第4話 じいさん、スライム狩りをする

「せいっ!」


 わしはスモールスライムに向かって突きを繰り出す。だがいとも簡単に避けられてしまった。

 的が小さい分当てるのは困難じゃが――。

 

「わしスモールスライムに攻撃すら当てられんとか嘘じゃろ……」


 普通に落ち込むわぁ……筋力値と俊敏値は少ないが、【杖術】の補正が掛かっているはずなのに当たらんとかマジぃ?

 しかもスモールスライムは攻撃が当たっとらんからか、わしの事ガン無視で雑草食べておる。


 こうなったら仕方ない、久方ぶりに魔力を消費して【杖術】の武技を使ってみるとしようかのう。


 雑草を体内で消化するスモールスライムに狙いを定め、その武技名を叫ぶ。


「【突きプッシュ】!」


 瞬間、先程の突きとは比べ物にならない速さでスモールスライムに杖先が迫る。

 

 ――パシャッ


 杖先がスモールスライムに触れた瞬間、水面に何かがぶつかったような音が生じ、そのままスモールスライムの体を貫通し、杖は地面に突き刺さった。そしてスモールスライムはぐったりと動かなくなった。


 すると身体に極少量の経験値が入った感覚がした。恐らく倒せたのだろう。


 わしは【収納】から予め家で入れていた、水入れ筒を三本と麻袋を取り出す。


 そして「よっこらせ」としゃがんで足が辛いのでやっぱり地面に座り、スモールスライムに筒を近づけ中に入れる。


 実はこのスモールスライムの体液、ギルドで売れるのだ。

 体液この筒一本分で確か大鉄貨一枚。二束三文だとも思えるが、塵も積もればなんとやらじゃ。筒二本分で干し肉一枚が買える。

 

 思ったよりこのスモールスライムはサイズが少し大きかったのか、筒四本分の体液が採れた。

 そして最後に残ったのは魔石。G級の魔物の魔石だ。


「久しぶりに見たが、G級魔石はちっこいのう」


 大きさは大体一センチほどだ。だがこれでも明かりの魔道具、1分分の燃料になる。そしてこれもギルドで売れる。G級の魔石なので大体大鉄貨四枚か。


 それを先程出した麻袋の中に入れる。そしてその麻袋をポケットにしまった。


 ふむ……先程発動させた【突き】。あれは自分の筋力の1.5倍の威力を出して突く技じゃ。消費魔力は2。普通の魔法よりかは効率は良いが、先程のように一々スモールスライムごときに魔力を消費していては、明日か明後日には魔力切れを起こすじゃろう。


 わしは死に際の状態について一つ気付いた事があった。

 状態:死に際だと魔力が一時間に1すら回復しない。老衰の時は一時間に1~5程回復していた筈なのにじゃ。

 おそらく死に際じゃと魔力が回復せん。じゃから今後は魔力の使用は避けなければいかん。


 今後は魔力を消費するスキルを使わず、スモールスライムを倒さねば。




 一時間後、わしは草を絨毯代わりに地面に座り、水入り瓶を片手に休憩していた。


「結局あれから11体しか狩れんかった……」


 結果合計四十本のスライムの体液入り筒と十二個の魔石。

 そして肝心のレベルは上がらなかった。


 使っていない筒の数ももう少ない。後一体狩って終わりにするか。


「よっこらせっと」


 掛け声を上げてわしは立ち上がる。

 さてどいつを狩ろうかと辺りを見渡した瞬間に見つけたのは、普通の半透明のスモールスライムではなく、薄い紫色のスライムボディに異常な消化スピード。


 間違いない、スモールスライムの一次進化先であるポイズン・スモールスライムだ。

 あやつは相手にしてはダメだ。今のわしでは魔力を使わずに勝てる相手ではない。戦ったらまず一回は死ぬじゃろう。


 他のスモールスライムを倒そう。


「……」


 待て、村の子供達はここを狩場にしているとか言っていたのう。あの子らにポイズン・スモールスライムと戦える見識とステータスはあるだろうか。

 いや、ないじゃろうな。


 万が一子供達に何かあっては大変だ。今のうちにこやつを仕留めなければ!


 ポイズン・スライム系の魔物はそいつを中心に毒性のある空気を纏っている。確かポイズン・スライムの表面にある毒性の液体が蒸発し続けることで纏っているらしい。

 吸えば呼吸困難に陥り、最悪死に至る。

 ポイズン・スモールスライムが魔物としての格はF級なのに、冒険者ギルドからE級指定の魔物だとされているのはこれが原因だ。


 倒し方としては基本的に遠距離攻撃が主流だ。近付くと毒性の空気でやられてしまうからじゃ。


 それと他に進化種がいないか念の為、周りを注意深く見ておこう。

 ……見渡す限り一体しかポイズンはいないようだ。他の進化種もいない。

 

「よし、倒すか」


 わしは【収納】から原始的な石槍を取り出し、地面に突き刺す。

 今の筋力ではこの槍ですら持てない。だから――


「力の根源たる我が魂よ、魔力を糧とし我の力を増幅したまへ――《身体強化〈1〉》!」


 魔力を10消費し、身体を強化する。

 本来詠唱は端折れるが、久しぶりの身体強化なのできちんと詠唱して発動する。

 そして、石槍を構え――


「【投擲】!」


 【槍術】の武技【投擲】。文字通り槍状のものを投擲し、その命中率と威力を上げる武技である。


 石槍は時速80km程の速さでポイズン・スモールスライムに向かって飛んでいく。

 そして、命中した。


 土埃が舞いあがり、ポイズン・スモールスライムが倒したか見えなくなる。

 だからと言って近づいてはいけない。まだ毒性の空気が残っている可能性がある。

 なのでここは仕方ない、風魔法を使って毒性の空気を晴らさせてもらおう。


「星を巡る空気よ、我が魔力を糧とし風の奔流を孕みし小さき球を生み出せ――《強風球ゲイルボール》」


 そう唱えた瞬間、魔力が掌の腹から外に抜けていく感覚と共に、掌の先に風が圧縮されたような玉が生まれた。

 それを土埃が舞いあがっている場所に向け放った。


 瞬間、《強風球》が着弾した場所を中心に強風が巻き起こった。

 そして一瞬にして土埃は晴れていったのだった。

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