第22話 じいさん、レベルアップする

「うおおおおおおおっ!! 上がった! 上がったぞぉおおおお!!」


 わしは草原の上でそれはもう飛び跳ねていた。


 ありがとうございます、ありがとうございます。

 わし、遂にレベルが上がりました。

 本っっ当にここまで長かった。


 不老不死になった日から数えればもう一年くらい経っただろうか。


 思い返せば、時には村の子供たちと一緒にスライム狩りをし、それを一週間ほど続けるとルーに行って素材を買取してもらったり、アリスやリアーノと談笑したりする日々を過ごした。


 その間にロタは上級冒険者になるためにこの村から旅立ったが、その頃には問題なくわし一人でルーまで行けるようになっていたのでそこまでのアクシデントは起きなかった。


 今頃ロタはどうしているだろうか? ロタの技量ならもう流石に登録料を払えていると思う。

 もう既に中級冒険者にはなっていたりするかもしれん。


 次会う頃には上級冒険者になっているといいのう。


 後、五か月前程か。ジェントルマン(騎乗馬)が寿命で亡くなった。

 亡骸は丁寧に燃やして、家の庭に埋葬した。


 あの時は本当に久しぶりに泣いたのを覚えている。


 そんな事を思いながら足元に寄ってきたスモールスライムを蹴り飛ばす。

 すると風船が破裂するように、弾け飛んだ。


 おう、これじゃあスライムの体液を回収できんわい。やはり杖で倒すのが一番か。

 ……ん? というかわしこんなに脚力強かったかの? 確かに軍兵だった時は、蹴りで敵兵の頭蓋を爆散させることもできたが、老人になってからはそんなことは到底できんようになったはずじゃ。


 レベルアップによるステータス上昇かの? ……あっ、そういえばわしの状態はどうなっておるか確認し忘れておった。

 論文通り、若返って死に際が無くなっておればいいが……。


=====

個体名:リドル 性別:男 年齢:77 種族:ヒューマン

称号:『逆境を跳ね除けし者』他4個

Lv.130

HP:5821/13010

MP:3963/18440

状態:老衰


筋力:235(1347)

頑丈:182(1311)

敏捷:304(1418)

体力:1301

魔力:1844

精神力:2571

器用:4708

知力:1278

運:32


SKILL 【剣術/Lv.15】【槍術/Lv.7】【盾術/Lv.8】【杖術/Lv.2】【魔纏/Lv.MAX】【魔装/Lv.4】【気配感知/Lv.14】【魔力感知/Lv.9】【危機察知/Lv.1】【鑑定/Lv.9】【聞き耳/Lv.2】【威圧/Lv.17】【拡声/Lv.5】【収納/Lv.11】【不老不死】

=====


 おお……!! 状態:死に際が無くなっておる!! それに全盛期にはまだ程遠いが、筋力、頑丈、俊敏の値がそれなりに復活しておるぞ! じゃからスモールスライムを弾け飛ばせるほどの脚力になっていたのじゃな。納得納得。


 さて、目的は達したし村に帰ろうかの。

 帰ったらまずロズ達に今日の成果を聞こう。その後は家で荷物を纏めようかの。


 わしはこれからの人生に思いを馳せながら駆け足で村に戻った。




 村に着くとまずわしは村の中心、井戸のある広場に向かった。

 まあ、広場といってもこの村の平屋四つ分ほどの広さしかないが。

 最近ロズ達はそこでジェニや村長から魔法の訓練を受けていたのだ。


 村の広場に近付くごとに元気よく詠唱の声や発動文言が聞こえてくる。

 するとジェニがわしが近づいてきたの気付いたのか、駆け寄ってくる。結構な距離があるにも関わらずだ。


 そう、ジェニは【気配感知】を習得したのだ。


「リド爺! お帰りなさい!」


 ジェニが満面の笑顔でそう迎えてくれる。

 本当に眩しい笑顔じゃ。心の邪気が祓われるの感じる。

 取り敢えず、ぽんぽんと頭を撫でておく。


 あの一件以来、ジェニはわしに何故かすごく懐いた。あの時は「リドルおじいちゃん」なんて他人行儀な呼び方をしていたが、今では他の子供達と同様、「リド爺」と呼んでくれる。


「あれ? リド爺、なんか変わりました? いつもより背筋がピンとしているような……?」


 鋭いな、ジェニ。

 そうか。わしでは分からなかったが、他人から見たらそうなのか。

 まあここは惚けておこう。


「そうかの? それより、ロズ達の魔法の調子はどうじゃ?」

「……? あっ、そうでした! ロズ、火魔法の習得に成功したんですよ!!」


 ジェニがまるで自分の事のように喜んで報告してくれる。


「おお、そうなのか! ついこの間、風属性を覚えたばかりなのにか。成長力……いや吸収力が凄いのう」

「ですよね~、正直僕も驚いてます」


 そんな会話をしながら魔力が高まる気配がする方へ向かう。


 わしらが家の陰から広場に顔を出した瞬間、それは放たれた。


 ロズが掲げていた手の先から、魔核に近い大きさの火球が辺りに衝撃波を撒き散らしながら天高く上っていく。

 そして呆気なく消失した。


「ほう……」


 今ロズが行使したのは火属性初級魔法に分類される《火球ファイアーボール》だろう。だがしかし、その威力は準中級魔法に匹敵するものだった。

 普通の《火球ファイアーボール》はそもそも衝撃波を撒き散らしたりしない。


 恐らくロズの魔力が込め過ぎなのが原因だろう。

 《火球ファイアーボール》に必要な魔力は八。それをあれは三〇くらい込められていた。

 ロズは魔力操作、魔法調整が雑だ。それを村長やジェニに伝え、改善させねばなるまい。


 空に向けて放っていたから良かったものの、あれを家や地面、人に向けていたら大変な事になっていただろうからの。


「あっ! リド爺!!」


 ロズが近寄ってきたわしらに気付いたのか、駆け寄ってきた。


 その後はロズが今の《火球ファイアーボール》の感想を求めてきたり、子供達の成長話を沢山聞いた。


 うんうん、子供達は順調に成長しておるな。

 ……そうじゃ、今の機会にあのことを話しておこう。


 そう思い、わしは「少しええかの?」とその場にいる皆の注目を集める。

 全員の顔がわしに向いたところでわしは口を開いた。

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