第35話 あとしまつ
「……い! リド爺……!!」
目を開けた途端、ジェニが抱き着いてくる。
何故か目を腫らして泣いている様だった。
わしはゆっくり身体を起こしつつ、現状を把握する。
ここはビディアンの森。
地形が色々と様変わりしているが、間違いないだろう。
そして記憶があやふやだ。
ジェニの背中を宥めるように撫でながら思い出して行こう。
確か二体の魔族が現れた。
片方が伯爵の魔族。もう片方が騎士爵の魔族だった。
奴らが名乗った後、わしは首を斬られて――
……っ! そう言えばその二体はどこへ行った!?
わしは警戒度を高めて油断なく辺りを見回す。
しかしあの伯爵の魔族の姿は見当たらなかった。
だが、少し離れた所に騎士爵の魔族の死体があるのが分かった。
真っ二つに分かれて死んでいる。
わしが斃された後、仲間割れでもしたのだろうか。
「ジェニ、立てるかの?」
「……うん」
ジェニは涙を拭いながら返事をし、地面に手を付けて立ち上がる。
わしとジェニの身体に傷はないなと思いながら立ち上がった。
「見なくてもよいからの」
「うん、でも慣れなきゃいけないから」
決心の固い目で見上げてくる。
ジェニが偉い。この子本当に偉い。
慣れなきゃいけないというのは、恐らくわしが不老不死だというのに気づいたからだろう。
一緒にいるなら、わしの首が跳ね飛ばされるなど気持ちの悪い光景を頻繁に見る事になると思ったのかもしれない。
どちらにせよ、冒険者をやっていれば魔物の死体を解体することや、死体を見ることは山ほどあるはずだ。そのこともジェニは加味して言っているのだろう。
「……そうか、無理はするんじゃないぞ」
わしはそう返して、騎士爵の魔族の死体に近付く。
恐ろしい切り口だ。寸分の狂いなく縦に真っ二つにされている。
これは痛みを感じる間もなかったと見える。
そしてこのように近付いて見ると一つ気になる点が出来た。
それは仲間割れしたにしては、争った形跡が一つもないことだ。
地面に踏ん張った後ができるとか、魔法痕ができるとか。
この騎士爵の魔族が背後から不意打ちのように抵抗もなく、バッサリやられていたらそう考える必要もないのだが、これは真正面から斬られているようにみえるのだ。
伯爵魔族とて、末端とはいえ爵位級の魔族を一撃で。とはあり得ない。
もっと強大な何かが居たのかもしれん。
そう言えば、ジェニはこ奴がやられる光景を見ていたのだろうか。
だが、子供にありがちの、目を背けるや目を閉じるなどしている可能性がある。
……いや、ジェニに普通の子供を当てはめるのは無理か。
辛いことを訊くことになってしまうが、騎士爵の魔族がどうやって死んだのか訊いてみる。
「えっ? 覚えてないの……?
リド爺が斃したんだよ?
一瞬で近付いてスバーって」
「は? ……いやいや、そんなわけなかろう。
わしはB級冒険者にしてはステータスが低い。
S級冒険者、しかも騎士爵の魔族を一撃で斃せるはずがないのじゃが……」
わしはジェニの言っている事を否定しつつ、ステータスを開く。
=====
個体名:リドル 性別:男 年齢:77 種族:ヒューマン
称号:『逆境を跳ね除けし者』他5個
Lv.137
HP:19590/19590
MP:13/26680
状態:老衰
筋力:872(2839)
頑丈:689(1972)
敏捷:935(3011)
体力:1959
魔力:2668
精神力:3146
器用:5231
知力:1550
運:32
SKILL 【剣術/Lv.15】【槍術/Lv.7】【盾術/Lv.8】【杖術/Lv.2】【魔纏/Lv.MAX】【魔装/Lv.4】【気配感知/Lv.14】【魔力感知/Lv.9】【危機察知/Lv.1】【鑑定/Lv.9】【聞き耳/Lv.2】【威圧/Lv.17】【拡声/Lv.5】【収納/Lv.11】【不老不死】【死怨覇気/Lv.1】【魂魄感知/Lv.1】【地獄耳/Lv.1】【死怨武装/Lv.1】【心声/Lv.1】
=====
おかしいな。レベルが五も上がっている。
こりゃわしが斃したっていうのも可能性の一つとして挙がるな。
スキルも増えている。
とんでもなく物騒な名前だが。
もしやこのスキル達でわしは意識の無い間この騎士爵魔族を斃したのか?
「すまん、ジェニ。
もしかしたら可能性はあるかもしれん」
そう頭ごなしに否定した事を謝る。
そしてわしは屈みこんで、騎士爵魔族の二の腕付近に落ちていた収納キューブを持ち【収納】の中に突っ込む。
高位の魔族。それも爵位持ちとなれば、死体のどこも余さず使う事ができる。
しかし、ジェニの手前そんな事をしたらトラウマになるだろう。
惜しいが、角へし折って魔核を取りそれ以外は火葬しよう。
ううむ、眼球だけでも千切り取っておけばよかっただろうか。
錬金術師や媒体魔法師に見せつければ大枚はたいて買うだろうに。
いやいや……! 角と魔核だけで我慢しよう。角だけでも大銀貨二枚にはなるからな。
わしは上級魔法で死体を燃やしながらそんなふうに思っていた。
慣れって怖い。
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