第3話 じいさん、久しぶりに外に出る

 視線を日の光から自分の家に移す。

 久しぶりに外に出て自分の家を見た気がする。


「前見た時よりも壁の腐食が進んでいるのう……もう長くは住めんか」


 周りの家と見比べても我が家の方が腐食が進んでいる。それもそのはずか、この村で我が家は一番古い家なのだから。

 最近に至っては雨漏りが酷い。以前町まで赴いて桶を十数個買ったほどだ。


 まぁ以前と言っても、わしがこの村に戻ってきて一年ほど経った頃だが。


 それから少し庭の畑に目をやる。

 そちらもやはりと言うか、雑草が伸びたい放題に荒れていた。

 最後に畑をしたのはいつだったろう。二年ほど前だったじゃろうか。


 その時は薬草や食用の葉を育てていたなぁと思い出す。


 すると砂利道を駆ける足音が聞こえてきた。同時に子供がはしゃぐ声が聞こえてくる。

 老眼で少し遠くにいる子供達の姿がはっきりと見えなかったが、やがてわしの近くに子供達が集まってくると顔と名前が結びついた。


「リド爺、久しぶり~!!」

「おぉ、おぉ、久しぶりじゃのう。こんなに大きくなって……」


 わしの手でロズ、ベカ、ヘンリ、ササの頭を一人ずつ撫でる。

 約一年ほど前だろうか、この四人組の身長は高くてわしの腰くらいじゃった。でも今見れば胸くらいまでに身長が伸びている。

 この成長は目まぐるしいものがあるのう。


「あのね、あのね! 今日も私達、スライム狩りに行ってきたの! ほら、こんなにレベルも上がったんだよ!!」


 そう言ってこの中で一番の年長者のロズが元気よくステータスを開き、「見て見て!」と尻尾を振る犬のような幻覚が見える程の、キラキラした目でわしを見てくる。

 どれどれ……。


=====

個体名:ロズ 性別:女 年齢:10 種族:ヒューマン

称号:なし

Lv.7

HP:159/160

MP:180/180


筋力:11

頑丈:8

敏捷:12

体力:16

魔力:18

精神力:9

器用:19

知力:8

運:48


SKILL 【棒術/Lv.1】【剣術/Lv.1】

=====


 あれ? なんかわしより強くね?

 ……魔法さえ使わなければ普通に負ける強さじゃわ。これ。


「どう? どう?」

「うむ。筋力、俊敏、魔力の伸びがいいのう。ロズは将来魔剣士か」

「……本当!?」


 ロズは花開くような笑顔になって、他の子供達と話し出す。


「ね、聞いた!? 私の将来魔剣士だって!!」

「すげぇ!!」

「ロズ……なら、なれそう……」

「ねぇ、リド爺!! 僕も見て!!」


 いや、あくまでステータスの伸びからして適性があるかもって話なのじゃが……。後は本人の意志とセンスじゃな。

 

 わしはロズ以外の子供達からもステータスを見てほしいとせがまれ、順番に見て行った。




「じゃあの」

「じゃあね~! リド爺!!」

「またね~」「ばいばい」「……」


 皆思い思いに手を振り返してくれる。


「さて、行くかの」


 そう言ってわしは砂利道を歩き出した。

 目指すは北のレイニ草原。通称スライム草原と言われるところだ。

 そこはスモール系スライムが出現する草原である。


 スモール系スライムは軒並みG、Fとランクが低いので今のわしでも倒せる……はずだ。流石に森へ狩りに行くのは無理だろう。

 獣系の魔物が出て、エンドレスで死にに行くようなものじゃ。


 レイニ草原はこの村から割と近い。大体子供の足で20分。大人の足で15分ほどじゃろう。わしの足で行ったら35分かのう。


 そんな事を考えながら砂利道をえっこらえっこら歩く。


 それから10分ほどたつ頃、左の奥の草むらがガサガサと動いた。

 何か魔物が出てくるのかと思い、杖を構える。


 こんな道に魔物が……? 草原が近いからスモールスライムの可能性がある。それとも蟲系の魔物……? 獣系の魔物は流石に違うだろう。


 そんな事を思っている間にもガサガサ音は近付いてくる。

 

 そして草むらから現れたのは、何かを背負って四つん這いになった、謎に裸のロタだった。

 いや、なんで四つん這いなんじゃ。……いや、ある意味獣系じゃな。


「お? 爺さん、なんでここに」

「そういうロタこそ何故ここにおるんじゃ? そして何故裸」


 するとロタは背負っていた何かを下ろして、四つん這いの状態から立ち上がる。

 というかよく見たら背負われているのは、ファイアハウンドと魔剣ではないかの?


「いやぁ……実はな――」


 ロタ曰く、わしから魔剣を貰った後、調子に乗ってチツドの森に魔剣の力を試しに行ったそう。


 運悪く最初に見つけた魔物がファイアハウンドで服を燃やされながら倒し、血抜きをした後、其処らへんにあった枝や蔓で自分とファイアハウンドを固定し背負い、意外に重かったので四つん這いになって村に戻るところだったそうだ。


「阿呆じゃな」

「やっぱそう思うよな」


 わしは流石に裸で帰させるのはどうかと思い、【収納】からローブを取り出しロタに渡す。


「それを着て村に帰りなさい。流石に裸だと村の人に驚かれるじゃろうからのう」

「すまん、爺さん。本当にあんたには頭が上がらねぇよ」


 そう言ってロタはわしが来た道を歩いて帰って行った。


 昔から無鉄砲な奴だとは思っていたが、まさかあそこまでとはなぁ。


 そう思いながら歩く事約30分。

 わしはやっとレイニ草原に着いた。


 地平線が見える程広い草原だ。その草原にスモールスライムが闊歩している。

 ここのスモールスライムはダンジョンに居るスモールスライムと違って攻撃的ではない筈だ。


「よし、ぼちぼち狩るとしようかのう」


 わしはまず、近くにいたスモールスライムに対して杖で突きを繰り出すのだった。

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