あなたにしか分からない色
@kekumie
人の色
人を色に例える。
それが僕の癖だった。
あいつは赤だ。とか、あいつは黄色だとか、あいつは黒だとか。
少し関われば人の色は大体決まる。
明るければ赤系の色だし、おとなしい系の人だったら黄色系とか青色系の色になる。
だが、自分の色はと言われると決めれなかった。
赤?いや違う。そんなに活発な方じゃない。じゃあ黄色?いや違う。そんなにおとなしくて優しい感じじゃない。
じゃあ黒?それもしっくりこない。
じゃあ僕の色は何色なんだろうか。それが人生28年の解決しない悩みであった。
そんなことを考えていたらいつの間にか家の前に着いていた。
財布に付けている鍵を玄関のドアの鍵穴に差し込み、ドアを開ける。
すると家の奥から声が飛んでくる。
「お帰りー」
明るい、女性の声だ。
聞きなれた声、妻の明美の声である。
明美は、自分には勿体ないような妻のように思う。
明るく活発で、そして美人。
色に例えるとしたら太陽な色、明るいオレンジとかそんな感じだと思う。
「ただいま」
靴を脱ぎ、靴箱に靴を突っ込む。
そしてネクタイを外しながら声がしたリビングの方へ向かう。
「ご飯もうちょっとしたらできるから待ってねー」
ドタドタとリビングで足音がする。スーツなどをハンガーにかけて、リビングの物干し竿みたいなものにかける。
すんすんと匂いを嗅ぐ。
スパイスの効いたカレーの匂いだ。
「出来たよ~」
そう言いながら明美がカレーを机に運びに来る。
僕も食器棚からスプーンを二つ取り出し、机に運ぶ。
そして机を挟んで向かい合うようにして座った。
「今日は自信作だよ」
そう言って明美ははにかむ。
「それは楽しみだな」
二人で手を合わせて、いただきますと言ってからカレーを食べ始める。
スパイスの効いたカレーの味が口の中を満たす。
「ウマ!なにこれ、滅茶苦茶美味しいじゃん」
「ふふーん、そうでしょ。ルー変えたんだ」
明美が自慢げに笑う。肩まで伸びた黒髪が少し揺れる。
今日あったこととか、たわいもない雑談をし、カレーがもう残り少なくなった時、僕はふと帰り道に思ったことを聞いてみた。
「明美はさ、僕を色に例えるとしたら何だと思う?」
「色?」
「うん色。例えば、僕が明美を色に例えるとしたら明るめのオレンジ色だなぁとか。そんな感じ」
「う~~ん。そうだな~~」
明美は顎に手を当てて考える仕草をする。明美の皿のカレーはもう残っていなかった。
「あ!」
と明美は思いついたようで、声を上げ、僕に顔を向ける。
「智也君は、白!白色だと思う」
「白?」
「うん白」
白と言われ僕はビックリする。自分を白色だとは考えたことはなかった。そもそも、人の色を考えるときに白は考えたことがなかった。
「智也君は自分の色って何だと思う?」
「自分の色は思いつかないんだよなぁ」
考えてみるも、やっぱりしっくり来る色は思いつかない。
「なんで私の色はオレンジなの?」
「うーんだって明るいし、自分を持ってて元気そうだから」
「なるほど」
「それに比べて僕は特に目立った特徴がないし、ずっと人に合わせてただけだよ」
「ふ~~ん」
明美は続けて言う。
「やっぱ智也君は白だね」
「なんでなんだ?」
「だって智也君は違う人のことを分かって親身になれるから、みんなに染まれる白だね」
「はは、なんか照れるなぁ」
褒められて少し恥ずかしい気分になる。
「それに私は自分のことはグレーとかだと思うな」
「なんでなんだ?」
「だって優柔不断だし、人の気持ちとか良く分かんないから」
「でも僕は辛いとき相談するなら明美だぞ」
「ふふ、ありがと」
明美は照れくさそうに笑う。
そうだそうだ。人の見え方なんて人によって違うんだ。
色も何もないと思ってた僕も、別の人から見たら白と言う色が付いてるし、僕がオレンジだと思った人も、別の視点から見たら灰色になる。
人の見え方、色の見え方は人によりけりだ。
その色は僕、そして別の人。つまりあなたにしか分からない色なんだ。
あなたにしか分からない色 @kekumie
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