第28話 キリのつかない感情

「……て! 話を!!」


 聞く耳など持つものか。

 先手を打ってきたのは奴ら。

 しかも殺意しかない光の矢。


 ならばこちらも光属性+αで相手をしよう。


「略式詠唱――《寒天の槍》」


 準上級魔法に分類されるそれは、周りの光が三ヶ所に集中するように集まり槍の形を模す。その色は冷たい青であった。


 杖を地面に突き刺すのを合図として、天槍を放つ。


 放たれた天槍はソニックブームを周囲に撒き散らし、奴らに迫る。

 わしにはその様子が肉眼で見えた。


 しかし、奴らはそれを回避する。魔族なだけあるな。

 左の大柄な奴の右腕は吹き飛ばしたようだが。


「くっ、仕方ねぇ! 取り押さえろッ!!」


 中央の奴がこちらに駆けながらそう仲間に指示を飛ばす。


 笑わせるな。

 先程は殺すつもりであったろうに。


 それにしても警戒がお粗末極まりない。

 相手が老人だからと言うのもあるだろうが、わしが奴らに少し劣る程のスピードを出した時点で警戒してもいいと思うのだが。


 奴らは【気配感知】【魔力感知】などの感知系スキルを常時発動していないのだろうか?


 ――ほら、後ろから天槍が迫ってるぞ。


「がっ!?」

「ゴフッ!」

「……っぁ」


 三本の天槍は大柄なやつの腹に突き刺さり、指示を飛ばしていた奴の胸を貫通。赤い瞳孔をしていた奴は胸の少し上を貫通した。

 そして天槍が触れた場所から凍結が侵攻している。


 これでもまだ即死しないとは。

 しかし、大柄はもう息も絶え絶えだ。もう一分以内に死ぬだろう。


「ぎいてないぞ……っ! こんなの……こんなの!!」


 地に倒れ伏した三体の内、指示をしていた奴がわしを睨みつけながら叫んだ。

 そして地面に拳を叩きつけている。


 叩きつけた拳を中心に地面にひびが入る。


「クソッ、クソッ、クソォォっ!!!」


 指示していた魔族は、よく見ると涙を流しながらそう叫んでいる。

 こんな老人に倒された事がそんなに悔しいのか。

 その様子を見ていると溜飲が下がる。


 指示魔族がハッとし、両側に倒れ伏している魔族を見る。

 大柄の方は既に絶命し、赤目の奴は目から血を流しながら土を掴んでいた。


「ごめん、ごべんなぁ……!!」


 一転、指示魔族が今度は仲間に謝り始めた。

 自分の選択を悔いたのか、何なのか分からないが、少し情に訴えかけるような悲痛さを持った声だった。


 しかし、ここで同情するわしじゃない。

 奴らは口撃の魔王の配下である以上、わしにとっては悪でしかない。


 娘の命を奪った悪なのだ。


 それにわしに殺意を持った光の矢を放った時点で、奴らはわしの敵。

 情けを掛ける義理はない。



 …………安らかに死ね。

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