第12話 覚醒「アイドル」

 巨大水晶から照らされる光につつまれて、私の中に眠る力が呼び覚まされる。


「お二人とも、これにて転職完了でございます」


 目を開けると、私の新たなステータスが表示されていた。


「やった! 私の新しいジョブは……えっと」


 名前:モモ・ブルーム

 種族:人間ヒューマン

 年齢:14歳

 ランク:F

 レベル:15

 職業:アイドル

 スキル:さそう踊り、ふしぎな踊り、みかわしステップ、魅惑のダンス

    こんらんダンス、怒りのダンス、カウンターターン

    さそいの歌、ゆりかごの歌、ふしぎな歌、まふうじの歌

    いかりの歌声、いやしの歌


「アイドル……? どういうジョブなんだろう……」


「私も聞いたことがございませんね。まってくださいまし、今【真偽眼】でジョブの確認をします」


 イシスさんは【真偽眼】で私とソラちゃんをじっくりと眺める。

 そういえばソラちゃんはどんなジョブになったんだろう。


「ソラちゃんは【歌い手】から何になったの?」


「私は【歌姫】って上位職よ。自分のジョブに姫って付いてるのは、なんだか恥ずかしいわね」


「歌姫か~、うんソラちゃんにぴったり! 歌が上手で、綺麗だし」


「だから恥ずかしいのよ」


「そうかなぁ、似合ってると思うけど……」


 歌を歌うお姫様なんて、本当にソラちゃんのイメージそのままだもの。

 あまり喜んでないみたいだけど、照れてるだけかな。

 私のアイドルより遙かに分かりやすいジョブで、少し羨ましいような。


「でも【歌い手】の上位職が【歌姫】かぁ。やっぱり、戦闘で役立てそうなスキルは無さそうね」


「落ち込むのはまだ早いよ。もしかしたら、すごいスキルとか手に入るかもしれないよ?」


「そうだといいのだけれど、不安だわ。もし、これからもずっと弱いままだったら……私……」


 ソラちゃんの表情に影が差す。私はそんな彼女の手を握って大声で言った。


「もしソラちゃんが弱いままでも、私が助けるから! だから安心して頼っていいよ!」


「モモのジョブだってどういうものか分かってないじゃない……もう」


「てへへ、そうだったよ~」


 私のジョブが強いかどうかもまだ分からないもんね。



「モモさん、あなたのジョブの詳細が分かりました」


「教えてください、【アイドル】はどんなジョブなんですか?」


「アイドル……歌って踊るみんなの偶像アイドル。みんなに笑顔を届けてあげる、素敵なジョブだよ♪ ……だそうです」


「なんですか、その説明文」


「すみません、真偽眼で見た情報にこう書いてあったのです……。これも神のみことばなのでございます……」


 その説明文が神様の言葉なら、この世界の神様ってずいぶん軽そうなお方なんだなぁと思ってしまう。

 みんなの偶像って、つまり憧れってことかな? 歌や踊りで大勢の人を虜にするジョブってこと?


「どうやら【踊り子】と【歌い手】の二つをマスターした人間はモモさんが初めてらしく、既存の上位職に当てはまるものがないとのことでございます」


「じゃあ、【アイドル】になったのは私が初めてなんですか?」


「そういうことでございます。【踊り子】と【歌い手】の良いところを合わせた支援職……とのことでございます」


 やっぱり、上位職になっても支援系のジョブなのは変わりないんだ。

 でも【踊り子】と【歌い手】のいいところ……良いところなんてあったかなあ。

 ダンスも歌も好きだけど、冒険者としては役に立つどころか苦労ばっかりさせられてきたし。


「ソラさんの【歌姫】もまた支援職ですね。【歌い手】の頃よりもスキルの性能が格段に上がるはずです」


「私の【歌姫】も、今までに無いジョブなんでしょうか」


「こちらは過去に何人か該当者がいるみたいでございますね。【歌い手】をマスターする人は少ないから、大変稀少なジョブのようでございます」


 やっぱり歌い手を極める人は歴代でもそんなにいないらしい。

 レアなジョブを持っているって、すごく特別な感じがする。


「歌姫ってかっこいいよね~。羨ましいなぁ」


「それを言うならモモだって、自分だけのジョブなんて特別だわ」


「でも結局何をすればいいのか分からないもん。今までと同じやり方のまま、強くなってるソラちゃんの方がよくない?」


「今まで通りなら、本当に強くなってるかは怪しいものね」


 確かに、歌のスキルが強くなったって言われても、歌で魔物を倒せるようになるわけでもないし。

 そこまで便利かって言われたら私も自信が無い。

 でも歌姫って響きがかっこいいから問題無いと思う。


「モモさん、アイドルのスキルについてですが……どうやら踊りのスキルと歌のスキルを併用して扱えるようになったみたいでございます」


「へぇ~。じゃあ【さそう踊り】を踊りながら【さそいの歌】を歌ったり出来るんですね」


「それだけではなく、例えばモモさんのスキルだと【さそう踊り】と【いやしの歌】を同時に使えるといった感じでございましょうか」


「なるほど、それって結構便利かも! あ、でもダンスしながら歌うのって結構キツいんですよね……」


 二年前にソラちゃんと酒場で一緒にステージに立った時に、お互いのスキルで歌とダンスを併用した。

 その時は興奮して疲れを感じなかったけど、終わった後はヘトヘトになったっけ。

 戦闘で使うなら体力に気をつけなきゃ。


「これから猛特訓しなきゃね、モモ」


「ソラちゃんも一緒に手伝ってよ~」


 踊りながら歌を歌うのに慣れるには、毎日練習するしかないかも。

 ハーヤルの街にいた時は毎日ダンスの練習をしていたけど、これからもっとキツくなりそう。




「ではお二人のご活躍を祈っていますわ」


「はい、イシスさんありがとうございました! 私、まだアイドルが何かよく分かってないけど、これからいっぱいいっぱい、いーっぱい頑張ります!」


「私も、歌姫ってジョブに名前負けしないように努力します。イシスさん、お世話になりました」


「ええ、あなた方の行く先に光あれ」


 こうして私たちは転職して、それぞれアイドルと歌姫という上位職につくことが出来た。

 果たしてこのジョブで冒険者として活躍出来るのか、それはまだ分からない。

 けど、少しでも夢に近付いたと信じてこれからも前に進もう。そう決意したのだった。

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