドラゴンは激しい攻撃に堪らず叫び声を上げた。
「よし、俺たちの攻撃が通じるぞ! これならドラゴンを倒せるかもしれない!」
「これほど力が上がっているなんて……。もしかして、あの子たちの能力なのか?」
「歌と踊りで支援するジョブか。まさか【踊り子】や【歌い手】なのか」
「まさか、その二つは最弱職じゃないか。ありえないだろう」
「まあそんなことはどうでもいい! 今はあのドラゴンを倒すぞ!」
私たちの歌声は響き合い、ダンスは激しさを増す。
これまで感じたことの無い高揚感が胸の中で爆発する。
今なら何でも出来そう。そう感じさせる程の熱が、私とソラちゃんから生まれている。
これが……アイドルのステージ!
「さあもう少しだよ 頑張って♪ あなたの剣はまるで光だね 運命切り開こうっ♪」
「最後まで諦めないで 努力は嘘をつかないから♪ 一緒に向かいましょう 私たちの夢♪」
「これでとどめだ! 【魔神突き】!」
「いくぜ! 【ブーメラン・タイフーン】!」
「倒れろ-! 【ダークフレイム】!」
三人の冒険者たちのスキルがドラゴンに命中する。
その攻撃は、強化されたことで一撃一撃が必殺級の威力を持った攻撃だった。
「ギシャアアア……!!」
攻撃スキルが直撃したことで、ドラゴンの体に風穴が空く。
そして、叫び声を上げながらドラゴンはゆっくりと地面に堕ちていった。
ドラゴンを倒したことを確認した後、冒険者たちは歓喜の声をあげる。
「やった……倒したぞ! ドラゴンを倒したー!」
「嘘みたいだ、まさかCランクの俺がドラゴン相手に生き残ったなんて」
「これも彼女らの支援のおかげだ。それにしても彼女たちはいったい……」
三人の冒険者と、避難していた馬車の乗客たちが揃って私たちに注目する。
そんなに見られると、なんだか緊張してきちゃうなぁ。
でも、まだ私たちのステージは終わってない。ステージに立っている以上、素の姿を見せちゃ駄目だ。
自分の出番が終わったら、見てくれたみんなにお礼を言う。
それは酒場でショーに出てた時に学んだマナーだ。
「みんなー! 私たちの歌、聞いてくれてありがとー! 私もみんなのこと、ちゃんと見てたからねー!」
私のステージを締めくくる挨拶に、みんな唖然としていた。
「な、なんだ? まるで旅の芸人みたいに」
「やっぱり【歌い手】なのか? それとも踊っていたし、【踊り子】?」
「それにしちゃあ、強いスキルだったが……。君たちのジョブは一体何なんだい?」
私とソラちゃんのジョブは珍しいみたいだし、【踊り子】と【歌い手】に間違われるのは仕方ない。
実際、数日前までそのジョブで活動していたんだし。
でも、せっかくならここで私たちのジョブを知ってもらおう。
「私たち、アイドルです! 歌って踊って、みんなにハッピーを届けちゃいます!」
「モモ、それだけじゃ分からないわ。えっと、アイドルっていうのは【踊り子】と【歌い手】の上位職です。私は【歌姫】っていうジョブで。ああ、そっちは【歌い手】の上位職なんですけど……」
「もぅ、固いよソラちゃん」
「逆にモモは軽すぎるわよ!」
そうかなぁ、歌と踊りでハッピーにするって分かりやすいと思うけどなぁ。
でもみんなの反応を見る限り、誰も理解出来ている様子はないみたい。
うーん、ソラちゃんの言う通り、もうちょっと詳しい説明にしないと駄目かも。
「アイドル……聞いたこともないジョブだ」
「まぁ、めずらしい支援職ってことだろうさ。それより君たち、さっきの支援はすごかったよ。歌とダンスのスキルのおかげで助かった」
「なんて言ったって、ドラゴンに攻撃が通じちゃうくらい強化されてたもんなぁ。正直、今まで支援職を下に見てたけど、君たちのおかげで見直したよ」
初めてジョブに関することで褒められちゃった!
これって、戦闘で役に立てたってことだよね……?
「それより俺は君たちの演技の方が気に入っちゃったよ。歌と踊りを一緒にこなすなんてすごいな。思わず感動したさ」
「てへへ、ありがとうございます! これからも応援よろしくお願いしまーっす!」
こうして転職してから最初の修羅場は、無事切り抜けることが出来た。
その後、ハーヤルの街から応援が来たのだけれど、ドラゴンの死体を見て驚いていた。
誰が倒したのかと聞かれて、みんなが私とソラちゃんを指さしたせいで、質問攻めに合ってしまったのはとっても大変だったけど。
でも、生まれて初めてと言っても過言じゃないくらい、充実感に満ちていたのでした。
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