ブラン✝ノワール

@haruto0712

*Prologue

「またここですか」

 古びた教会のある岬で夕日を眺めていると後ろから声をかけられる。

 ここ1週間で一番聞いた声の主――風見千歳は呆れた様子で横に立つ。

 昨日まで怒っていたのに諦めたか。

「いい場所なもんでな」

「それには同感ですが。勝手に行かれるのは困ります」

「何だ誘って欲しかったのか?」

「……」

 年下に皮肉を言うとここまで冷めた視線を向けられるのか。

 覚えておこう。

「悪いがもう少しだけ待ってくれ」

「はい」

 写真や映像では切り取ることができない感動。

 儚さと尊さ。

 何度この景色を見ても飽きないだろう。

 この場所を押してくれた千歳には感謝だな。

 夕日が沈みきったので来た道を戻る。

「……和食でも作りましょうか?」

「別にホームシックとかじゃねえよ。ありがとな」

 優しくて気の使えるいい子。

「天宮さんの食事管理も任務ですので。お礼を言われても困ります」

 何で彼女が俺の――天宮終夜のなんだろう。

「それでもだ」

 この島で俺は余所者扱い。

 素性を知っている人からは危険人物扱い。

 別に他人からの評価や態度はどうでもいい。

 ただ千歳のような子が特別に見えてしまう。

「何を笑っているんですか?」

「特に理由はない」

「変な人ですね」

「あぁ、よーく知ってるよ」

 人間生きていればしんどいときや◯にたくなる時がある。

 どうしようもない負の感情が押し寄せて沼にハマったように抜け出せない。

 そんなときたった1つ……たった1つの"特別"が救いとなる。

 その特別が島に入った時点で隣にいる。

 俺は幸せ者だな。

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