第34話 権能の自覚②
リドルは怨みに飲まれそうになっていた。
妻を殺された怒りを、娘を殺された怒りを、同胞を虐殺され蹂躙された怒りを
悲しみを
後悔を
怨みを
力に換えて――。
「があぁぁぁぁぁぁああ!!」
肉薄し、横薙ぎに振るう。
避けられた。
ならば、足払いだ。
リドルはそのように考えしゃがみ、左足をミューレンの足首目掛けて滑り込ませる。
それをミューレンは後方に跳ぶことによって回避する。
そのたった二撃だけで地は削れ、木々は斬り飛ばされた。
ミューレンはその惨状を見て「くっ……!」と息を漏らし、リドルを睨みつける。
リドルの攻撃は乱雑。
型も流派も剣術スキルも乗っている訳ではない。
それ故ミューレンはリドルの攻撃を見極め、回避を取れていた。
ミューレンはことごとくリドルの攻撃を避けながら考える。
(あの鎧……魔力と怨念で模っているのかのう?
では対呪の武器や吸魔の剣が効くのではなかろうか。
物は試しじゃな)
ミューレンは【収納】から対呪のガントレットと吸魔の剣を取り出し、装備する。
「行くぞッ!!」
ミューレンがリドルに肉薄し、剣を振るう。
するとリドルはそれを死怨剣で防ぐ。
(しめた!
――《吸魔》)
刹那、死怨剣から黒煙が滲み出てくる。
それはまるで渦を巻くように吸魔の剣に吸い込まれていった。
(やはり――なっ!?)
途端、衝撃波のようなものがリドルを中心に辺りを駆ける。
その影響はミューレンには勿論、ジェニファーの結界にも届いていた。
結界には亀裂が走り、ミューレンは背後の木に叩きつけられ、その勢い止まることなく一本、二本と背後の木を突き破って激突していく。
四本目の木に激突した時、やっと勢いが止まった。
ミューレンは地面に吸魔の剣を突き立て、杖代わりに立ち上がる。
「ぐふっ、ごほっ、ごほっ」
血反吐を吐き、折れ倒された木々の先、土埃のせいでシルエットしか見えない鎧姿の化け物をミューレンは睨みつける。
(『災人』とまではいかなくとも、その候補には上がる強さをしているではないか。
動きを観察するに、あの子供の方に攻撃を飛ばさないようにしている。
何も喋らぬが、少なくとも理性は残ってると考えた方が良いか。
しかし、わしには奴を斃す決定打がない。ここは逃げるのが得策か。
……報酬はなくなるが、報告さえすれば上がどうにかするに違いない)
「……厄介な事極まりないわい」
ミューレンはそう吐き捨て【収納】から取り出した転移石で魔王国に戻ったのだった。
◇◆◇◆◇
「くははっ! ふーっ、やっと権能を自覚したか、あの老人」
黒髪に紫色を混ぜたような髪色に、正しく神のような美形の男神。
時命神バリオは口元を抑えながら愉快そうに笑い、目の前のウィンドウを見る。
そこには赤紫が適切に混ざり濁ったような鎧を纏った老人が映し出されていた。
リドルである。
「しかし、条件が重なると権能から与えられるスキルもあのようになるのだな」
頬杖をついてウィンドウを【■■】で覗き込む。
本来、権能を自覚した際に与えられるスキルは【不老不死】の派生スキルである。
しかし、リドルに与えられたのは『死』と『怨念』系統のスキルであった。
「さて、実験は終わったので権能は返してもらおうか」
そう言いフィンガースナップをする。
よく通る乾いた音がこの神域に響いた。
途端にウィンドウに映るリドルは糸が切れたかのように倒れ伏した。
鎧も使用者が意識を失ったため、サラサラと空気に溶け込むように消えていく。
それを確認して時命神バリオは勢いよく合掌し、ウィンドウを消したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます