第4話 スライム討伐!

「よーし、スライム狩りに出るぞー!」


 街の外にある森にやってきた私は、早速討伐対象であるスライムを探して森の中を歩いていた。


「受付お姉さんはここら辺ならスライムとか、弱い魔物しか出ないって言ってたし、大丈夫だよね。ポーションも買ってあるし、準備万端!」


 お母さんに貰った短剣を握りしめて、辺りを練り歩く。


「ピギィ~」


「いた……」


 少し先にぴょんぴょんと跳ねる軟体の生き物――スライムの姿を見つけた。

 基本的に人間に対して無力だけど、それでも襲ってくることが多い魔物だ。

 確か体内にある核を壊せばいいって聞いたことがある。


 スライムに気付かれないように近付く。そして、スライムの体に迅速に短剣を突きつけた。


「ピィ~!」


「うっ、全然効いてない!?」


「ピィ~! ピギャピギャ~!」


「痛っ! 体は柔らかいのに、噛みつかれたら痛いよー!」


 腕に噛みついてきたスライムの体を短剣で攻撃するけど、スライムには全然効いてない。


「もう! 痛いってば!」


 力一杯に腕を振って抵抗していたら、ようやくスライムは私の腕から口を離した。

 噛まれていたところを見ると、赤く腫れている。痛かったのはどうやらスライムの粘液が理由みたい。


「ぽ、ポーション飲まなきゃっ!」


「ピィ~……ギャ~!」


「うわっ! ま、待ってよー!」


 私が回復するのも待たずに、スライムは再び噛みついてくる。

 そりゃそうだよね、自分を攻撃してきた相手がポーションを飲もうとするのを悠長に待つわけないものね!


「え、えいっ!」


 飛び込んでくるスライムに、正面から短剣を突き立てる。

 刃は綺麗にスライムの口に入って、そのままスライムの体を貫通した。


「ピュ……ピュギュ~……」


「はぁ……はぁ……よ、よかった……初めてだけどちゃんと倒せた……」


 上手く口の中を刺すことが出来てよかった。もしかしたら、あそこが急所だったのかも。


 初めての戦闘が終わって安堵して、緊張の糸が切れた途端に膝が震え始める。


「あ……ちょっと疲れた……かも……。ポーション飲んじゃおうっと……ぷはー、まずい!」


 スースーした薬草の風味と変な苦みの混ざった液体が私の喉を潤す。

 しばらくすると、体中にみるみる元気が湧いてきて、スライムに噛まれた腕の腫れも引いた。


「ポーションってすごーい! これでもう一戦はいけるかも!」


 それから私は日が暮れるまで、スライムを狩り続けたのだった。



 ◆◇◆◇◆



「ピギ~……」


「つ、疲れた……」


 五匹目のスライムを倒した頃には辺りはすっかり暗くなっていた。

 森で野宿する準備もしてないし、今日はこれくらいで終わりにしようかな。


『スキル【さそう踊り】習得』


「うわっ! な、何!?」


 私の脳内に突如として謎の声が響き渡る。

 ス、スキル? そういえば、スライムを何匹も倒したからレベルアップしたのかな。

 それで【踊り子】としてのスキルをゲット出来たのかも。


「それにしても、さそう踊りってなに……?」


 名前的には自分のダンスにつられて相手も踊り出すって感じだけど、それって何の役に立つんだろう……。

 ダンスなんかよりも、直接魔物に攻撃できるスキルが欲しいよ……。


 私が新たな能力を手に入れたことに嬉しさ半分困惑半分でいると、茂みから物音がした。


「ピギャ~!」


「またスライムだ! でももうポーションもないし、逃げた方がいいよね……」


 流石にスライムにやられちゃうってことは無いだろうけど、もしもの事態を考えて撤退も考えなきゃ。

 そう思って逃げだそうとした、その時。ふと【さそう踊り】をこのスライムに使ってみようという考えが浮かんだ。


「せっかく覚えたスキルだし……と、とりあえす使ってみようかな……」


 自分のスキルの効果は把握しておきたいもんね……。


 私はスキル【さそう踊り】の使用を頭の中で念じる。すると、今までダンスなんてしたことなかったのに自分がどのようなダンスをすればいいのか、そのやり方が頭の中に流れてくる。

 手足を動かしてその動きを再現すると、体は前からその動きを知っていたかのように自由に動く。


「わぁ……私、まるで踊り子みたい……って、本当に踊り子なんだよね……。でもすごい……これがスキルかぁ。今まで出来なかったことが出来るようになるんだ……」


 すごいすごい! 踊り子って何の役にも立たないとか言われてるけど、ここまでキレのあるダンスを踊れるって結構優秀な職業なんじゃないの?


「……って、そうだスライムは……?」


 ダンスを踊るのに夢中になっていたけれど、そういえば目の前には敵のスライムがいるんだった。

 私の考えが正しいなら、名前の通り相手を踊らせる効果があるはず……。


「ピィ~♪ ピピピ~♪」


「本当に踊ってる! あはは! 何これ、ちょっと楽しいー♪」


「ピ~ギィ♪ ピ~ギィ♪」


「さそう踊りって相手を強制的に踊らせる事が出来るんだ。これって結構役に立つかも? 行動を封じることが出来るなんて便利だもん」


 このまま、スライムが踊っている隙に倒しちゃおう。さそう踊りを使えばレベル上げも簡単だ。

 明日からはもっと簡単に依頼を達成出来そう。


 私はダンスを止めて、腰の短剣に手を伸ばす。


「ピィ?」


「あれ? スライムまでダンスやめちゃった……?」


「ピギィィィ……!」


「な、何かすっごい怒ってるような……。も、もしかしてこのスキルって自分が踊ってる間じゃないと効果がないの!? しかも、ダンスが終わったら相手を怒らせちゃうみたいだし!」


「ピギャ~!!」


「ひっ」


 スライムが飛びかかってくる寸前、私は再び【さそう踊り】を使用した。


「ピプ? ピ……ピッピィ~♪」


 攻撃してこようとしたスライムは、再び私のダンスにつられて踊り出した。


「やっぱり、これじゃあ攻撃出来ないよ~!」


 相手の動きを封じ込めても、自分が動けないんじゃ意味が無い。

 これって、仲間がいないと意味が無いスキルだよね……。



 私が落胆しながらも踊り続けていると、ガサガサと茂みから音が聞こえた。

 視線を向けると、また別のスライムが現れた。


「プギ~!」


「わわっ、二匹目のスライムだー!? ど、どうしよう……私動けないし、一旦解除してもう一度スキルを使うしか……!」


 急いで【さそう踊り】を解除して、次の瞬間に再び【さそう踊り】を使用する。

 これでとりあえず二匹のスライムの動きを止められるはず……!


「ピ~ィ♪ ピ~ィ♪」


「プルルルル……!」


「あれ!? 片方にしか効いてない!? も、もしかしてこのスキル……一匹にしか効かないのー!? それじゃあ意味ないよー!」


 もしこれが何匹でも行動を封じられるんならすっごく便利かもしれないけど、そうじゃないなら不便極まりない。

 だってこれ、単に私と敵一匹がダンスしてるだけだし、私自身は攻撃出来ないもん。残った相手に攻撃されちゃうじゃない。


 仮に仲間がいたとしても、やっぱり意味が無いと思う。

 踊り子一人で敵一匹の動きを封じている隙に攻撃してもらうより、仲間全員が攻撃した方が手っ取り早い。

 これでは二度手間になってしまっている。


「踊り子が弱い職業って言われてる理由……何となく分かった気がする……」


「ピッピピッピピ~♪ プルプルプル~♪」


「プゥ……プギャアアアア!」


「と、とにかく逃げないと~!!」



 私はスライム二匹を前に逃げ出すことを余儀なくされた。

 どうやら私が思っていた以上に【踊り子】というジョブは弱いらしく、これは相当の覚悟が必要だなと再確認することになったのであった。

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