第17話 じいさん、賞金を受け取る
「どうやら、こいつら余罪があるみたいでね……」
詰め所にて、衛兵隊長のバルカンさんがタブレットと睨めっこしながら教えてくれる。
話せば長くなるのじゃが、あの現場を通り掛かった住人が見ていたようで、地面に転がっているこ奴らを詰め所にどうやって運ぼうか悩んでいたところに、衛兵が詰めかけてきた。
そして屈強な衛兵の方々が丸太を肩に担ぐようにして、男達を詰め所まで運んでくれたのじゃ。そしてそれに同行して今にあたる。
バルカンさん曰く、住民から老人が襲われていると報告を受けて駆け付けたが、もう既に悪漢共が片付いていたので驚いたそうだ。これを魔法痕一つでわしが片付けたというのだから二度驚いたそう。
それにしてもやはりか。
こやつら他に余罪がありよった。
「因みにどんな余罪があるんじゃ? 良ければ教えてくれるかの?」
「ん? ああ、強盗に殺人、強姦と盗賊まがいのものまであるな。……爺さん、こいつらのリーダーは賞金首みたいだぞ」
「相当やばい奴らじゃったんじゃのう……」
賞金首になるほど罪を重ねていたとは……おぉ怖い。
「お爺さん、協力感謝します。明日もう一度詰め所に来てもらえますか? 賞金をお渡ししますので」
詰め所の奥から出てきた、事務官っぽい衛兵がそう言い羊皮紙を渡してくる。
賞金を受け取る為の券みたいなものだろうか?
「あい分かった」
わしは頷き、詰め所を後にした。
「爺さん、遅いぜ~! 先に食べ終わっちまったよ」
部屋に戻るとベットに寝転がるロタが目に入った。
そんなロタはそう言いながら備え付けの机の方を指さした。
そこには明らかに冷めた食事が、木製のトレーの上に乗せられて放置されていた。
「ロタよ、食べ終わってすぐ寝っ転がっていては胃に悪いぞ」
「へいへい」
やれやれといった感じで起き上がる気配を背中で感じながら、わしは椅子に座る。
そして食事に手を付けた。
数年ぶりのしっかり味付けのしてある食事。
メニューはヨモフの塩焼きとクリームシチュー、そしてポテトサラダとふわふわの白パンか。
もう味を忘れて久しいクリームシチュー、木製のスプーンでそれを掬い口の中に入れる。
濃厚でクリーミーな味じゃ。まだ少し生暖かい……これは白パンと合うぞ。
嬉々として白パンを一口大に千切り、シチューに浸し口の中に入れる。
これはいい、白パンのほんのりとした甘さとシチューの濃厚な味が相まって物凄く美味い。胃と舌が喜んでいるのが分かる。
ここで水を飲んで口の中をリセットする。そして箸でヨモフを裂き、口に入れる。
考えてみれば魚を食べたのはシチューと同じくらい久しぶりかもしれない。
ふかふかの白身に塩味が効いていてこれも非常にうまい。そこにシチューを流し込めば、シチューの化身と手足を生やしたヨモフがガッチリと手を取り合っている光景が頭に浮かぶほど合っていた。
それを飲み込み、ポテトサラダを口に入れる。これはわしの好物じゃ。村に住んでいた時も時々作っていたほどに好物なのである。軍に居る時も、食堂でよく出ていたのを思い出せる。
それらを交互に食べ、夕食を終えた。
トレーを持って部屋の外にある、台の上に置いておく。そしてチップとして黄銅貨二枚をトレーに置いておいた。
その後はわしが先に風呂に入り、汗を流した。そして先に就寝させてもらった。
朝、部屋のチャイムを押された音で目覚めた。
急いで部屋を出て行くと、トレーを持った従業員が二人立っていた。
トレーを受け取り、机の上に置いて黄銅貨を二枚取り出して手の空いた方従業員にチップを渡す。
「二人で分けなさい」
「「ありがとうございます!」」
従業員がそう言いながら頭を下げる。顔を上げると晴れやかな笑みを浮かべていた。
もう一人の従業員からトレーを受け取り、ドアを閉め机に運ぶ。
そして先程から盛大ないびきを掻いているロタを揺さぶって起こし、朝食を取る。
朝食は軽めのスープと白パン、オレンジ一切れだった。
まさか朝食に果物が出るとは思っていなかったので驚き。宿の設備だけでなく食の質も上がったのか。
「うめぇ! うめぇぞこれ!!!」
ロタもオレンジの皮ごと食べながらそうはしゃぐ。
まさかの皮ごと食べているロタに若干引きつつ、わしもオレンジを齧るのだった。
トレーを返した後、わしはロタに果物屋の場所を教えてから一人でチェックアウトをし、詰め所に向かう。
詰め所に着くと、詰め所前に立っている衛兵が中に入ろうとするわしを訝し気な視線で見てきた。だが、特に止められることもない。
痴呆症の迷子とでも思われたのだろう。
中で談笑していた衛兵に、昨日貰った羊皮紙を見せつつ「バルカンさんは居るかの?」と問う。
「少々お待ちください」
そう言って衛兵の一人が引っ込んでいく。
特に何の誰何もなく待てと言われ戸惑うわし。
「爺さん、今バルカン体長は巡回に出てて居ないんですよ。
ですがその賞金首の確認は取れておりますので、賞金を渡すことはできます。
ペルの奴は今その賞金を取りに行ったんですよ」
談笑していた衛兵の一人がそう言う。
わしがそれに頷くと衛兵は「あいつは言葉足らずなんですよ」と苦笑した。
数分してペルと呼ばれた衛兵が麻袋を携えて戻ってきた。
「こちらが賞金になります。ご協力ありがとうございました」
麻袋を受け取ると衛兵はそう言って敬礼してくれた。
それに対してわしもお辞儀を返し、詰め所を後にする。
やっぱこの国の敬礼ってかっこいいよなぁ~と他愛ない事を考えながら、わしは果物屋に向けて足を進めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます