第34話 かつて戦場だった場所
正暦1011年10月23日 ノルデニア王国フレベルグ近郊 とある街
その日、街中のレストランにマリアの姿はあった。
「ここに、かつて39連隊が屯していたのね…」
その呟きに、隣に立つラーベは小さく頷く。普通、侵略者側のそれも宗教や民族を差別してくる側のラティニア軍は蛇蝎のごとく嫌われるものだが、治安維持を担当していた陸軍部隊の指揮官と、空軍第39戦闘攻撃飛行連隊の戦闘機パイロット達は、気さくな人達であった事や、逆にラティニア軍将兵の非行やら現地住民への暴行を阻止する側であった事から、ラティニア人にしては余り嫌われていなかったという。
「いらっしゃい…おや、これはこれは、英雄の『渡り鴉』のお二人ではありませんか。何用で御座いますかな?」
店主が愛想よく迎えてくる中、マリアは壁の一面に目を向ける。そこには幾つもの落書きやら、写真やらが貼られている。
「…ラティニア軍が遺したもの、ですか」
「ええ…侵略者に侵された証拠とでも言いましょうか。ですがブレーンの旦那や39連隊の方々はラティニア人とは思えぬぐらいに親切でしてね。こればかりはちゃんと残しておこうって、店の皆で決めたんですよ」
「成程…この中のエースは、私と何度も対決した事がある。強敵だったよ」
マリアはそう言いながら、一番多くの敵機を墜とした証拠である、大量の航空機の絵が描かれた壁をなぞる。恐らくその中には、かつて自分の上司だったフクス1のそれも含まれているのだろう。だが何故か、恨みの感情は沸いて出てこなかった。
「しかし…ウチの娘も随分と変わり者だ。この前まで、この店でハーモニカ吹きの坊やとともに手伝ってくれてたんですがね。軍がフレベルグを解放した後に、西の方へ勝手に行っちまいやがったんですよ。多分ブレーン大尉の後を追って行ったんでしょうね。あの二人、ブレーンの旦那とかなり仲が良かったものですから…ええ…」
「ブレーン…ナドレア地方で我が軍を苦戦させたという知将ブレーンか…」
・・・
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