第4話「失態」
風見千歳。
表向きはアトラス学園高等部1年C組の単なる女子生徒。
裏の顔はアトラス島の政府組織の1つ【飛燕】の諜報部員。
そのため、目立たない学生生活を送っている……はずだった。
「ファンクラブ?」
「……はい」
才色兼備で隙のない完璧な千歳の唯一の欠点と言っていい。
それは周りからの評価に対する興味のなさだ。
「そういうのって都市伝説だと思っていた」
「私も思っていました。はぁ……なんで私なんかに」
「……」
マジで言ってるんだろうな。
見た目らクール系美少女だが中身は面倒見のいいタイプ。
監視対象という特殊な関係の俺ですら気づくレベルだ。
そりゃあ、他の生徒も気づいて人気が出るだろ。
「まぁ、風見が言い淀んだ理由もわかったが、今日のはちとやりすぎだと思うぞ」
「私も『天宮先輩の通い妻になっている』という不名誉な噂は耳にしてましたが、まさか過激行動に出る人が出てくるとは思いませんでした」
「日頃の不満がダダ漏れだぞ。通い妻どころか同居してるって知られたら本気でヤラれそうだな。……あぁだから帰りが遅かったのか」
「えぇ、真相を確かめるためにファンクラブの人の尾行を撒かないと面倒になると思いまして」
諜報部員が素人に尾行される。
口に出して笑ったらさすがに不機嫌になるよな。
「前も思ったが同居する必要あるのか?」
「天宮先輩? この1週間の行動を思い出してください」
「んー」
監視対象と自覚しながら1週間毎日無断で出かける&授業をサボる。
生活能力皆無なので家事を全てしてもらっている。
極めつけは自分の思考を探られたくないので適当に会話するか皮肉しか言わない。
何で千歳はストレスで禿げないのだろう……天使か?
「すみません私が間違っていました」
「わかってくれればいいんです」
なんていい笑顔をするんだ。
「実際問題どうすんだ?」
「現状維持しかないですね。それに単なる学生相手なら天宮先輩が怪我することはないと思いますし」
「何気に俺の評価高くね?」
「どちらかといえば他の生徒の戦闘能力が低いんですよ」
「そりゃあそうだろ。俺等は異能者って呼ばれてるだけで戦闘民族じゃないんだ」
ここアトラス島は異能を用いて武力を高めるのが目的ではない。
異能を用いてエネルギー問題等の社会問題の解決策を研究するために作られた。
つまり物語の世界みたいにバトル系学園ではない。
だからこそ今回のような事は珍しいし、俺みたいな過剰な能力は使用を制限されるし、監視もされる。
「はぁ……喧嘩なんてしないでくださいね」
「心配してくれるのか?」
「えぇ主に相手の方を。それと少し意外です」
「何がだ?」
「てっきり犯人探しをするものかと」
「唐突にミサイルぶっ放す相手だしな。面と向かって突っかかってくることさえなければ放置だな」
今日みたいな時と場所を選ばないのはやめてほしいが基本的に問題はない。
「なるほどそういう考えですか。まぁ、それよりも天宮先輩は考えないといけないことがありますしね」
「忘れれると思ったのに言うんじゃねえよ」
教室に戻った瞬間に味わった全員から受けるバケモノを見るかのような視線。
その中を涼しい顔でちゃんと授業を受けた俺。
マジで褒めほしい。
「どうやって教室を抜けてきたかと思ったらずいぶん派手だったんですね。いくら身体能力高い私でも空中ジャンプとか無理ですよ」
「トドメ刺しにくるなよ。俺だってやった瞬間に『うわぁ……』とか思ったんだから」
昔、『自由に空を飛べたらいいのになー』と思っていたときに『飛行は出来ないが無限に空中ジャンプできたら事実空を飛んでるのと同じじゃね?』と思い、やったら出来てしまった。
その癖がつい出てしまったのが悪かったのだ。
「まぁ、逆に良かったと思います。あれを見たら大概の人が天宮先輩の異能は脚力強化と誤認すると思いますし」
「リターンに対するリスクが釣り合ってなさすぎだろ」
「起きてしまったものはしかたないんです。切り替えて次に活かしましょう」
「さすが社会人様は言うことは違うな」
こうなったらとことん精神異常者を貫くしかないか。
「そんなに落ち込まないでください。今日は天宮先輩の好きなご飯を作りますから」
「ちょいちょい思うんだが。俺のことを食い意地張った子どもかなにかと勘違いしていないか?」
「おや、違いましたか?」
「……違わないが」
なんだろう。
この反抗したいわけじゃないが納得いかない感情は。
「何が食べたいですか?」
「焼き魚と煮物」
「だと思いました」
まぁ、美味い飯を前にしたら意味不明な感情は消え去った。
案外自分は単純なのかもしれない。
ブラン✝ノワール @haruto0712
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