一章 不老不死な日常

第1話 じいさん、不老不死になる

「汝、リドルに【不老不死】を与える。精々この人生を楽しむがよい」


 ベットに体を預け目を閉じた瞬間、真っ白な空間に立って居たわしは、突然そう声を掛けられた。


 俯いていた顔を上げると表情も何もない真っ白な人体模型のような生物? が目の前に立っている。


 目を細めると少し表情が読み取れたので、真っ白な人体模型ではなくこの生物が光り過ぎていて真っ白に見えているのだろう。


「お主は誰じゃ……?」

「我の名はバリオ。生命と時を司りし神の一柱だ」


 神……様か。

 ならば真っ白に見えていたのは単純に後光という事か。


「おぉ……神様とな。

 自分でいうのもなんじゃが、死に際のわしに一体どのような御用で? 

 …………そうか、わしはもう死んだのか」


 神様に用を聞いておいて少し頭を働かせると気付く。

 あ、これ、わし死んだんじゃね? と。


 ……今まで戦時だからと言って人、生き物を沢山殺めてきた。地獄なり、針の山なり連れて行ってくれと思う。


 現世に特に悔いは残っておらん。が、せめて孫の顔は見たかったのう。……弟子たちは元気にしておるだろうか。息子家族は……最近どうしているのだろう。

 スマリ達は生きているじゃろうか……。

 ……あ、後、ケリーちゃんの写真集買い忘れたなぁ。

 あ、そうそう。ジェントルマン(騎乗馬)の餌やりもしないとなだめだなぁ……。

 そいでもって――


「汝、現世に未練持ち過ぎじゃないか?」


 なんだか神様から白い視線を感じる。


「神様、もしや心の中が読めるのかの?」

「ああ、造作もない。……それでだ、汝に【不老不死】を与える。精々この人生を長きにわたって楽しむがよい。我は見ているぞ」


 はて、不老不死? 確か、これ以上老いず死なずのスキルじゃったか。それをわしに……? 


「それは真かの?」


 そう声を掛けた時には神様は既に霧散していた。

 そしてわしもこの空間から自分の存在が薄れるように、消えていった。




「んん、ん?」


 わしは眠りから覚めた心地で目を開けた。

 目に入ってきたのは見慣れたあばら家の天井。ただし室内はまだ真っ暗だ。まだ夜中なのだろう。


「今日も生きてる」

 

 後先短い命の一日を噛みしめるようにそう呟いた。


 目を閉じても眠れる気がしなかったので、「よっこらしょ」と手をついて上体を起こそうとする。だが力が入らない。


「ふんぬっ!」


 思いっきり力を入れて体を起こす。


 おかしい。今まではここまで体が重く、怠くもなかったはずだ。

 そう思い、異常状態に掛かっていないかとステータスを確認する。


=====

個体名:リドル 性別:男 年齢:76 種族:ヒューマン

称号:『逆境を跳ね除けし者』他4個

Lv.129

HP:678/12840

MP:2890/18370

状態:老衰 死に際


筋力:2(1310)

頑丈:1(1283)

敏捷:2(1378)

体力:1284

魔力:1837

精神力:2399

器用:4619

知力:1258

運:32


SKILL 【剣術/Lv.15】【槍術/Lv.7】【盾術/Lv.8】【杖術/Lv.2】【魔纏/Lv.MAX】【魔装/Lv.4】【気配感知/Lv.14】【魔力感知/Lv.9】【鑑定/Lv.9】【聞き耳/Lv.2】【威圧/Lv.17】【拡声/Lv.5】【収納/Lv.11】【不老不死】

=====


 なんじゃこりゃ。

 HPやら基礎能力値の三つが低い上に、状態:死に際……じゃと?

 それにスキルに【不老不死】とある……。あの夢は真だったのか。


 待てよ? わしの今の状態が死に際だとすれば、身体が思うように動かないのには納得がいく。がしかし、この状態で【不老不死】じゃったらわし、永遠と何もできなくない?? 普通に生き地獄なんですけどぉ!?


「ちょ、神様ぁああああ!?」


 わしは枯れた声でそう叫んだのだった。




 約一時間後、やっとの思いでベットから降り杖と生活魔法を駆使し、キッチンに辿り着いたわしは水瓶からコップで水を掬い、のどを潤していた。

 先程上体を起こしたときに気付いたが、異様にのどが渇いているし腹も減っている。


 因みにここへ来るまでの間二回ほど躓いて気絶したが、今思えばあれは死んでいたんだと思う。そして【不老不死】によって生き返ったと。

 そんな事を考えながら紐で吊るしてあった干し肉一枚を手に取り、齧る。


「固った!? なにこれ、噛み切れんのじゃけど!」


 無理やり嚙み千切ろうとしたら歯が折れるのは必至。

 仕方なく、肉がふやけるまでしゃぶる事になった。




「困ったわい、干し肉一枚食べるだけでここまで時間掛かるとなると日が暮れてしまう」


 一回の気絶を経て、ベットに座ったわしは頭を抱えてそう呟く。

 

「いや、じゃが時間の心配はせんでもいいのか……」


 わしは不老不死になった。じゃからこれからは殆ど時間の心配をしなくていい。


 そうじゃ、わしには昨日と打って変わって時間は沢山ある!

 このステータスの低下を治す方法を考えてみるのが最善。


 それにはまず老衰と死に際を治さなければいかん。老衰を治すなら若返りか? ……いや、流石に若返りは無理じゃろう。若返りのポーションとか高すぎて買えない。


 他の手段と言えば、レベルアップ。兵士をやっておった頃に本で『レベルアップをするごとに全盛期の肉体に近付く』という論文を見た事があるのを今思い出した。 


 うん。両方むりだな。

 こんな老体で戦えるわけがない。精々戦えてもG級くらいだろう。

 それにわしのレベルは約130ほどある。G級の魔物でレベル上げるのは経験値の実入りが少ない。現実的じゃなかろう。

 流石に無理じゃ無理。


 ……だが、いずれ家に置いてある食べ物も無くなり、買い出しに出ないといかんようになるじゃろう。

 水に関してはお隣のロタ君に駄賃を払ってお願いすれば汲んできてくれる。もしや買い出しもお願いすれば行ってくれるやもしれん。……金は掛かるが。


 そうやってお金を消費していれば、貯金もそこを尽きる。そうしたらこの身体で稼がなければいけない。


 息子家族には頼れんしなぁ……。娘には……同じか。


「むむむ……どうしたものか」


 やはり魔物を倒すしかないのかの? 塵も積もれば山となるというしのう。

 

「……決めた。この夜が明けたら数年ぶりの魔物狩りといこうかのう」


 わしはそう呟き、再び横になったのだった。

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