第3話 冒険者ギルドへ!
今日は私が冒険者として、村から旅立つ日だ。
生まれ育った村を離れるのと、お父さんお母さんと離れ離れになることは、とてもさみしい。
でも私はもう大人だ。自分の夢を叶えるために頑張らなくちゃ!
昨日のうちに神父様に別れの挨拶をしてきた。
神父様は私が冒険者になるのを止めようとはしなかった。
でもとても心配していたのは見ていてわかった。
「モモ、もしあなたが夢を諦めず頑張るというのなら、このネックレスをあなたに贈ります」
「わぁ……綺麗なネックレスですね。頂いていいんですか?」
「はい。もし【踊り子】というジョブに対して嫌になっても、諦めないでください。あなたに踊り子のジョブが与えられたのは、きっと意味のあることですから」
「神父様……ありがとう。私頑張ってみます」
「そのネックレスは、あなたが頑張れるようにという私からのお守りです。ジョブに関するちょっとした加護があるとか、ないとか」
「そんな貴重なものを……」
神父様もなんだかんだ私のことを心配してくれている。
嬉しいような気もするけど、そんなに私のジョブに不安があるのかなあ。
「いいですかモモ。確かに【踊り子】は冒険者には向いていません。それでも私が夢を諦めなければこのネックレスがあなたを助けてくれる……かもしれません」
「かもしれない、ですか。でも心強いですね。神父様のお守りだもん!」
「その前向きな心を持っていれば、きっと大丈夫です」
◆◆◆
「お父さんお母さん、行ってきます!」
「冒険者ギルドがある街まで、気をつけるんだよ」
「預けたお金でしばらくは宿に泊まれるはずよ。頑張ってね」
「うん、ありがとう。じゃあ……行くね!」
「行ってらっしゃいモモ」
こうして私は両親と別れを告げた。ふたりとも村の外まで見送りに来てくれて、見えなくなるまで手を振ってくれた。
私もずっと手を振り返してた。新しい生活が始まるワクワクと、今までの生活から離れる寂しさで、よくわからない気持ちだった。
◆◆◆
「着いたー! ここが冒険者ギルドのある街!」
村を出てから一週間、いろんな村を経由してようやくたどり着いた。
とっても長い道のりだった気もするし、あっという間に感じる気もした。
まだ冒険者になっていないのに、ひとつの大冒険を終えたみたい。
「大っきな街だー! 村にはなかったでかい建物ばっかり!」
人がいっぱいいる。家も建物も村にあるものとは比べ物にならないくらい大きい。
とりあえず冒険者ギルドにいかなくちゃ。そのためにこの街にやってきたんだもん。
私は通行人に声をかけることにした。
「あの、すみませんっ! 冒険者ギルドってどこにありますか?」
通行人は私を見下ろして、にこやかに笑いながら答えてくれた。
「この大通りをまっすぐ行ったところだよ。大きな赤い屋根が見えるかい?」
「はい。あのとっても目立つ屋根が冒険者ギルドですか?」
「そうだよ。迷うことはないと思うからすぐ着くと思うよ」
「ありがとうございます!」
お礼をして冒険者ギルドに向かってまっすぐに歩いていく。
あそこが私の夢、目標の冒険者への道につながってるんだ。
そう思うとわくわくが止められない。早く行きたくてどんどん歩みが早くなった。
そして赤い屋根の建物、冒険者ギルドに到着した。
ドキドキしながら扉を開く。中にはいっぱい人がいる。剣を持つ人や弓を持つ人、杖を担いでいる人もいる。みんな強そうに見える。
そういえば私は武器らしい武器も持ってないな、とその時気付いた。お母さんに護身用に持たされた短剣一本しかないのだった。
「どうかしましたか?」
冒険者たちの屈強そうな雰囲気に飲まれて立ち尽くしている私に、後ろから優しい声がかけられる。
振り向いてみると、とても綺麗なお姉さんがいた。冒険者の人たちとは服装が違う。たぶんギルドの職員さんなんだろう。
「こ、こんにちは! 私冒険者になりたくって、その……!」
「新規のご登録を希望ですか? でしたらあそこの受付で出来ますよ。一緒に行きましょうか」
「お願いします!」
お姉さんはふふっと笑い、受付まで私を連れて行ってくれた。
やっぱりギルドの職員さんだったらしい。優しくて綺麗な人だなあ、こんな人がお姉ちゃんならいいのになあ、なんてことを考えてしまう。
「それでは……コホン。ようこそ冒険者ギルドへ。冒険者登録をご希望でよろしいですね」
「そうです! 私、この前祝福の儀が終わって、冒険者になるために村から出てきたんです!」
「そうですか。十二歳になった方はよく冒険者ギルドに来るんですよ。冒険者は若い人には人気の職業ですからね」
「やっぱり! 私も小さい頃からずっと、冒険者に憧れてたんです! 登録お願いします!」
「それではお名前と年齢、ジョブなどを教えて下さい。あ、年齢は十二歳でしたね」
受付のお姉さんは小さなカードを持って、なにか難しそうな機械に手をかざしている。
魔力で動く機械なんだと思うけど、これで登録をするってことなのかな。
村にはこんな高そうな機械は置いてなかったから、なんだか新鮮な気分。
「私、モモって言います! ジョブは【踊り子】です!」
「【踊り子】ですか……。失礼ですが、レベルはいくつかわかりますか? 使えるスキルなども教えていただけるとおすすめの依頼など案内できますよ」
「れ、レベル……? スキル……? あ、あの、私ついこの前ジョブを授かったばかりなんです」
「そうでしたね。……わかりました。では初心者冒険者、Fランクとして登録させていただきます」
言い終えるとお姉さんは機械を操作して、カードを取り出した。
私にどうぞとそのカードを手渡してくれた。金属のような違うような、不思議な感触のカードだった。
これってなんだろう? 武器かな? と考えていると、お姉さんが説明をしてくれた。
「それは冒険者証といって、本人確認に使ったり冒険者ランクを確認したり、ステータスを見ることのできる便利な道具ですよ。無くしたら冒険者としての活動が出来なくなるので、気をつけてくださいね」
「わわっ、大変だ! 大事にしまっておかなきゃ!」
「それではモモちゃん、これにて冒険者登録は終了です。これで晴れて冒険者になることが出来ましたよ」
冒険者証を見ると私の名前と、Fという文字が書いてあった。
このFはさっきお姉さんが言ってた冒険者ランクなんだろう。
一番下ってことらしいけど、それでも念願の冒険者になることが出来て私は嬉しさがいっぱいだった。
「ようやく……ようやく冒険者になれたんだー! やったー!」
私の夢の第一歩が、こうして実現したのだった。
◆◆◆
「ところでモモちゃん、ジョブが踊り子ってことは単独で活動するより、パーティを組んだ方がいいと思いますよ」
冒険者証を持って嬉しくてはしゃいでいる私に、受付のお姉さんは少し眉を落として言う。
「知っての通り、冒険者は戦うことが多い職業なんです。だから多くの人は戦うことに関するジョブ……才能を持っているんですが……」
「踊り子だと、冒険者をするのは難しいですか……?」
「い、いえそんなことはありませんよ!? ただ、踊り子のジョブで活動するとなると支援職、つまり前線で戦う人のサポートが主な仕事になります」
支援職、魔法使いなんかがやってることだよね。パーティの後ろで魔法を使って敵を攻撃したり、仲間に治癒魔法をかけたりするって本で読んだような。
踊り子でもそういう立ち回りができるのかな? お姉さんの言い方に少し引っかかるものがある気がするけど……。
「ねえ受付のお姉さん、踊り子でも活躍してる冒険者っているんですか?」
「それは、ええと……レベルやスキル次第かな、とは思います」
「有名な人とかいたりしませんか?」
「すみません……少なくともこの街のギルドには、踊り子のジョブで活躍してる冒険者はいません」
「そうですか……。やっぱり難しいのかな……」
夢が叶ったと思ったのに、厳しい現実を知って落ち込みそうになる。
でもお母さんが言ってた、挑戦しないで諦めるのはもったいないって言葉を信じよう。
「大丈夫です! 私きっと、立派な冒険者になります!」
「モモちゃん……。そうですね、そのためにもまずはパーティを組んで──」
「おいおい受付さんよぉ! そんなガキを拾ってくれるようなパーティ、このギルドにはないぜ!」
お姉さんの言葉を遮る大きな声が背後から響いた。
びっくりして振り向くと、私がこの建物に入ってきたときに見た大きな剣を担いだ冒険者の男の人がいた。
「踊り子ってのはなあ。最も冒険者に向いてないジョブなんだよ。スキルも戦うことには役立たず、探索系のスキルや支援系のスキルもねえ。ただ踊るだけのやつらだ」
「な、なんですかあなた!」
「先輩冒険者として忠告しといてやるよお嬢ちゃん。もし冒険者としてやっていきたいなら、間違ってもパーティに入れてもらおうなんて考えちゃあいけねえぜ。役に立たなくてすぐにパーティ追放になるのは目に見えてらあ」
「そんな、やってみないとわかんないですよ!」
「わかるんだよ。この街には毎年大勢の新規冒険者が来るんだ。その中にはお嬢ちゃんみたいな、冒険者に向いてないジョブのやつも混じってる。で、そういうやつは大抵、パーティに入れてもらってもすぐ首になるか、そもそもパーティに入れてもらえねえ」
「そ、そうなんですかお姉さん?」
私はそんなことありませんよ、という言葉を期待して受付のお姉さんの顔を見る。
しかしお姉さんはやはり眉を落として、申し訳無さそうな顔をしていた。
「ま、そういうことだ。せいぜい日銭を稼ぐのが精一杯の万年Fランク冒険者でもやってるか、でなきゃ自分のジョブにあった職業にでも就くんだな」
「うう……」
剣の人は言い終えると元いたテーブルに戻っていった。彼の仲間と思われる人達を見ても、やっぱりちゃんとした戦闘職か、魔法使いなどの支援職の人ばかり集まっていた。
他のパーティはどうだろうとギルド全体を見渡しても、踊り子らしい冒険者はいない。みんなちゃんとした冒険者ばっかりだった。
しばらく私はうつむいて立っていた。受付のお姉さんが心配して、飲み物を持ってきてくれた。
空いてるテーブルに座ってそれを飲み干して、一息ついた。
受付のお姉さんが心配そうに声をかけてくれた。
「大丈夫ですかモモちゃん? もしよければ冒険者登録を解除することも出来ますが……」
「……いいえ、しません! ここで諦めたらもったいないもん! 私やってみます! 一人でも冒険者として活動してみます!」
「そうですか、よかった。落ち込んでると思ってたんですが、大丈夫みたいですね」
「本当は少し悔しいです。でも周りから無理だ、やめておけって言われてやめるほど、私物わかりよくないもん!」
「ふふっ、それだけ元気があれば心配なさそうですね。モモちゃん、冒険者は何もパーティを組まなきゃ活動できないなんてことはありません。一人用の依頼もたくさんあります。まずは簡単な依頼をこなして、冒険者活動に慣れていってみてはどうですか?」
「はい、そうしてみます! 受付お姉さん、ありがとうございます! おかげでやる気が湧いてきました!」
「受付お姉さんって、なんですかそれ」
「あ、ごめんなさい! 興奮しすぎてつい変な呼び方しちゃいました!」
お姉さん怒ってないかな、失礼だったかも。そう思って様子を見ると、お姉さんは笑っていた。
「なんだか素敵な呼び方ですね。私とモモちゃんだけに通じる名前みたい。他の人は絶対、そんな呼び方してくれませんよ」
「え、じゃあこれからも受付お姉さんって呼んでいいですか」
「はい喜んで。それじゃあモモちゃん、やる気もあるようなので早速初心者向けの依頼をご案内させていただきますね」
「依頼! どんな依頼ですか」
本で知った情報だと、冒険者はドラゴンやオークといった凶暴な魔物を倒す依頼が多いらしい。
でもまさか、最初からドラゴンと戦えるはずないよね。どんなことするんだろう。
「冒険者の多くが最初に挑戦するものです。これは戦闘職や支援職関係なく、魔物を倒すということに慣れてもらうためにみんなやっています。踊り子のジョブでもきっと達成できる、簡単なものですから」
「わくわく、わくわく!」
「最初の依頼内容は……スライム討伐です!」
「スライム討伐……!」
こうして私の、冒険者としての最初の依頼が決まったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます