第2話「後悔」

 人間、後悔するとわかっていても行動することはある。

 バレるとわかっていても授業中にスマホをいじったり。

 怒られるとわかっていても馬鹿騒ぎしたり。

 一時の感情につき動かれる快感に勝てないことが「人は完璧ではない」と言わしめる要因だろう。

 

 結局、千歳にバレずに午後の授業をサボり、放課後特にやることもなく自宅の一軒家に帰った。

 しばらくして同居人である千歳が帰宅して数時間後にリビングへと呼ばれた……のだが。

「えーと……風見、さん?」

「何ですか?」

「……いえ、何も」

 千歳の前にはいつも通りの美味しそうなご飯。

 それとは対照的に俺の前には白米のみ。

 明らかな怒りのメッセージ。

 つまり午後の授業をサボったことはバレたのだ。

 ここで「俺は『考えとく』と言ったはずだ」と主張しても無意味どころか明日のご飯が危うくなる。

 三大欲求の一つを握られているのに反抗した罰だ。

 甘んじてこの白米を受け入れる。

「で、午後の授業を受けなかった理由は何ですか?」

「いやー……」

 あの後一応教室に戻ったが、やはり視線が煩わしかった。

 しかも、午後の授業は実技。

 どちらにしろ特別待遇の俺は独り授業になる。

「どうでもいいことは話すのに。自分のことになると極端に話さないんですね」

 千歳はため息を吐きながら立ち上がるとキッチンから俺用のおかずを出してくれた。

「シャイなもんで」

 手を合わせ直して食事を続けた。

「こんな図太いシャイな人を見たことないんですが」

「美味いものには誰も逆らえないからな」

「なら、それを作った人にも逆らわないでください」

「それは難しい問題だな」

「どうやら明日は日の丸弁当が食べたいようですね」

「やめろ。その脅しはかなり効く」

「効いているようには見えませんが」

「そうか?」

 まぁ、効いている素振りを見せたら効果的に使われるだろうからな。

「もういいです。冷めないうちに早く食べてください」

「なら遠慮なくいただこう」

 実際のところ千歳の料理はかなり美味い。

 しかも、この数日で俺の反応を見て好みを把握し、調整してくる始末。

 本人は否定すると思うが将来いい嫁になるタイプだな。

「時に天宮先輩」

「なんだ風見後輩」

「私以外の下級生と面識はありますか?」

「下級生どころか。同級生ともちゃんとコミュニケーション取れていないのだが?」

 なんだろう言ってて悲しくなってきた。

「……そうですよね。忘れてください」

 納得されるのも心外だ。

 第一印象さえ普通なら今頃友達の一人や二人出ている……たぶん。

「何かあるのか?」

「あくまで噂ですが。天宮先輩を闇討ちするという話がありまして」

「それは穏やかじゃないな。原因は何なんだ?」

 この島に来たのはつい先日のこと。

 その間に面識のある下級生は千歳以外はいない。

「……」

「え? 風見が言い淀むとか怖いんだが」

「あくまで噂なので気にしないほうがよいかと」

「待て。その口振りは原因に心当たりあるやつだろ」

「私は風呂に入って寝ます。おやすみなさい」

 追及する間もなく逃げられる。

 ちゃんと教室内にいれば耳にするだろうか。

 そう思っていた次の日。

 俺はその噂を目の当たりにすることになった。

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