第5話 お金が足りない!

「つ、疲れた……」


 街まで帰ってきたけど、もう全身がくたくただ。冒険者ギルドに依頼達成の報告をして、今日はもう寝よう。

 そういえば泊まる宿も決めてないから、それも決めないと。

 はぁ……一日目にして大変だ、これが冒険者の生活かあ。



「あ、おかえりなさいモモちゃん。スライム討伐は無事達成できましたか?」


 冒険者ギルドに行くと、受付にはあの綺麗なお姉さんがいた。

 いつみても元気の出る、明るい笑顔で私を出迎えてくれた。


「受付お姉さん、スライムはいっぱい倒しましたけど大変でしたぁ~」


「あらあら、お疲れ様のようですね。それでは冒険者証を出してください」


「えっ!? 何でですか、ひょっとして素質が無いから冒険者ギルド追放!?」


「ち、違います! 依頼の達成を証明していただくには、冒険者証を見せていただく必要があるんです」


「なーんだ、そういうことかー。私てっきりクビになるのかと思っちゃった~」


「頑張ってる方を辞めさせるなんてことしませんよ、もう……」


 受付お姉さんは頬を膨らませてしまい、私は苦笑いして誤魔化した。

 そして、首からかけてある冒険者証をお姉さんに渡すと、お姉さんは冒険者証を水晶にかざした。


 すると、水晶から文字が浮かびだした。お姉さんは水晶の文字と依頼書の内容を見比べて、終わったらまた私の前にやってきた。


「はい、確かにスライム一匹の討伐を確認しました。こちらは報酬の5ゴールドになります」


「わーい! 初めての報酬だー!」


 手渡された銅貨を両手に持って、嬉しさのあまりダンスを踊る。

 さそう踊りを覚えてから、簡単なダンスなら踊れるようになったみたい。


「ステータスを見るとレベルが上がっていますね。おそらく数匹のスライムを倒したと思いますが、残念ながらそちらは依頼の対象外なので、報酬には含まれません」


「そうなんですか、ちょっと残念です……」


「でも、レベルが上がったから明日からは三匹討伐の依頼をすれば、報酬は15Gにあがりますよ。もしモモちゃんが大丈夫と思ったなら、万全の準備をして挑戦してみてください」


「はい、そうしてみます。お姉さん、こんなにいっぱいの銅貨、ありがとうございます!」


「それはモモちゃんがお仕事を頑張った対価ですから、お礼を言う必要はないんですよ」


「でも、やっぱり嬉しいんだもんっ。何に使おうかなー……」


 せっかく大きな街に来たんだし、美味しいもの食べたいな-。あ、でもでも村じゃあまり食べられなかったスイーツもいいかも。

 それとも、明日からもっとスライムを狩れるように武器を新調するとか? あ、ポーションも買わなきゃ!


「あの……残念ですがモモちゃん……」


 受付お姉さんは気まずそうな顔をして、私に話し出した。


「5Gっていえばポーションを一個買うのがやっとです。外食だと一食くらいしか食べられませんし、宿に泊まるにも足りません。あまり無駄遣いしない方がいいと思いますよ」


「えっ? 5Gってそんなに少ないんですか? うちの村だと二日は暮らせますよ?」


「ここは大きい街なので、その分物価が高いんです……。宿に泊まるなら安くても10Gはしますね」


「そ、そんな~!」


 あれだけ苦労したのに、その日の生活費も稼げないなんて……!

 これが剣士とか魔法使いなら、もっと効率よく魔物を狩れるんだろうなぁ……。

 ううん、自分のジョブを言い訳にするなんてダメだ。明日からもっと頑張ればいいだけなんだから。



 ◆◇◆◇◆



「一泊かい? それじゃあ10Gだよ。朝飯付きなら13Gになるがどうするかい?」


「ええと、とりあえず素泊まりでお願いします」


 冒険者ギルドを出て、宿屋に辿り着いた私。ここは格安で泊まれる宿として、受付お姉さんにお勧めされた店だ。

 簡素な造りの宿屋だけど、清掃も行き届いている。シンプルなのが逆に清潔感をアピールしているみたいで、いい雰囲気の宿だ。


 私は金貨袋の中身を確認して溜息をついた。


「とりあえず、旅立つ時に貰ったお金で当分は生活できそう……ありがとうお父さんお母さん……!」


 でもこのお金でいつまでも生活できるわけじゃないし、早く自分の生活費くらい稼げるようにならなくっちゃ!



 その日は決意を新たに、糸が切れたかのようにベッドに倒れて終わったのだった。




 ◆◇◆◇◆



「えいっ!」


「ピギャース!」


「ふう……これで三匹目」


 冒険者になってから一週間が過ぎた。相変わらずスライムを倒すのに手間取って、ろくな依頼もこなせずにいた。

 それでも、スライムをいっぱい倒したおかげかレベルは上がり、スライムを倒すコツも掴めてきた。


『スキル【ふしぎな踊り】習得』


「あっ、また新しいスキルだ!」


【さそう踊り】に続いて新たなダンススキルかぁ。でも【ふしぎな踊り】ってなんだろう?

 名前からして謎だけど、効果が一切伝わってこない。

 今回もスライム相手に使ってみるしかないか。



「ピギィ~!」


「いくよ! 【ふしぎな踊り】!」


 スキルを発動すると、体全体でリズムを取りながら、前足を勢いよく上げた。そして今度は逆の足を上げる。

 その動きを繰り返しながら、今度はジャンプして、さらには体全体でターンし始めた。


「こ、これ……かなり疲れるんだけど……! でも、これだけ体力を使うんなら、きっとすごい効果があるんだよね? ねぇ?」


「ピギ……?」


「あれ!? 効果無し!? これじゃあふしぎな踊りじゃなくて無意味な踊りだよ~!」


「プルプル~……ピギャア!」


「わわわ、スキル解除しなきゃ!」


 私はふしぎな踊りを止めて、大急ぎで短刀を握る。

 飛び込んできたスライムの口の中に刃を刺して、なんとか事なきを得た。


「ふう……せっかく新しいスキルをゲットしたのに、全然役に立たない……」


 この一週間でレベルは2上がった。けれど、未だに使えそうなスキルは習得できていない。


「そろそろお金も無くなりそうだし、何とかしなきゃ」



 ◆◇◆◇◆



 宿屋に戻ると、おかみさんが入り口を掃除していた。


「あらお帰り。今日も泊まってくんだろう?」


「ただいま、おかみさん。今日も素泊まりでお願いします」


「あんた、ずっと素泊まりだけどちゃんとご飯食べてるのかい?」


「ちゃ、ちゃんと食べてますよ! 廃棄前のパンとか、野菜くずのスープとかを売ってくれるお店見つけたんです! 一食1Gで食べれちゃうんですよ、すごくないですか?」


「育ち盛りの子がそんなもん食べてるんじゃ無いよ! 冒険者やってんだろう? ちゃんと力のつくもん食いな」


 普段の食生活についておかみさんに怒られてしまう。

 確かに村にいた時より質素な物しか食べてないし、最近体の疲れが抜けないけど……。


「そうでもしないと生活できないんだもん……」


「なんだい、冒険者生活が上手くいってないのかい?」


「私、【踊り子】なんです。弱いジョブだから誰もパーティに入れてくれなくって、だから一人で頑張ってるんですけど、スライムを数匹倒しただけで一日が終わっちゃって」


「はぁ……」


 おかみさんは溜め息を吐くと、私の手を取り、受付の奥にある扉へ連れて行く。


「あの、どうしたんですかおかみさん?」


「あんた、お金がないんだろう? だったらウチのご飯を食べさせてやるよ。ついでに宿代もタダでいい」


「ええ!? いいんですか?」


「ただし、条件がある」


 おかみさんは指を一本立てて、その条件とやらを説明してきた。


「うちは宿屋に隣接して酒場もやってる。それは知ってるね?」


「はい、私はまだ十二歳だから入れないけど、外の看板を見たから知ってます」


「酒場ってのは何も酒を飲むだけじゃない。ちょっとした見世物を見に来てくれる客もいるんだよ」


「見世物……? そ、それってもしかして、え……エッチなやつですか!?」


「バカ! ショーだよショー! 吟遊詩人とか、奇術師のようなジョブを持った人たちが、客の前で自分の特技を披露するのさ」


「な、なーんだ……びっくりしました~」


「まったく、この耳年増め……」


 でもショーがあるのと、私の宿代がタダになることに一体何の関係があるんだろう。

 もしかして、ショーの準備とか後片付けみたいな雑用をやれってことかな。

 それだったら私でも頑張れそう。村でも大人たちの仕事の手伝いとか、たまにやってたし。


「あんたには、そこでダンスを踊ってもらう」


「はい、わかりました! …………って、ええ~~~~!? わ、私が酒場で踊るってことですか~!?」


「そうすりゃ小銭チップとかも貰えてあんたの足しになるだろう? うちもショーをやる人材が増えてお互い好都合ってわけさ」


 おかみさんはニヤリと笑う。私はこの提案を断るという選択肢は無かった。

 これを断ったら、いよいよお金が尽きてしまう。冒険者を続けるためにも、生活の質を上げるためにも、酒場で踊らざるを得なくなったのだ。


「ど、どどど……どうしよう~!!」



 こうして私は酒場で踊り子デビューすることに決まったのだった。

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