元英雄の爺さん、不老不死になる。 ~過去の未練を解消するため旅をしますが、なぜか厄介ごとが舞い込んでくるようです~ 魔王?貴族?そんなの知らねぇ
ボンジュール田中
第11星編①
プロローグ(本命の一話)
「中隊長の退役を祝って――」
馴染みのある顔が丸テーブルを囲んでグラスを持つ。
「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」
カチン、コチンとグラスが軽くぶつかる小気味の良い音が鳴る。
皆愉快気に口角を上げ、グラスを口元に運ぶ。
そして皆思い思いにグラスの中身を飲み始めた。
ここにいるのはわしの他に副大隊長のティーンスさんと副中隊長のリタ、小隊長のマクア、オペト、スマリ、ラージェだ。
大隊長は多忙のため来てはくれなかったが、ティーンスさんが代わりに来てくれた。一中隊長の為に態々来てくれる上官がいて、わしはとても恵まれているなぁとしみじみ感じる。
わしの退役を祝う飲み会が終盤に差し掛かってきた頃、ティーンスさんがわしに向かって真剣な顔で問うてくる。
「リドル殿、貴方は今後どうするのだね?」
「あっ、そうですよぉ中隊長!
僕らに今後どうするかくらい教えてくれてもいいじゃないれすかぁ!」
ティーンスさんの言葉に便乗して、スマリがグラスを片手にわしに覆いかぶさるようにして肩を組んでそう言ってくる。
随分と酒が回っているようだ。
「ベロベロじゃないかスマリ。もうちょっと自制をだな――」
「またそうやってはぐらかすぅ……中隊長と僕らの仲って仕事だけの仲だったんれすかぁ?」
「ぐぬ……」
やっぱり酒に弱いなこやつ。変にうるうるとした目でこちらを見てくる。
「わかったわかった。言うから自分の席に戻れ!」
「承知しましたぁ~! 中隊長殿!」
「あのなぁ……。わしはもう中隊長じゃないんじゃがなぁ……」
謎の敬礼をしてスマリが自分の席に戻っていく。
座ったのを見計らってわしは口を開いた。
「わしは別国の村――故郷の村へ帰ろうと思う」
「「え!?」」「ゴフッ」「へぇ」「ほう」
スマリ&ラージェの女性陣が驚き、オペトが咽てマクア、ティーンスさんが少し眉を動かし、ため息混じりにそう言う。
「何をそんなに驚くことがあるのじゃ?
わしが別国の村の出だと知っていただろうに」
「知っていましたけど……
息子さんが住んでいらっしゃるこのアターリアに留まるかと思ってました……」
ラージェがそう言って明らかにしゅんとする。
老いたわしをこんなにも慕ってくれる部下がいて本当に幸せじゃなぁ。
「ああ……息子に迷惑を掛けたくないからのう。
わしは一人で故郷へ帰ることにしたのじゃよ」
「そう、ですか」
ラージェの表情に影が差した。
「そんなぁ……毎日中隊長と話したいのにぃ……僕も中隊長の故郷に帰る!!」
「わしのような老人と喋っても何も面白いことはないぞ。それにお主の故郷は……」
ここまで言いかけて、自分がスマリに鋭利な言葉を突き付けているのに気が付いた。
「……すまぬ」
「そんなことないれすよぉ……僕、中隊長のお話好きれすよ?」
故郷のくだりは聞こえていなかったのか、それともスルーしてくれたのか。そう言ってスマリはにへらと笑って見せる。
その笑みに対して、わしは目を細め微笑みを作った。
「それにしても、そんな村なんかに行ったら退屈じゃないですか? 少なくとも俺は退屈で死んでしまうと思います」
オペトが話に割り込んでそういう。
「そんなことないじゃろ。わしは故郷でスローライフを送りたいんじゃよ」
「ではリドル殿はもうこのアターリアには戻ってこないという事ですか……」
ティーンスさんが残念そうに目を伏せ、グラスを呷る。
「ああ。じゃが一応わしの故郷の村の名前を教えておこうかの。
……ロベール村じゃ。ミベル草が特産の」
「あ! あそこなら半年に一度くらいならいけます!!」
「じゃあ今度、皆で中隊長の家に遊びに行きましょうよ!」
「「「「「それだ!!」」」」」
リタが言った言葉に対して、すごい勢いでわし以外の友人たちが同調する。
それから、あれよあれよと話が進んで四か月後にわしの家に皆が来ることになった。
……なんでそうなるのじゃ?
皆が村に来たら、絶対騒がしくなる気がするのう。村人に迷惑がかかりそうで心配じゃ。
それに小さな一軒家じゃからのう、客間を増設せねばいかんわい。
酔いが回ってきた微睡みの中わしはそう思った。
それから三十分も経たないうちに飲み会はお開きになった。
「中隊長~! 絶対行きますからね~!!」
スマリがラージェに肩を貸されながらそう言って大きく手を振る。
それに応えてわしも手を振った。
さて、これから寂しい旅になるのう。
――半年後、彼女らはやって来なかった。
しかし代わりにスマリから手紙が届いた。
読めば読むほど、わしの表情は曇っていったと思う。
内容はハッキリ言うと遺書じみていた。
手紙によると『口撃の魔王』の国が彼女たちの祖国、アルビア王国にまた侵攻を開始したらしい。それを迎え撃つためにスマリが所属している第三大隊が派兵されることになったとの事。
その後は近況と、わしとの思い出が綴られていた。
「全く、この歳になると涙脆くてかなわん……これでは折角の手紙がしわくちゃになってしまうわい」
何度も読み返していると、気付けば夜になっていた。
今すぐ加勢しに……助けに行ってやりたい気持ちもある。
だが、わしは現役を退いた身。
加勢したとしても盾になるだけ……いや、的になるだけだ。
戦力にならないだろう。
老いた自分が憎い。
未だに死に対する恐怖はないとは言い切れないが、家族のような彼女らを助ける為ならば命すら厭わないというのに。
ああ、老いない身体が欲しい。
わしは悶々とした気持ちを落ち着かせる為、横になった。
それから約十年の月日が流れ、わしは毎日のルーティンをこなしベットに横になった。
薄れゆく意識の中、最期に見えたのは妻の顔。
妻はわしに向かって微笑んだような気がした。
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