第8話 じいさん、冒険者ギルドで売却する

「じゃっ、俺冒険者ギルド行ってくるぜ! 爺さんは――」

「いや、わしも冒険者ギルドに用事がある。付いていってもええかの?」

「おっそうなのか、良いぜ!」


 元気よくロタは歯を見せた笑顔でそう答える。

 そして冒険者ギルドに向かって歩き出した。


 ロタは割と何度もこの街に来ている為、それなりの地理は分かるのだろう。

 迷いなく歩いていく。


 三分もしないうちに冒険者ギルド、ルー支部に着いた。

 そしてロタは踏み止まることなくギルドに足を踏み入れた。

 わしもその後に続く。


 丸テーブルに座っている者、掲示板に群がっている者達が一斉にこちらを向く。

 そして一部興味をなくしてそっぽを向く者、無遠慮にジロジロ見てくる者やわしを見て鼻で笑う者。そして――


「老いぼれなんかがなんで冒険者ギルドに?」

「知らんが、薬草採取とか魔物退治の依頼を頼みに来たんだろ」

「ああ、なるほどな」

「あいつ、いい剣持ってんな。お貴族様か?」


 ――という会話が聞こえてきた。

 【聞き耳】のスキルが常時発動しているものだから、こういう要らん会話まで聞こえてくる。


「じゃ、俺は冒険者登録してくるから」

「分かった。じゃあわしはあっちの受付におるからの」

「りょーかい」


 ロタは空いていた二番窓口の方に向かい、わしはもう一つ空いていた五番窓口の方へ向かう。

 

「こんにちは、本日はどのようなご用件ですか?」


 窓口の前に立つとそこの担当らしき、クリーム色の髪のショートヘアーが似合うお嬢さんに声を掛けられた。

 わしは穏やかな笑みを意識して顔に貼りつけ、口を開く。


「今日は、素材を売りに来たのじゃ」

「そうでしたか、冒険者登録はもうお済ですか?」

「ああ、済んでおる。これがわしのギルドカードじゃ」


 ポケットから冒険者カードを取り出し、受付嬢に渡す。

 先程門で衛兵からカードを返してもらった際に、またすぐに使うだろうと思いポケットに入れておいたのだ。


「はい、確かに。……」


 受付嬢は魔道具にカードを通し、情報をほろぐらむ? にして出す。

 すると受付嬢は大きく目を見開いた。


「——B級!?」


 そう大きく叫ぶものだから、周りの視線が一気にわしに向いた。


「今、B級って聞こえなかったか?」

「あのジジイがB級? 冗談だろ」

「この中に鑑定が使える奴いるか? あの爺さんを鑑定してみてくれ!」


 と背後が騒がしくなってきた。


 なに、動じる事じゃない。

 誰か絡んでくる奴がおったら魔力を使って相手取るだけの事。

 それにわしは死なない。……筈じゃ。


 それよりもこの受付嬢に一つ文句でも言ってやらんといかん。


「お前さん、わしの個人情報を大声で言いふらすとはどういう了見じゃ?」

「は、はい! すみません、今度から気を付けますので……! どうか怒りを収めて頂けませんか!」


 受付嬢は少し震えた声音で、そして目に涙を浮かばせ身体を小刻みに震わせてそう言う。


「わしは特に怒ってなどいない。ただお前さんの不注意さが気になってお小言を言わせてもらっただけじゃよ」


 そう言ってわしは笑みを作る。

 すると受付嬢は震えながら安堵の息を吐いた。


 受付嬢が何故こんなに焦って怯えているのか、それはわしがB級だったことが大きな理由じゃろう。

 C級以上の冒険者は世間一般的に上級冒険者という括りになる。そしてステータスが運以外オール1000を超えてくる者が殆どだ。


 それは一体どういう強さかと一般的な魔族と同等かそれ以上の強さになる。

 兵や戦士、冒険者でない者が魔族に敵う筈もない。

 だから上級冒険者を怒らせる=死。の考えが一般的なのだ。

 それで受付嬢は怯えた。


 だが、もしそんな事を犯したとあらば直ぐに衛兵がやってきてわしの身柄は拘束されるだろうな。


 ま、わしに関しては全盛期にしてもB級の平均以下のステータスしか持っておらぬから大分弱い方じゃけどな。

 それに加えて今は死に際と老衰のせいでステータス爆下がりしておるからの。なんならステータスだけなら受付嬢の方が強かろうて。


 それでもわしに怯えてるという事はしっかり常識あるという事じゃな。

 基本的に年を取ってもスキルは弱体化しない。じゃから受付嬢はわしのスキルの事を考えて怯えておるのじゃろう。


 さて、わしが長いこと沈黙してしまったせいか、受付嬢がわしの様子を伺っているので、もうそろそろ本題の素材買取をお願いしようかの。


「して、素材出してええかの?」

「あっ、はい! どうぞお出しください」


 返事を聞いてからわしは【収納】からスモール・スライムの体液入り筒と、魔石、そしてラージマンティスの素材を取り出した。

 受付嬢はせっせとカウンターに置かれる素材を奥に持っていく。


 そして受付嬢が戻ってきたタイミングで言い忘れていたことを一つ言う。


「筒はできれば返してくれんか。まだ使うからの」

「分かりました!」


 そう答えて奥に引っ込んでいく受付嬢。


 因みに毒魔石はここでは売らない。商業ギルドの方が高値で買い取ってくれそうだからだ。


 すると後ろに誰かが近づいてくる気配がした。

 振り返るとそこに居たのはロタだった。


「爺さん、冒険者登録してきたぜ」

「そうか、良かったの」

「ファイアハウンドの素材は872リペで売れたぜ。これで弟に何かお土産を買って帰ってやれる」


 ロタはそう言って硬貨が入っているであろう麻袋を見せてくる。

 弟思いの良い兄じゃなぁ。


 そうじゃ、わしのこの街に滞在していた時の行きつけの果物屋に連れて行ってやろう。


「明日、果物屋に一緒に行かんか?」

「明日? 今日この街に泊まるのか!?」

「そうじゃ。我儘を言うのは儂じゃからもちろんロタの宿代も出すぞ」

「本当か!?」


 そう言ってロタは喜ぶ。

 すると受付嬢が戻ってきたのか「あの~」と恐る恐る声を掛けてきた。


「鑑定、終わったかの?」

「はい! えっと……」


 受付嬢は各素材の買取金額の明細を口頭で教えてくれる。


――――――――――――――――――――

 各種買取価格


・スモールスライムの体液一リットル 390リペ

・ポイズン・スモールスライムの体液一〇〇ミリリットル 120リペ

・G級魔石……一二個 480リペ

・F級魔石……一個 78リペ

・ラージマンティスの目……二個 32リペ

・ラージマンティスの鎌……二本 300リペ

・ラージマンティスの肉骨、内臓等 139リペ


 合計:1539リペ(手数料天引き済み) 

――――――――――――――――――――


 ふむ、簡単なF級討伐依頼の依頼一枚ほどのお金になったか。

 

 ここから体液を入れていたあの木筒を買うとすると、当時販売されていた時の価格は確か一本大鉄貨三枚。

 それを考えると少し心もとない金額じゃ。


「あ、あの、よろしかったでしょうか……?」


 わしがそう思考に耽っていると恐る恐る受付嬢が確認してくる。


「ああ、大丈夫じゃよ」


 そう言うと受付嬢はほっとした表情になり、カウンターの上に置いてあった綺麗に洗われた木筒を「これをお返しします」と一本ずつ差し出してくる。


「おお、洗ってくれたのか。有難うな」

「い、いえとんでもございません」


 わしはお礼を言いつつ【収納】に木筒をしまっていった。

 そして最後の一本をしまうと、受付所はずっしりとした麻袋を手渡してくる。


「こちら買取代金となります」

「ありがとう、ではまたの」


 わしはお礼を告げるとロタと一緒に冒険者ギルドを後にした。

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