第21話 未来への期待
その後、ジェニ君の完治祝いとして村長から食事が振舞われた。
恐らくわしへのお礼も兼ねているのだろう。
家にある一番高価な物を使った村長の手料理だという。
ちなみにロズ達も一緒にだ。
それと聞いたのだが、村長の奥さんは物語に出て来そうなエルフの冒険家らしく、このリンファーレの星々を巡っているのだと。だがら村長さんは齢五一にして家の家事と畑仕事、ジェニ君の看病に奔走していたという。
なんというか、苦労人じゃな。だが、ジェニ君が元気になったことで少しは負担がなくなるのではないかと思う。
食卓の席に座っていた時点で、キッチンから漂ってくる料理の匂いでわしは老体に似つかわしくない程の大きな腹鳴をした。
それに対してジェニ君はクスッと笑った。
病魔に伏していた時の辛い表情はどこへやら。今はすごく気持ちのいい笑顔を浮かべているように見える。
本当に良かったのう。
料理は大変美味しかった。
あの『天女の羽休め』の料理と同等レベルで美味しかった。これは村長さん料理系スキル持ってるな? 間違いなく。
「リドルお爺さんはこの後どうされるんですか?」
わしは村長が淹れてくれたコーヒーを飲んでいると、ジェニ君にそう声を掛けられた。
わしが不思議そうな顔をしたからだろう。ジェニ君は言葉を付け加えた。
「あ、いえ、少し気になって」
ジェニ君は人差し指と人差し指を突き合わせて、少し上目遣い気味にわしを見た。
「そうじゃな、この後はスライム狩りに行こうと思っておる」
「スライム狩り!?」
ジェニ君は目を輝かせ、前のめりになってそういう。
「お父さん、ぼ――」
「ダメだ」
「ええー」
にべもなく断られ、少し頬を膨らませて村長を見るジェニ君。
やはり少し言動が幼いな。
「いいじゃん、パーチ村長! 私達もいるからさ!」
席に座って水を飲んでいたロズがそう言う。
それに村長は困った顔をして、難し気に顔を顰める。
村長の中で色んな葛藤があるのだろう。
やがてわしに顔を向けて頭を下げた。
「すみません、リドルさん。この子達をお願いできますか? ……まだお礼もできていないのにこんな事を頼むのは不甲斐ないと思いますが、どうかお願いします」
まぁ、この子達にそんな顔されて断れる大人は居ないじゃろうな。
これで断れるなら普通に尊敬する。
それにジェニ君はスモールスライム相手にやられるほどやわではないはずだ。
「あいわかった。お礼は食事とジェニ君の元気な姿で十分じゃよ。そこまで畏まる必要は無い」
「ありがとうございます……っ」
村長はまたしても頭を下げた。子供達はスライム狩りにジェニ君も行けると分かり大喜びだ。
村長に関しては放っておいたらずっと頭を下げてそうなので、ロズやジェニ君達に「なら支度してきなさい」と声を掛け、村長はジェニ君に同行させる。
わしは【収納】の中に武器やら防具やら入れてあるからこの身一つと杖で準備は万端だ。
相手はスモールスライムなので現地に着いてからローブや武器を装備すれば問題なかろう。
わしが優雅にコーヒーを舌の上で転がしていると、ジェニ君と村長が降りてきた。
「リドルおじいちゃん! どうですか? 僕の装備は!」
降りて来るなり満面の笑みでそう声を掛けてくるジェニ君は、濃い緑色の魔導具らしきフード付きのローブを羽織っていた。そして目の前でくるりとターンして見せる。
するとローブの端がふわりと浮き上がった拍子に、腰の両側にナイフ程のサイズの鞘と柄頭が見えた。
【短剣術】のスキルから予想はしていたが、やはりか。
ジェニ君はダガー使いだ。
「おお、大分様になっておるのう。カッコいいぞ」
「えへへ~」
ジェニ君はにへらと笑う。その笑顔に和むわしと村長。
わしにも孫が居れば……いや、居るにはいるが、会う事は難しいからのう。
最後に息子と交わした便りはいつじゃったか。一年と少し前くらいか。
確かその時は治療院を上手く経営できている事を報告してくれたのだったか。確か娘の方の孫が治癒魔法を使えるようになったとも書いてあったな。
そんな事を考えていると勢いよく背後の扉が開いた。
驚いて振り返るとそこには簡単な皮装備を纏ったロズ達四人組がいた。
「わー!! ジェニ、カッコイイ!!」
「ほんとだ、暗殺者みたい」
「……似合う」
「かっけぇじゃん、ジェニ!」
口々に褒められジェニ君が得意げだ。心なしか村長さんも得意げ。
「では準備も出来た様じゃし、行こうかの」
「「「「「はーい!」」」」」
わしは席から立ち上がり、杖を突いて玄関へ向かう。
子供達もわしの後に続いた。
「気を付けてな、ジェニファー」
玄関に見送りに来た村長が心配そうにジェニ君を見て、わしに目を向ける。
その目には色んな感情が渦巻いているのが見て取れた。
恐らく、ジェニ君が外にまで出れるようになった事に対しての喜び、感動。病み上がりなのにスライム狩りに出かける事に対しての不安と心配、怪我をしない様にと願う気持ち。
そしてわしにジェニ君を任せたという、期待と祈り。
「心配性だなお父さんは。
期待して待っててよ! 魔石沢山持ち帰るから!!」
それらを汲み取ったのか否か、ジェニ君は村長を安心させるように微笑み、自分の胸を叩いた。
「ああ……」
また感極まっている村長が目を擦っている内に、ジェニ君はわしの袖をつかんで玄関を出ていく。
そんなジェニ君の横顔には未来への期待が滲んでいたのだった。
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