第2話 彼女の秘密

目の前に現れた初恋相手、白宗ハク。彼女の手には刀が。

「その姿は…!」

「今はいい!私の後ろに来い!」

「う、うん」

俺は彼女の後ろに付き、背後で見守る。彼女は持っている刀でバッサバッサと黒い敵を薙ぎ倒していく。なんかすごい、色々渋滞しちゃっている。黒い敵とか白宗さんの事とか…!

「あの黒いのは?」

「あれは黒騎士(ブラックナイト)という奴らでな…。奴らは影から生まれ、光の世界を侵略する」

「黒…騎士ぃ…。あ〜さっぱりだ!!」

「ハハッ…だろうな…」

彼女は俺の方を向き、軽く笑う。もう本当に頭がパンクしそうだ。


俺たちは一度、日が当たる場所まで行き、立ち止まる。

「もう…厄災は去った」

俺たちは息を切らし、安堵する。これが非日常というやつか…。夢か現実かわからない中、彼女が口を動かす。

「その…あれだが…今日のことは…見なかったことにしてくれないか?」

「……え?」

「今日のことは…他言無用だ。私達だけに留めておこう。さ、帰ろう…」

「そうしたいけど…色々教えてよ…。このままハイそうですかって帰れないよ…!」

そういうと彼女は少し俯き顎に手を当てる。俺は説明無しに帰ってモヤモヤしたくはないからな。

「確かに…。それもそうだな。ここで話すのもあれなので行くとするか?私の住処に…」

「え、住処って……家ってこと…!?」

俺は驚き、少し大きな声を上げ、さっきまでの雰囲気は一気に吹き飛んでいった。そして俺は今から好きな人の家に行こうとしている。今も尚、夢か現実かわかっていない。現実であることを祈りたいし、夢であることも祈りたい。それくらいおかしいことが今この場で起きている。まぁとりあえず家に行くか……!


学校から約10分のところにある2階建ての家。しかも結構な広さがある。俺の家なんてアパートだしなぁ…いつかこういう家に住んでみたいものだ。

「さ、上がってくれ」

家の前、彼女は俺を家に入れるように促し俺は足を踏み入れる。中は以外に暗く、辺りがあまり見えない。俺は靴を脱ごうとした瞬間、彼女に止められる。

「土足で結構だ」

「え?アメリカンなんだな…」

「まぁそのうち分かるさ…」

彼女はニヤリと笑い、玄関近くにある階段で2階へ上がっていく。俺も彼女の後ろに付き、共に階段を上がる。2階に上がった瞬間、一気に家の印象が変わった。

「ここは…!」

そこはアニメなどで見るような風景であった。薄暗い部屋にモニターやPCの明かりが灯る、夢のような場所…。アニメ好きとしてはたまらない。

「すっげぇ…!!」

「ここが私の所属する特殊武装団体エコーズの本部だ」

「………ん?特殊…ん??」

彼女の言った言葉の意味を理解できずテンパる俺。

「ここは白宗さんの家なんでしょ?…だめださっぱりわからない」

「ハハッ…!ここは政府公認特殊武装団体エコーズと言って、さっき戦った黒騎士の殲滅を目的とした組織でな。私には家がないのでここに住んでいる」

「なるほど…。あんまり理解できないけど凄いってことは分かった」

「そして私は…エコーズに所属している、電脳少女第1号機…白宗ハクだ」

電脳…少女…。初めて聞く言葉に耳を疑ったが俺は不思議と理解していた…。

「少し、私の話をしてもいいか?」

「う、うん。ぜひ聞いてみたいよ…!」

俺は彼女が話すことを承諾し、息を呑む。

「私は電脳少女と言ってロボットのようなものなんだ。この両腕と両脚は筋電義手と義足でな。でも胴体と顔は普通の人間と同じなんだ…」

「そ、そうなの!?なにがあって…?」

「そうだな…これはもう十年も前の話になる。十年前私の住んでいたところにとある殺人鬼たちがいた。彼らは…カタギリ親子。ある日、私の家は…奴等に襲撃されたんだ……。それで私の両親は死んだ。私が家族の仇を撃つ。そう決めたんだ」

なるほど、だから義手義足なのか。そして彼女の言葉に聞いたことのない人の名前が出てきた。カタギリ?

「そのカタギリって言うのは…」

「カタギリは今も尚この世の何処かで生きている。私には分かる…近くに居る気がする………!」

彼女の目は憎しみに満ちていた。彼女が発する一言に重みがあり、空気はどんよりとする。

「あ、すまない。変な空気にさせてしまったな…!エコーズのメンバーは私以外に彼らもいる」

彼女が指をさすその先には何人かの男女がいた。

「この人は工藤さんだ。エコーズ情報部長だ」

タバコを片手に俺たちを見つめ、軽く手を振る。年齢は俺等よりはるかに上そうだ。…30後半かな…?

「よろしくね…えぇと…」

「木城マサムネです…よろしくっす…」

「マサムネくんね…よろ」

「そしてこの人は情報部の有野さんだ」

タイピングをしていた手を止め、俺を見つめる男性。若そうですげぇいい人そうだ…。

「あっよろしくお願いします!」

少し慌てた様子で俺に挨拶をする。俺も挨拶を返し、会釈をする。なんか雰囲気いい場所だなぁ…。

「やぁ…見ない顔だね」

「え、」

その時近くから誰かの声が聞こえた。優しい声…。誰だ?ふと横を振り返ると、メガネを掛け、白衣を着た中年男性が立っていた。この人が声の正体。

「あなたは…?」

「あぁ、これは失敬。私はアルハイム・ヴァンシュタイン。ここの研究員でね」

「木城。彼が私、電脳少女を作った人だ」

え、マジ?すっごい人じゃん。

「木城マサムネです!よろしくです!」

思わず元気いっぱいに挨拶をする。この人が…白宗さんの腕や足を作ったのか…!くぅ〜偉大だぁ。すっごい偉大だ!アルハイムさんはメガネをくいっと動かし、手を後ろに組む。もう立ち振舞がカッコいい気がしてきた…。

「あ、そうだ木城。今ここにはいないんだがエコーズのリーダーを紹介しておこう。ココの総督は榊原さんと言うんだ。いつか会えると思うから、またその時にも紹介しよう

「ありがとう、白宗さん。…色々な人がいるんだね」

「今紹介した人以外にもたくさんいるぞ」

あんな怪物倒すだけなのにこんなたくさんの人が関わっていると思うと考え深いな…。俺も……。

「白宗さん…すごいね」

「何がだ?」

「普通の人じゃできない事をやってるんだから…。俺は何もできないのに…」

「…そんなことはないさ。私は自分の仕事をしているだけだ。別に恐怖心がないわけでもないし、やりたいわけではない。でも…これが私に与えられた役割なんだ。学生が宿題をやるのと同じような…」

彼女のその言葉は…俺を檻の中から開放させてくれるような…そんな言葉だった。人よりも1番辛い思いをしてきた彼女だからこその言葉であった。俺は家族が殺されたなんて経験はないさ。でも、今なら分かる気がする。…俺の心の中の何かが吹っ切れた気がした。

「俺…ココに入ってもいいかな…?」

「……おすすめはしないぞ?なんせ君のような一般人が入るような所ではないからな」

「俺は…守りたい…!」

彼女は腕を組みながら、壁により掛かる。俺のことを全く見ずに。

「白宗さんのこと……守りたいんだ……!」

そう言い放った瞬間、彼女の顔色が変わる。閉じていたまぶたをゆっくりと開き、俺の方を見つめる。

「守る……?私を?」

「…うん。微力ではあるけどさ」

「……なぜ木城が私を?」

「だって…俺は……白宗さんのことが…………。す、好きだから……だよ…………!」

その言葉、伝えるのに実に10秒くらいかかっていた。俺の顔はみるみる赤くなっていき、目が見れなくなってきた。

「その……今のは……どういう意味……だ??」

「あっ!その…え〜と…。ま、間違い?」

「プッ!アッハッハ!!…面白い!!何故か分からんが…君と波長が合いそうな気がする」

彼女と俺との距離はだんだんと近づいてくる。…や、やばい……!目が合わせられない……!

「木城…今日から君はエコーズのメンバーにする」

「ちょっとハク?それは勝手すぎるんじゃない?榊原さんに怒られるよ?」

工藤さんが呆れた態度で言う。だが、彼女は動じず、堂々としている。

「大丈夫です。私が説得します。でもその代わり…使えなかったら切り捨てる」

「俺はもう、それほどの覚悟はできてる…」

互いにじっくりと睨み合う。気づけば目があっていた。まだどうなるかは分からない。でも俺は思う。この彼女を守って、恋を実らせる。それが俺の夢である。そして彼女は仇を撃って、この街の平和を取り戻す。それが2人の目標である。おれはどっちも必ず達成させる。彼女の目標は俺の目標でもある。

ーーーつづくーーー

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