第4話 くらぶはうす

 東京の中心のさらに中心、無個性が集まり個性に浸る。そんな場所に来ていた。

 クラブハウス、喧々と音楽が鳴り響き、大量の人間が同じような踊りを踊る。個性に憧れる無個性が、自分が特別であると思える非日常に浸るための場所、そんなところに来た。

 こういう場所はボディガードが居るから入りづらいと思うんだけど、どうやら本当にボクは気にされないみたいだ。見えてはいると思うんだけど、あたかも当然かのように中に入ることが出来た。

 中は薄暗いが色鮮やかな照明で照らされており、どことなくアウトローな雰囲気が漂っている。非日常を体験しに来た無個性の束は踊ったり、お酒を飲んだりと各々の世界を享受していた。


「踊りに来たのですか?」

「まさか、そんな気持ちはないよ」

「ずっと思ってたんだ。楽しいところで大人数の前でぐちゃぐちゃにしたいなって」


 飲み終わったグラスを手に持った。グラスはあっという間にボクと同じような色合いに変わった。その現象を見てピンと来た。


「えぇ、貴方の考えている通り、何でも出来ます」


 折角だし景気よく、可愛いナイフでぐちゃぐちゃにしたい。

 少し欲を念じると手の中に想像通りの愛らしいデザインのナイフが現れた。そのナイフを握り締めて、ゆらゆらと蜃気楼のように踊る人の中に紛れていく。

 ナイフを握ってやると決めたからか、周りの人はボクのことを認識してザワザワと噂を始めた。一人、髪にパーマをかけた、どこかで見たことがあるような男がボクの前に出てきて、何やらナンパのような文言を口にしてきた。

 ボクはすぐにナイフで喉を切り裂く。真っ赤な血が吹き出し、空を彩った。

 彼の終わりと共に音楽が切り替わる。重低音から軽快でポップでキラキラした音楽。今のボクを象徴するかのような音楽を背に、踊るように蝋燭を吹き消していく。

 彼らの魂を元ある場所に返してあげる。それも、彼らが劇的に終わることが出来るように、最上のエンディングで終わらせる。

 ナイフを使って踊るように切り裂き、ウエディングケーキのようなハンマーで押し潰し、ぎらぎらと光るゲームのような槍で貫き、幻想世界のような鮮やかな剣で二つに下ろす。


 派手で、華麗で、軽快で、ポップで、美しく、可愛らしく、幻想的で、全ての人の目を引き、踊るように歌うように彩るように飾り付けるように、ボクが思い浮かべる最高終幕で、地面に生い茂る雑草たちを可憐な個性へと仕立て上げていく。

 次第に地面は綺麗な赤色で彩られ、その場にいた人たちはボクの個性に魅了されて抵抗すら出来ずに消えていった。


「満足ですか?」


 どこからともなく現れた悪魔がボクに微笑みかけたような気がした。

 ボクはこれまで浮かべたことがないほどの最上の笑みを浮かべた。


「こんなに楽しいんだね。個性があるって」

「でも、まだ、まだまだ、したいことがあるんだ」


 悪魔はクルクルとカメラ動かしたかと思うと、驚いたと言わんばかりに両手を口の位置に置いた。


「まだ楽しめそうですね」

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