第3話「異常」

 これ以上千歳の機嫌を損ねると不味いので授業に出席した……のだが。


――ねぇ、あの噂って……。

――しっ! 本人に聞こえるわよ。

――で、でも……。


授業中だというのにこの有り様。

 教師も特に注意することもなく淡々と授業を進める。

 ヘタすれば昨日よりも酷いが原因がわからない。

 授業内容を聞くふりをしてクラスメイト達の会話を聞いてもいいが下世話すぎる。

 時間が解決してくれるのを待つか。 

 何気なく窓の外を眺めようとたまたま横を見た。

 

 ――虫の知らせ。


 その言葉が脳裏に浮かんだ。

 眼前に迫るのは漫画みたいな大型ミサイル。

 狙いは……俺?

 考えるよりも身体が動く。

 窓を開け教師の静止を聞かずに外へ飛び出す。

 常人離れした肉体に初めて感謝し空中を蹴り屋上へ。

 被害を考慮して裏山へ翔ける。

 異能は使えない。

 海まで走って水中で受け止めるか。

「まったく、何してるんですか?」

 この異常事態に平常運転で並走してる千歳の異常度。

 安心と不安が同居している。

「見てわかるだろ。運動不足解消にランニングだ」

「変わった趣味ですね。で、打開策はお持ちですか?」

「ちなみに異能を使っていいか?」

「ダメです」

 ダメ元で聞いてみたがやはりダメか。

「なら、ないな。監視役殿どうにかしてくれない?」

「あなたの護衛は任務に入ってませんので」

「この仕事人間が!」

 フザけた会話しながら全速力で走っていてもミサイルを振り切れない。

 海辺に到着しブレーキをかける。

「離れてろ風見」

「そうさせてもらいます」

 相手は威力不明の誘導ミサイル。

 俺以外がいる教室に向かって打ち込まれた。

 それは俺以外に被害が出ないからできる芸当。

 尚且つ俺達の全速力で振り切れない。

 十中八九異能だ。

 対してこっちは異能抜きのみの強靭な肉体。

 やることは1つ。

「せいっ!」

 わざと足で受け止めて誘発し、爆炎が上る前に遥か上空に蹴り上げた。 

「ギリギリだな」

「いえ、体捌きだけでの対処お見事です」

「褒めるならその前に助けてくれよ」

 刺激的すぎて命がいくらあっても足りない。

「必要性を感じませんでしたので」

「ミサイルに狙われて必要性を感じないって」

「自分の異常さに気づいてください。どれだけ身体能力が高くても私達は人間。普通ミサイルを振り切る速度で走れません」

「それを言うなら平然と俺に並走した風見も異常だろ」

「なんせ異常者の監視役ですから」

「異能者の聞き間違いか?」

「いえ、異常者です」

「きっぱり言うな。ヘコむぞ」

「普段反省しないんですから存分にヘコんでください」

「酷い後輩がいたもんだ」

 砂埃を払い爆煙漂う空を眺める。

「で、説明してくれるんだよな?」

「……はい」

 千歳と知り合って1週間。

 喜怒哀楽が出にくいクールな印象の年下。

 その彼女がここまであからさまに表情を曇らせた。

 いったいどんな面倒事なんだろうか。




 

 

 


 

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