第41話 食事
貴族街を脱したわしらは冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドでの用事を終えたら武器屋に行こうかなんて話ながら歩く。
ジェニは活気に溢れた街をあっちこっち見ながら、返事を返してくれる。
中でもパン屋やお菓子屋が気になるのか、頻りにそちらを気にして歩いている。
そう言えば夕食がまだだったな。
邸宅でご馳走してくれても良かったのに、と少々図々しい事を考えながら声を掛ける。
「ギルドで素材を売り次第、何か食べに行くか」
「……! うん!!」
嬉しそうに返事を返したジェニは今にもスキップしそうな足取りで歩く。
そんな調子ギルドに入る。
案の定、ギルド内も夜だというのに――いや夜だからか、賑わい喧騒に溢れていた。
酒を飲んだくれる冒険者達。忙しなく働く店員ら。依頼の達成報告をする冒険者に素材を売却する冒険者。
様々な目的を持った者で溢れかえっている。
有難いことにこちらに目を向ける冒険者は少ない。
しかし、注視している者はいるようだ。
その視線を無視して、売却カウンターへ向かう。
「ようこそ冒険者ギルドへ!
ギルドカードをお願いします!」
元気の良い受付嬢がそう言って手を差し出してくる。
そこにわしとジェニのギルドカードをのせると手を引っ込め、カードリーダーに通し始める。
「確認できました!
それでは素材をこのカウンターに載せてください!
ここに載りきらないようでしたら解体場にご案内いたします!」
流石に都市ともなるとB級冒険者は珍しくない。
魔王の侵攻を受けていたらなお更の事、武功を上げようと志願しに来る腕自慢の命知らずが馬鹿ほどいるはずだ。
先程感じた事だが、この支部にはわしより気配が強いものが17人ほどいるようだ。中にはS級のような人外もいるようである。
「わかった」
わしは返事を返して、まずは二足歩行系魔物の素材から取り出していく。
その次に虫類魔物の素材を。これは普通に気持ちが悪い物なので袋の中にまとめて入れている。
「あ、御配慮ありがとうございます!」
受付嬢はそれに気付いたようで、微笑んでお礼を述べる。
そしてその次にジェニが鳥類魔物を出す。
まあ出すと言っても、一羽だけなのだが。
「これだけじゃ」
「……はい! では少々お待ちください!」
受付嬢はカートの上に素材を乗せると重そうにそれを押して奥に引っ込んでいった。
その後ろ姿を、素材買取カウンターの受付嬢としては非力じゃないか?
と思いながら見送る。
やがて受付嬢は戻ってくると、硬貨が入った麻袋をカウンターの上に置き
「こちら代金になります!」
と言って手の先で指し示した。
合計金額は言わないのかと疑問に思いながらも、わしは麻袋を掴み「ありがとう」とお礼を言って立ち去った。
冒険者ギルドを出た後、ジェニの嗅覚頼りで入った店の席にて木の板に書かれたメニューを見る。
わしは何故か腹が減っていないので、ジェニの分だけ注文する。
さて、今のうちに代金の分配を済ませる。
分配はジェニが斃した銀魔鳥を覗いて半々だ。
加えて、辺境伯から貰った褒美の大銀貨二枚を一枚一枚に分け、手渡す。
麻袋を受け取ったジェニは嬉しそうに麻袋の中身を覗く。
ジェニにとっては初めて自分で斃した魔物の素材を換金したものだ。嬉しくもなるだろう。
わしも初めて魔物を斃し、その素材を換金した時、飛び跳ねて喜んだのを覚えている。はて、それはいつだったか。
因みに代金は大雑把に言うとジェニが一万二千リペ。わしが八千リペである。
ここに褒美のお金は含まれていない。
そんな事を考えている内にジェニの料理が届いた。
B種お子様ランチだ。
ジェニの年齢的には似合っていないが、その見た目にはマッチしている。
胃袋の容量的に確かに合っている量だ。
そんな事を思いながらジェニがハンバーグを頬張る様子を眺める。
孫……か。
ニアの子供は生きているのだろうか。
ニアがもし生きていないのだとしたら、孤児院ででも暮らしているのだろうか。
それとも――いや、今は考えないでおこう。
今はただ、相棒との旅を楽しむだけでいい。
たとえ邪魔されようとも、そのことごとくを追い払って旅をする。
もし、王都に死んだと仮定した家族がいたならば、わしはどうすればいいだろうか。
今まで家族にしてやれなかったことをすればいいか。
そう思い至り、わしはジェニに他愛の無い話を始めるのだった。
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