第27話 襲撃
「リド爺、依頼とか見なくてよかったの?」
冒険者ギルドを離れて直ぐ、ジェニがそう声を掛けてきた。
そうだよな、ジェニとしては掲示板の依頼を眺めて見たかったのだろう。
だが、それを考えても早々に離れなければいけない理由があった。
「すまないなジェニ、あの場に居たら恐らく襲われていた」
「え……?」
ジェニは衝撃を受けたような顔で固まる。
「な、なんで? リド爺、なんか狙われるようなことしたの?」
「いや違う。違うが……わしらに殺気を向けている者が居たのは確かじゃ。
しかも正体が悟られぬ程度の殺気じゃ。
実に巧妙な事、冒険者ランクにしてC級以上って所かの」
「……っ」
ジェニは息を飲んで辺りを見回す。
少々怖がらせ過ぎたか。じゃが、これくらいが丁度いい。
冒険者たるもの、しっかりと危機感を持った方がいいからのう。
しかしこれでは武器屋どころの話ではない。
即刻この街を立ち去った方がいいだろう。
アリスやリアーノに挨拶できんのは心苦しいが、こうなれば仕方ない。
そう逡巡した瞬間、後頭部にチリッとした感覚を覚える。
「——ッ!!」
反射的にジェニの手を握り、飛び退く。
その瞬間、わしらの居た場所に光の矢が三本突き刺さった。
そのどれもが地面に深く減り込んだ。
殺意高すぎるな。刺さった位置的にわしだけは確実に殺しに来ているようだ。
それにしても手を出してくるのが速い。
先制攻撃をとられた。
考えている暇はないな。
そう思いながら無詠唱で《身体強化魔法〈10〉》を己に掛ける。
「ジェニ、すまん。舌を噛まないよう気を付けろ」
返事を待たずしてジェニを肩の上に担ぎ、足に力を溜める。
地面に蜘蛛の巣状のひびが入る。
それを知覚した瞬間、わしは地面を蹴った。
刹那、背後から耳をつんざくような轟音が駆け抜けていく。
すまない、ルーの街よ。
先程までわしらが居った場所は、既に土埃と衝撃波でぐちゃぐちゃになっているだろう。
この瞬間を兵士や衛兵が見ていたらわしは指名手配されるだろうな。
じゃがその甲斐あって、わしらを襲撃したと思われる者の気配が追ってきている。
その数、三体。
これは数的に不利じゃな。
それに加えて奴らの速さの方がわしの走る速度よりも上回っている様だ。
そう思っている内に市壁に到達しそうなので、大きく跳躍し市壁を飛び越える。
飛び越えた先は草原。
そこは平とは言えず、若干の坂となっている。
草原を寸刻走り、わしは背後に目を向ける。
少し離れた位置にわしらを追尾するように奴らはいた。
姿を隠す気もないようじゃ。
特徴的なねじれ角に青黒い肌。
三体とも目の色こそ違うが、特徴的な部分は同じに見える。
――間違いない。あれは、『レソン・ピー族』と呼ばれる魔族だ。
しかもレソン・ピーは口撃の魔王との戦争に兵としてよく出没していた。
その因果関係から察するに恐らくだが、わしを殺しに来たのだろう。
娘を殺しただけでなく、わしをも殺そうというのかッ!
頭に血が上る。
殺してやる。
奴らが娘にしたであろう、攻撃も。拷問も。
全て、
思い知らせてやる。
足を止めて、振り返る。
「リド爺……? ――っ!」
横でジェニが息を飲む気配が伝わってきたがそれに構う余裕はない。
ジェニを下ろし【収納】から戦で使っていた杖を取り出す。
そして迫りくる奴らに向かって構えた。
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