第9話 サブ職業
馬車の中に朝日が差し込み、眠っていた私の意識はゆっくりと覚醒していった。
目を開けると、横には携行食を食べているソラちゃんがいた。
「おはようソラちゃん」
「おはようモモ。よく眠っていたわね、お腹すいてる? 私のでよかったら、これ食べる?」
「大丈夫、自分の分はちゃんと買ってるから!」
リュックから携行食と水を取り出して、朝ご飯にする。
パサパサと乾いた食感が口の中の水分を持って行く。ちょっと食べにくい。
昨日まで食べてたおかみさんの料理がいかに贅沢だったのか、今更ながらに気付く。
朝ご飯を食べ終えると、脳内にピコンという音が鳴った。
『サブ職業【歌い手】取得』
へー、サブ職業かぁ。……サブ職業?
「ええーー!? ど、どういうことー!?」
「ど、どうしたのよモモ。急に大声を上げて」
ソラちゃんが驚いたようにこっちを見てくる。
でも私の方がびっくりしてるのだ。だって、サブ職業なんて聞いたことないもん。
「き、聞いてよソラちゃん! 私、サブ職業を取得したんだって! 【踊り子】と【歌い手】の二つのジョブになっちゃった!」
「はぁ? なに言ってるのよ、ジョブを二つも持ってる人なんて聞いたことないわ」
「嘘じゃ無いよー! これってもしかして、転職ってやつなのかな!?」
踊り子をマスターしたから、転職して新しいジョブをゲットしたってこと?
でも受付お姉さんは、転職はトーシック神殿じゃないと出来ないって言ってたよね。
これってどういうことなんだろう……。
「転職は極めたジョブから、その上位職へ変わるんでしょ? モモの言うことが本当なら、二つのジョブを持つのは別じゃないかしら」
「だから本当だってば~」
ソラちゃんの言うように、転職は今のジョブからその上位職に変わることだ。
ならやっぱり、サブ職業を取得したことと転職は違う現象なんだよね。
でも、何がきっかけでサブ職業なんてゲット出来たんだろう。
「もしかして、ソラちゃんと再会したのが関係してるのかな」
「わ、私? 何でそうなるのよ」
「だって、サブ職業は【歌い手】なんだよ? 私の周りで【歌い手】なんてソラちゃんしかいないもん」
「私、別に特別な力とか持ってないわ。私と関わってサブ職業なんて変なものを取得出来るとは思えないわ」
変なものって……。
でも確かにソラちゃんがきっかけなら、もっと大勢の人がサブ職業を取れてもおかしくないよね。
でも、それじゃあ尚更きっかけが分からないよ……。
「そういえば……」
ソラちゃんは何か思い当たる節があるらしい。
「昨日、私が寝る前にモモの胸の辺りが光り輝いていたの。もしかしたら、それが関係あるのかも」
「胸の辺り……? あ、そういえばネックレスを着けてるんだった」
「それよ! きっとそのネックレスが関係あるんだわ、いえそれしか考えられないもの!」
私は首から下げているネックレスを見るために、服のボタンを外す。
「ちょっとモモ! 私たち以外にも人がいるんだから、もっと周りの視線を気にしなさいよっ」
「えー? 大丈夫だよこれくらい。私、見られても平気だよ?」
酒場で踊る時は、首回りとか露出した衣装着てるもの。
鎖骨ぐらい見られたって恥ずかしくないと思う。
でもソラちゃんはそれを良しと思っていないらしく、顔を赤くして注意してきた。
「ダメよ。いい? あなたも女の子なんだし、そういうのはちゃんとしないと」
「はーい。……なんかソラちゃん、お母さんみたい」
「誰がお母さんよ! もう……」
ソラちゃんが怒るので、とりあえず胸元を隠してネックレスを外す。
このネックレスが原因じゃないかと言われたけど、特に変わった形跡は見られない。
「光ってないよ。もう、ソラちゃんの嘘つき~」
「う、嘘じゃないわよ。私が見た時はちゃんと光ってたもの」
慌てた様子のソラちゃんに若干の怪しさを覚えつつ、私はネックレスをよく眺める。
確かにソラちゃんの言うとおり、これが光っていたのなら、サブ職業を取得出来たのはこれが原因の可能性大だよね。
「そもそも、そのネックレスってどういう代物なの? ずいぶんと高そうだけど」
「これはね、祝福の儀が終わった後に神父様がくれたんだ。確か……ジョブに関わる加護があるって言ってたような……」
そういえば、神父様にはどんな加護があるのか聞いてなかったなぁ。
私が【踊り子】を極めるのなら役に立つだろうって言ってたっけ。
やっぱり、サブ職業を手に入れたのはこのネックレスのおかげ……?
「私が【踊り子】ってジョブを貰っても、神父様は励ましてくれたんだ。冒険者には向いてないけど、それでも私が夢を諦めなければこのネックレスが助けてくれるって」
「決まりだわ! そのネックレスの加護でサブ職業を手に入れたのよ」
ソラちゃんも私と同じ結論に至ったみたいだ。
指をパチンと鳴らし、得心した表情のソラちゃんはいつもより年相応に見えて可愛かった。
そっか。このネックレスが私に新しい可能性を与えてくれたんだ。
ありがとう、神父様。ありがとう、ジョブの神様。
私、自分の可能性をまだまだ信じてみます。
銀色に輝くネックレスを、両手でギュッと握る。
「まぁ、私が言うのも何だけど【踊り子】も冒険者には不向きなジョブよ。二つのジョブを持つなんて異例中の異例だけど、モモの夢に近付いたとは言いづらいわね」
「てへへ、確かに」
それでも、私は自分の中に新たな力が宿ったことを心から嬉しく思った。
だって、ソラちゃんと同じジョブになれたんだもの。かっこよくて綺麗で、そして素敵な歌を歌うソラちゃんと一緒。
それはとても幸せで、夢を叶えるのとはまた違う尊さを感じるのだった。
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