黒と白
伊崎夢玖
第1話
幼稚園の年長組に通っていた、ある日のこと。
「はーい!今から折り紙をしまーす!先生の机の上から好きな色の折り紙を一人一枚取ってねぇー!」
幼稚園の先生の言葉と共に園児たちが我先に駆け出し、欲しい色を奪い合う。
「それ、俺の!」
「違うもん!私が先に取ったんだもん!」
「うるせー!俺がいつも取ってるの、知ってんだろ!」
「今日くらい譲ってくれたっていいじゃない!」
毎回必ず喧嘩が起こる。
言い争う程度の喧嘩ならまだいい。
時には殴り合いの喧嘩が勃発する。
ここまでして色を奪い合う必要性を俺は感じていなかった。
いつも目の前で繰り広げられている喧嘩を傍観して、嵐が過ぎ去った後、余った色を取る。
誰とも争わずに生きていくための、俺の処世術。
まぁ、基本黒しか残っていないんだけど…。
「いっつも黒だね」
俺に話しかけてきたのは、俺のクラスのムードメーカー。
隣の家に住んでいる幼馴染だった。
「別にいいだろ、黒でも」
「いいけどさ……たまには違う色がいいなって思ったりしないの?」
「しない」
「なんで?」
「喧嘩するのとかめんどくさい」
「ふぅーん。そうなんだ」
色がついていれば全て同じだと思っていた。
だから、幼馴染の折り紙の方が俺にとっては違和感の塊でしかなかった。
「先生、好きな色って言った。お前の、色ついてないじゃん」
「ついてるよ?白色」
俺にとってはただの紙。
しかし、幼馴染はそれを白色と言った。
その時、俺は不思議そうな顔をしていたのだろう。
ニカッと笑った幼馴染は続けた。
「白はね、何色にでも染まることができるんだよ」
「そりゃ、ただの紙だからな」
「赤にも黄色にも青にも……もちろん、黒にも」
「……」
「黒は逆に染まらないよね。何色にもなれない。唯一無二の色。……かっこいいよね」
黒を『かっこいい』と言ったのは、後にも先にも幼馴染だけだった。
その瞬間、俺は黒が好きになった。
「ねぇねぇ。次、どこ行く?」
「お前の行きたいとこでいいよ」
「んー、特にないんだよなぁ…」
俺の数歩先を歩く幼馴染。
あれから十数年が経ち、俺たちは付き合っている。
白が好きだと言った幼馴染は綺麗に俺色に染まった。
黒と白 伊崎夢玖 @mkmk_69
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