第1話「憂鬱」

 確かに俺は「退屈」だと嘆いたことはある。

 ファンタジー小説を読んで「こんなこと現実に起きたらいいのにな」と願ったこともある。

 別に不満があったわけじゃない。

 ただ自分の人生に興味が持てない。

 永遠の眠りについても後悔はない。

 そう言い切ってしまう程に生きることはどうでもよかった。

「そう思ってたんだけどな」

 屋上で寝転んで空を見上げる。

 当たり前だが何処にいても空の景色は変わらない。

 太陽の光と青い空と白い雲。

 安心感を得て起き上がると眼下に広がるのは見慣れないファンタジー学園にありがちな西洋風の校舎。

 アトラス学園高等部2年A組。

 それが今の俺の肩書き。

 異能と呼ばれる不思議な力を学ぶために特別待遇で編入したが、精神的に参ってしまったのでサボっていた。

「私に対して嫌がらせですか?」

 そういう時に限って千歳は場所を特定するのが早い。

 普段は気が利くのに間の悪い子だ。

「一応連絡入れただろ?」

「だからといって『はいそうですか』と言える立場ではないんです」

「面倒な立場だな。疲れないのか?」

「どこぞの先輩がちゃんとしてくれれば疲れません」

「困った先輩がいたもんだ」

「ええ、本当に」

 この1週間で俺のことを理解したのか。

 咎めもせずに横に座る。

「そんなにサボっていたらテストが大変そうですね」

「これでも座学は優秀でな」

 16年間データと書物だけが暇を潰してくれた。

 そのせいで座学関係は授業を受けなくても問題はない。

「実技の方は風見がいないところではできない」

 俺の異能は扱いが難しく危険度が高い。

 そのため、このアトラス島でも制限がある。

 破れば今よりも不自由な生活になるだけでなく、最悪の場合は◯刑。

 そして何より監視役である千歳に迷惑がかかるのは間違いない。

「まぁ、それがサボる言い訳にしかならないがな」

「わかっているなら授業を受けてください」

「考えとく」

 既に迷惑をかけているのは御愛嬌。

 ただあの複数の種類の視線が感じる空間は苦手だ。

 腫れ物を扱う視線。

 好奇心の視線。

 そして邪険に扱う視線。

 普通の人なら精神的ストレスで吐くほどの出来事。

 それを単なる苦手で済ます自分は少数派と自覚はしている。

「そこで嘘でも『わかった』とは言わないんですね」

「冗談は言っても嘘は言わない主義でな」

「それはよい主義で」

「だろ」

 独りでいることを苦に思ったことはない。

 話し合いでいると時間が早く過ぎていく。

 これはこれでいいものだ。

 気づけばもうすぐ午前中の授業が終わる頃になっていた。

「午後の授業はちゃんと出るよ」

「そうしてください。それとこれを」

 渡されたのは弁当箱が入った包み。

「ちゃんと午後の授業は受けてくださいね」

 チャイムが鳴る前に千歳は教室へ戻っていく。

 弁当箱の中身は和食中心。

 しかも、俺の好物ばかり。

 それを見て感じたのは彼女の気配りよりも、「サボったらわかってますよね?」という脅し? だった……。

 

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